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第一章 初めての依頼
18.二人の話
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帰り道、アキくんは私に颯馬くんと白鳥くんのことを簡単に教えてくれた。
「仲いいわけじゃないから、当たり障りないことしか知らないけど」
「ううん、それでも嬉しいよ!私、二人のことは何も知らないから……」
まず、私の想像以上に一条家が凄い家柄だった。なんでもグループ企業が世界中にあり、もとは有名な華族であったらしい。颯馬くんはその直系の跡取りで、小学生のころから人気者だったとのこと。
「いい奴だとは思うけど、あんなイノシシが文武両道の貴公子っていうのは納得いかないよねぇ」
逆に、白鳥家は海外で活躍しているIT系のだそうだ。他にも電気製品業にかかわっているそうで、白鳥くん自身も電子機器に強いらしい。
あまりにも遠い世界の話で、私はただ相槌を打つことしかできなかった。
「あとこれが一番大事なんだけど、白鳥の話は半分冗談でできてるから本気にしないこと!一条も天然ボケしてるところがあるから油断できないよ!」
「それじゃろくに会話できないよ……」
少し頬を膨らませたアキくんだけど、すぐにその顔が伏せられた。ふわふわの髪が顔に影を作って、表情がよく見えない。
「だから本気にしなくてよかったんだよ、あんな話。一条には悪いけど、どう考えてもきな臭いじゃん。半年も見つからないなんて絶対におかしいよ」
「でも、一条くんは本当に困ってた。ひいおばあちゃんとの思い出の物だよ。見つけてあげたい」
「もうないかもしれないのに?」
「うん。たとえ見つからなくても、行方はわかると思うの」
正直、これに関しては結構自信がある。物探しはおばあちゃんの家でも何度かやったことがあるから、颯馬くんの頼み自体は難しいことじゃない。
一条家にある他の付喪神に聞いて回れば、何か得ることはできるはず。
「馬鹿にしないで、私の話を信じてくれた人は初めてなの」
名前も知らない私に頼るほど困っていたのに、決して誤魔化したり、無理強いをしなかった。白鳥くんだって本気で一条くんのことを心配していたのに、私の気持ちを尊重してくれた。鋭いけど、無神経に踏み込んでくるような人じゃない。
それが、私の心を揺さぶった。
(もう二度と会えない人が遺してくれたはずの物が無くなるなんて、ずっと自分を責め続けるかもしれない)
大事なものをなくしてしまうと、まるで自分の体に大きな穴が開いてるように感じる。それが大切であればあるほど穴は大きくなり、どこかで切り替えないと飲み込まれてしまう。私もその気持ちがよくわかる。
「一条くんの期待に応えたいって思ったの。私にできることなら全力でやってみたい」
颯馬くんのゆるぎない決意を持った目が、私にそう思わせてくれた。
だから変わりたいと思ったのだ。人目を気にして周りに合わせるのではなく、颯馬くんたちのように自信を持って自分らしくいたいと。
「……そっか。うん、ユキちゃんがそう決めたんならぼくは応援するよ」
まだ複雑そうな表情だけど、一応は納得してくれたようだ。
アキくんは、私が小学校で何があったのかを知っている。それでも変わらず友達でいてくれたから、その言葉はすごく嬉しかった。
「でも、何か嫌なことがあったらいつでも言ってよね!今度こそ力になるから」
アキくんの背中から何か黒いオーラが出ている気がする。笑顔もなんだか怖い。
だけど、さっきまでの重苦しい空気はなくなった。
(一条くんはどんな結果でも受け入れるって言ってくれたけど、私次第であきらめる可能性もあるってことだよね……?)
責任重大だ。
少し気が重くなってくるが、不思議と嫌な緊張感じゃなかった。
(放課後は時間が合わなくて、次の集合は明日の朝になったんだよね。早起きしなきゃだから、しっかり寝て準備しないと)
「仲いいわけじゃないから、当たり障りないことしか知らないけど」
「ううん、それでも嬉しいよ!私、二人のことは何も知らないから……」
まず、私の想像以上に一条家が凄い家柄だった。なんでもグループ企業が世界中にあり、もとは有名な華族であったらしい。颯馬くんはその直系の跡取りで、小学生のころから人気者だったとのこと。
「いい奴だとは思うけど、あんなイノシシが文武両道の貴公子っていうのは納得いかないよねぇ」
逆に、白鳥家は海外で活躍しているIT系のだそうだ。他にも電気製品業にかかわっているそうで、白鳥くん自身も電子機器に強いらしい。
あまりにも遠い世界の話で、私はただ相槌を打つことしかできなかった。
「あとこれが一番大事なんだけど、白鳥の話は半分冗談でできてるから本気にしないこと!一条も天然ボケしてるところがあるから油断できないよ!」
「それじゃろくに会話できないよ……」
少し頬を膨らませたアキくんだけど、すぐにその顔が伏せられた。ふわふわの髪が顔に影を作って、表情がよく見えない。
「だから本気にしなくてよかったんだよ、あんな話。一条には悪いけど、どう考えてもきな臭いじゃん。半年も見つからないなんて絶対におかしいよ」
「でも、一条くんは本当に困ってた。ひいおばあちゃんとの思い出の物だよ。見つけてあげたい」
「もうないかもしれないのに?」
「うん。たとえ見つからなくても、行方はわかると思うの」
正直、これに関しては結構自信がある。物探しはおばあちゃんの家でも何度かやったことがあるから、颯馬くんの頼み自体は難しいことじゃない。
一条家にある他の付喪神に聞いて回れば、何か得ることはできるはず。
「馬鹿にしないで、私の話を信じてくれた人は初めてなの」
名前も知らない私に頼るほど困っていたのに、決して誤魔化したり、無理強いをしなかった。白鳥くんだって本気で一条くんのことを心配していたのに、私の気持ちを尊重してくれた。鋭いけど、無神経に踏み込んでくるような人じゃない。
それが、私の心を揺さぶった。
(もう二度と会えない人が遺してくれたはずの物が無くなるなんて、ずっと自分を責め続けるかもしれない)
大事なものをなくしてしまうと、まるで自分の体に大きな穴が開いてるように感じる。それが大切であればあるほど穴は大きくなり、どこかで切り替えないと飲み込まれてしまう。私もその気持ちがよくわかる。
「一条くんの期待に応えたいって思ったの。私にできることなら全力でやってみたい」
颯馬くんのゆるぎない決意を持った目が、私にそう思わせてくれた。
だから変わりたいと思ったのだ。人目を気にして周りに合わせるのではなく、颯馬くんたちのように自信を持って自分らしくいたいと。
「……そっか。うん、ユキちゃんがそう決めたんならぼくは応援するよ」
まだ複雑そうな表情だけど、一応は納得してくれたようだ。
アキくんは、私が小学校で何があったのかを知っている。それでも変わらず友達でいてくれたから、その言葉はすごく嬉しかった。
「でも、何か嫌なことがあったらいつでも言ってよね!今度こそ力になるから」
アキくんの背中から何か黒いオーラが出ている気がする。笑顔もなんだか怖い。
だけど、さっきまでの重苦しい空気はなくなった。
(一条くんはどんな結果でも受け入れるって言ってくれたけど、私次第であきらめる可能性もあるってことだよね……?)
責任重大だ。
少し気が重くなってくるが、不思議と嫌な緊張感じゃなかった。
(放課後は時間が合わなくて、次の集合は明日の朝になったんだよね。早起きしなきゃだから、しっかり寝て準備しないと)
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