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第二章 軍属大学院 入学 編

124.治らぬ悪癖-Ⅰ

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「――はぁ……」

 路地を抜け、朝の活気あふれる空気を肌で感じ歩きながら、対照的に自分はひとつため息を漏らす。
 傍から見れば、今の自分は相当に浮かない顔をしているだろう。
 現在自分は、先日ソフィアたちに教えてもらった近道の路地を抜けて、軍属大学院の前の通りまで来ている。
 というのも、「今日もリオナに頼んでるから九時までに昨日と同じ場所に行け」というティストさんからの伝言をハヴァリーさんから聞いたからである。
 しかし、浮かない顔をしていると予想する原因は別にそれではない。
 起きた時に感じていた体のだるさも、既に特に気にすることもない程に回復している。
 タフになったものだと自分に感心するほどだ。
 ではいったい何のせいでそんな状態になっているかというと――

「なんか……服に着られてるって感じだったよなぁ……」

『よくわかんな~い。けど、ハヴァリーおじちゃんもテッチんも「似合ってる」って言ってたじゃん!』

「そうかなぁ……そうなら良いんだけど……」

 そう、初めて来た"スーツ"というものが、正直まったく似合っていない様に感じたからだ。
 仕立てがしっかりしているおかげか、着てみると恐ろしいほどに体にはしっくりとくるのだが、艶のあるグレーのスーツを着た自分の姿はどうにも背伸びをして格好をつけている様にしか見えなかった。
 ハヴァリーさんは「初めての時は誰でもそう感じるものですぞ」なんて言ってくれていたが、そんなものなのだろうか。
 言われてみれば、初めて学校の制服を着て鏡に向かった時の心境に似ている気がしなくもない。

(まあ、着ていればその内慣れるか……な?)

 実際のところ、せっかく作ってもらったのに着ないなんて事ができるわけも無いし、そもそもソフィアの友人として参加させてもらうのだ。
 自分は貴族やパーティーの事なんて全くわからないが、ハヴァリーさんがそう判断したという事はドレスコード的なものがあるのだろう。
 パーティの主役の友人は招待されておきながらドレスコードすら突破できない――なんて事になっては、ソフィアに恥をかかせる事になるかもしれない。
 馬子にも衣装などと言うし、自分でもきっとあのスーツを着ればそれなりに立派に見てもらえるだろう。
 自分が着こなせているかどうかはともかくとして、素人目にも良いスーツである事は確かなのだ。

「うん、まあ気にしてても仕方ないよな」

 そう気を取り直したその時、不意に後ろから何かに衝突された。

「うわっと……」

「きゃっ……」

 それ程凄い勢いでぶつかられたわけではなかったので、自分は多少ふらつく程度で済んだのだが、ぶつかった側はそうはいかなかった様で後ろから倒れた様な音と少女の悲鳴が聞こえた。

「だ、大丈夫ですか!? ――ってあれ?」

「ご、ごめんなさいですの! 少し考え事をしていまして――あっ……」

 慌てて後ろを振り向いた自分の目に映ったのは、尻餅をついた見覚えのある少女の――

「大丈夫メアリーちゃん?」

 ソフィアの妹であるメアリーの姿であった。
 自分が手を差し伸べながらそう問いかけると、どこかばつが悪そうに目を逸らしながらメアリーはその手を取って立ち上がる。

「その、ありがとうございます……ですわ……」

「怪我とかしてないかい?」

「だ、大丈夫ですわこのくらっ――いえ、その……」

 とりあえず大丈夫だとは言っているが、何だか言葉の歯切れが悪い。
 実はどこか怪我をしてしまったのだろうか。

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