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第二章 軍属大学院 入学 編

154.悪意なき相違-Ⅲ

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「――ご、ごめんね? 別に大した話じゃないから気にしないで」

「……私からすれば、アイラさんがゴリラなどと言われているのはそれなりに大した『失礼な』話なのですけれど?」

「そ、それは言葉の綾というか何というか……というよりこっちにもゴリラっているんだ……」

 もしかしたらこの世界にはいないかもしれないと少し楽観視していたのだが、尚更アイラに先程の話を知られるわけにはいかなくなった。

「……? いえ、私も文献で南方に生息しているというのを読んだことがあるだけですから、流石に帝都近辺にはいないと思いますの」

「いや、そう言う意味じゃなくって……まあ気にしないで」

「いえ、『気にしないで』ではなく、いったい何の話をしているのかとこちらが聞いてるんですの! というか、不躾にジロジロ見ていた理由を聞いただけですのに、どうしたらここまで話が訳のわからない方向に飛躍するんですの!?」

「――!?」

「何を『飛躍しているのに今気がついた』みたいな顔してるんですの!」

「――?」

「それでもって『原因がさっぱりわからない』みたいな顔するんじゃありませんの! それを一番問いただしたいのは私ですのよ! ああもう! 何なんですのあなたの契約者はっ!」

「キュウ……」

 あまりにも的確に心情を読まれた事に驚いていると、二進も三進もいかないもどかしさからか、メアリーは頭上のキュウをむんずと両手で掴んで、キュウに問いただし始めた。
 キュウも呆れぎみに『さあね……』とか言わないで欲しい。
 軽く傷ついてしまう。

「それで、結局何の話をしたかったんですの?」

 頭上からキュウが居なくなったことで、今度は上目遣いではなく普通に睨みつけながらそう聞いてきた。
 ムッとしたその表情もそれはそれで可愛らしいと思いつつ、これ以上機嫌を損ねるのは全く以て本意ではないので、思い出すために急いで思考を巡らせる。

「ああ、そうだそうだ! メアリーちゃんに魔法を教えて欲しいなって思ってたんだよ」

「……その話がどうしたら、アイラさんがゴリラだのというふざけたお話になるんですの?」

 自分でも不思議である。

「というより、魔法を教えて欲しいんですの?」

「うん」

「……それは、私の魔法をという事ですの?」

「え? う、うん」

 先程までとは一変してどこか重苦しい雰囲気でメアリーが問いかけてきた。
 『私の』というと、メアリーの魔法は何か他の人と差異があったりするのだろうか。
 もしくは自分の言葉に何かおかしい所でもあったのか。

『いっぱいあったでしょ。ぜんぜんカンケーない話したり』

「いや、そっちの事じゃなくて……というか別に全然関係ない話ってわけでも――」

 そこまで口にして、このままではさっきの二の舞でまたメアリーを怒らせてしまうと気がつき慌てて口を噤んだのだが、当のメアリーは何か思案を巡らしている様子だ。
 かと思えば先程までより尚、重く、真剣な様子でメアリーは口を開く。

「本気、ですの?」

「う、うん」

「……なるほど、つまり実力を……」

「え、えっと……難しそうなら無理にとは言わないけど……?」

 そもそもメアリーにだって自身の予定があるのだ。
 無理強いはしたくないと思い、そう口にしたのだが――

「――っ!? 問題ありませんのっ!」

「ほ、本当に?」

 なんだか問題がありそうな答え方だったので聞き返すが、メアリーは肯定を返す。

「ええ。ですが、少し期間をいただきますわよ?」

「う、うん、それはもちろん。都合の良い時でいいよ」

「――でしたらっ……三日後の長休憩時に第十八訓練場に来てくださいまし」

 それだけ言うと、メアリーは持っていた本を閉じて立ち上がり、空き地の出入り口へと歩いて行く。

「え? 今日はもう帰っちゃうの?」

 いつもより明らかに早い帰りに思わずそう口にすると、こちらを振り向かずにメアリーは返答する。

「……準備は万端にしておきたいですので」

「そ、そうなんだ。ありがとう。じゃあ、また」

「……ええ、また三日後に、お待ちしておりますわ」

 そう言って、メアリーは自分たちを残して空き地を出て行った。

「……ねえ、キュウ」

『……なに?』

「僕、メアリーちゃんを怒らせちゃったかな……?」

『……武がへんな話してたときも、たぶんべつにおこってはなかったの。さっきのも、おこってるとはちょっと違うと思うの』

 人の感情がなんとなく読み取れるキュウがそう言うのならば、きっと間違いではないのだろう。

『でも、楽しそうではなかったの……』

「うん、そうだよね……」

 ただ、確かな正解を得る術は、自分には無かった。



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