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第三章 物と付喪神
30.けがの功名……?
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男たちの話し声が聞こえなくなったところで、颯馬くんはくるりと振り向いた。
その顔はひどく真剣で、私は思わず足を止める。
「雪乃、椿の間はこっちじゃない」
「……へ?」
私の周りでだけ、時間が止まったような気がした。
「あ、そうなんだ!?あ、あはは、よく考えたら私、椿の間がどこにあるか全く知らなかったな……」
一瞬で顔が赤くなるのを感じながら、私はなんとか笑った。
(そういうことは早く言って!?一条くん何も言わないで進むから、こっちだと思ったよ……)
笑われることを覚悟したが、予想に反して颯馬くんはひどく優しい笑顔を浮かべていた。まるで日なたの木漏れ日みたいに暖かくて、私は違う意味でドキドキしてしまった。
「ありがとう、雪乃。嬉しかったぞ」
「……ど、どういたしまして?」
なんだかすごくいたたまれなくなって、私はそう言うのが精いっぱいだった。
「ちょっと、ぼくたちもいるんだけど」
まっすぐ颯馬くんの顔を見られなくなった私を、アキくんがとても良い笑顔を浮かべて背中に隠してくれた。
「というかユキ、さっき一条くんって言わなかった?」
後ろから、不満そうな声が聞こえた。
しまった、後ろには白鳥くんがいるんだった!
「この間、名前で呼んでって言ったよね?その感じじゃ、オレもどうせ”白鳥くん”なんでしょ」
ぎくりと身を固くした私に、じとりとした視線が刺さる。全く誤魔化せてなかった。
白鳥くんは苗字で呼ばれるの好きじゃないって言ってたから、余計に気にしているのかも。
「で、でも……」
「あーあ、オレ、悲しくてユキが名前を呼んでくれるまで毎日会いに行っちゃうかも。C組に」
脅迫だ!
そんなわけないと否定したいが、お二人はすでに突撃してきた前科がある。綾小路さんの冷たい視線を思い出して、私は真剣に悩んだ。
「………………わかったよ、桜二くん」
仕方がない。
学校で会わなければ、そして私が名前で呼ばなければいいんだ。毎日C組に来られるよりずっとマシ。
私があまりにも苦い顔をしていたからか、白鳥くん……じゃない、桜二くんは声を上げて笑った。
「あははっ、すっごい渋々。でもオレ、そういうの嫌いじゃないよ。むしろ好きかも」
私を覗き込むようにして、桜二くんはクスっと笑った。
(……からかわれている)
もしかして女の子はみんなそう言っておけば機嫌が直るとでも思っているのだろうか。そう考えるとムカついてきたので、私は桜二くんをにらんだ。
「ははっ、ユキはかわいいね」
ダメージを受けたのは私だけだった。
初めてアキくん以外の男の子にそう言われたから、どう反応すればいいかわからなかった。それよりも赤くなった顔を見られたくなくて、私は少しうつむく。
(”白鳥の話は半分冗談でできてるから本気にしない”っててアキくんが言った理由、分かるかも……)
もうこうなったら、颯馬くんってどうどうと呼んでやる。他の女の子に詰め寄られて後悔すればいいんだ!
「もう、この話はこれで終わり!早く椿の間に行こうよ!」
少しだけ照れてしまったことが悔しくて、私は無理やり話をそらした。
桜二くんはいまだに笑っているままで、声を震わせてこっちだよと教えてくれた。もうこれ以上は何も言わないからね!
その顔はひどく真剣で、私は思わず足を止める。
「雪乃、椿の間はこっちじゃない」
「……へ?」
私の周りでだけ、時間が止まったような気がした。
「あ、そうなんだ!?あ、あはは、よく考えたら私、椿の間がどこにあるか全く知らなかったな……」
一瞬で顔が赤くなるのを感じながら、私はなんとか笑った。
(そういうことは早く言って!?一条くん何も言わないで進むから、こっちだと思ったよ……)
笑われることを覚悟したが、予想に反して颯馬くんはひどく優しい笑顔を浮かべていた。まるで日なたの木漏れ日みたいに暖かくて、私は違う意味でドキドキしてしまった。
「ありがとう、雪乃。嬉しかったぞ」
「……ど、どういたしまして?」
なんだかすごくいたたまれなくなって、私はそう言うのが精いっぱいだった。
「ちょっと、ぼくたちもいるんだけど」
まっすぐ颯馬くんの顔を見られなくなった私を、アキくんがとても良い笑顔を浮かべて背中に隠してくれた。
「というかユキ、さっき一条くんって言わなかった?」
後ろから、不満そうな声が聞こえた。
しまった、後ろには白鳥くんがいるんだった!
「この間、名前で呼んでって言ったよね?その感じじゃ、オレもどうせ”白鳥くん”なんでしょ」
ぎくりと身を固くした私に、じとりとした視線が刺さる。全く誤魔化せてなかった。
白鳥くんは苗字で呼ばれるの好きじゃないって言ってたから、余計に気にしているのかも。
「で、でも……」
「あーあ、オレ、悲しくてユキが名前を呼んでくれるまで毎日会いに行っちゃうかも。C組に」
脅迫だ!
そんなわけないと否定したいが、お二人はすでに突撃してきた前科がある。綾小路さんの冷たい視線を思い出して、私は真剣に悩んだ。
「………………わかったよ、桜二くん」
仕方がない。
学校で会わなければ、そして私が名前で呼ばなければいいんだ。毎日C組に来られるよりずっとマシ。
私があまりにも苦い顔をしていたからか、白鳥くん……じゃない、桜二くんは声を上げて笑った。
「あははっ、すっごい渋々。でもオレ、そういうの嫌いじゃないよ。むしろ好きかも」
私を覗き込むようにして、桜二くんはクスっと笑った。
(……からかわれている)
もしかして女の子はみんなそう言っておけば機嫌が直るとでも思っているのだろうか。そう考えるとムカついてきたので、私は桜二くんをにらんだ。
「ははっ、ユキはかわいいね」
ダメージを受けたのは私だけだった。
初めてアキくん以外の男の子にそう言われたから、どう反応すればいいかわからなかった。それよりも赤くなった顔を見られたくなくて、私は少しうつむく。
(”白鳥の話は半分冗談でできてるから本気にしない”っててアキくんが言った理由、分かるかも……)
もうこうなったら、颯馬くんってどうどうと呼んでやる。他の女の子に詰め寄られて後悔すればいいんだ!
「もう、この話はこれで終わり!早く椿の間に行こうよ!」
少しだけ照れてしまったことが悔しくて、私は無理やり話をそらした。
桜二くんはいまだに笑っているままで、声を震わせてこっちだよと教えてくれた。もうこれ以上は何も言わないからね!
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