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第二章 軍属大学院 入学 編

121.風見鶏からの招待状-Ⅰ

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「……」

 疲れた。
 極度の疲労からもうそれ以外の考えが中々浮かんでこない。
 時刻はもう夕方であろうか。
 腕時計を確認すればすぐにわかる事なのだが、今は腕を動かすのも目を開けるのも億劫だ。
 こうして全身を床へと預けながら目を瞑っていると、そのまま睡眠に突入してしまいそうである。

「おいボウズ、そろそろ帰るぞ」

 ティストさんの声が聞こえるが、今はなんだか反応する気力さえ湧いてこない。
 というよりも、この眠るか眠らないかの境目にいる今の状態が妙に心地よいのだ。

「おーい、聞いてんのかボウズ?」

 汗で服がべたついたりしていればまだ違ったかもしれないが、服の機能でそんな状態にはならないし、何より胸元に居るキュウの温もりのおかげかまるで布団の中にいるような気さえしてくる。

「……おい何無視してんだボウズ?」

 これで下が柔らかければ最高なのだが、今ほど疲れ切ってしまっていれば正直どんな地面だって寝られさえすれば高級羽毛布団だ。

「……すぅ」

「……おいオシウミ、例の気付け薬を三粒よこせ。どうやらこのクソボウズは意識が無ぇみてぇだからよぉ」

「えっ……さ、三粒ですか……? 逆に気絶しちゃうと思いますけど……まあティスト様が必要だとおっしゃられるなら……」

「いやぁ良く寝たっ!」

 恐ろしい事が行われようとしている気配を感じて慌てて飛び起きる。
 起き上がるのがものぐさになって反応を返さなかった自分が悪いのだが、ハルカ先輩もティストさんに言われたからといってあんな危険物を三つも提供しようとしないでいただきたい。

「すみません、ちょっと気を失ってたみたいですね! いやぁまいったまいった!」

 軽口をたたきながら誤魔化していると、脳裏に警鐘が鳴り響く。
 とっさにポルテジオを展開してそちらを見ると、ティストさんの貫手らしきものがアポロ色の障壁越しに確認できた。

「おう、起きたかボウズ。でもまあひょっとしたらまだ意識がはっきりしてねぇかもしんねぇからこれ食っとけよ」

「い、いやいやっ、突然の攻撃にも対応できるくらいには意識はっきりしてますからほらっ!」

「おぉん? 人様がせっかく直接食べさせてやろうって親切でやった行為を攻撃とは随分な物言いだなぁ?」

 よく見るとティストさんの突き出した手の指の間には例の気付け薬が挟まっている。
 なるほど確かに薬を口に入れようとしただけ――

「いやいやいやいやっ! それただ薬もって暴力ふるってるだけですからっ! そんなもの受け入れたら薬云々の前に顎が砕けますわっ!」

 尚も貫手を放とうとするティストさんの動きを、攻撃の感知を利用した先読みで展開したポルテジオで抑制しながらそう答える。
 一瞬納得しかけたが、そもそも自分の攻撃に対する感知が働いている時点でそれはもう攻撃である。

「ちっ……本当に防御だけはいっちょ前だな……。おらっ、さっさと帰るぞっ! そろそろここの次の利用者が来ちまう」

「あ、はい、わかりました」

 なるほど確かにそういう事ならば寝ている場合ではなかったわけだ。
 悪い事をしたと思いつつも、もう少しましな方法で焚きつけて欲しかったと考えながらティストさんの後について歩いていると、キュウが語り掛けてくる。

『ねぇねぇ、そんなにあれおいしくないの?』

「いや、そもそも美味しいとか美味しくないとかの次元じゃないというかな……」

 キュウに「熟成されたどぶの様な臭い」などと自分でもよくわかっていない事を言っても伝わらないだろうし、そもそもそんなもの知っていて欲しくない。

「まぁ……気にすんな」

『そっか~』

 そもそもそれ程興味は無かったのかそんな生返事をしてきた。
 まあ今回に関しては興味が薄い方が都合がいい。
 世の中には知らない方が幸せな事もあるのだ。

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