上 下
128 / 163
第二章 軍属大学院 入学 編

119.似た者同士の励まし合い-Ⅱ

しおりを挟む
「スゥッ――はぁ……」

 色々と疑問に思いつつも、緊張が緩んだためか一気に体の力が抜け、たまらずその場で腰を下ろしてしまい、しばらくはひたすらに深呼吸を繰り返す事しか出来なくなった。
 頭の奥深くから響いてくる様な鈍い痛みはなかなか引いてはくれないが、徐々にはましになってきているのでもうしばらく休憩すれば大丈夫だろう。

(流石に長めの休憩くれるよね……?)

 疲れからか声を発するのも億劫なため、前方で胡坐をかいているティストさんに期待と信頼を込めた眼差しを送ってみる。
 水筒の中身を煽る様にして飲んでいたティストさんは、自分の視線に気が付くと込められた意思や心情を上手く汲み取ってくれた様で――

「んあ? もう休憩終わりでいいのかよ? まだヘロヘロの癖に本当に欲しがりだなお前」

「い、いや……ちょっと長めに……休憩が欲しいです」

「んだよ。物欲しそうに見てくるからもう特訓のおかわりを要求してきたのかと思ったじゃねぇか」

 全く心情を汲んでくれてはいなかった。
 目は口程に物を言うというが、流石に何が欲しいかまでは伝わらなかったようだ。
 というより、物欲しそうにしていると感じたのならせめて飲み物を欲しがっていると解釈してほしかった。

(疲労時にさらに疲労を求める特訓ジャンキーか何かと思っているのかな……?)

 そんな冗談めいた――冗談であってほしい想像をしているうちに、だんだんと呼吸も落ち着いてきたので、自分も水筒を取り出して水分を補給する。
 二時間超も動き続けていたのにも関わらず脱水症状などにならないのは、相変わらずな服の機能のおかげで汗だくになるような事が無いからだろう。
 個人的には汗だくになる程運動をするのは嫌いではないのだが、そんな状態になった時は大概思考が鈍ってしまうので、冷静な判断を要する先ほどまでのような時には本当にありがたい機能である。

(そういえば、この服にも自動で修復される機能があるけど……同じなのかな……?)

 すっかり塞がってしまった床の亀裂があった場所を見ながらそんな事を考える。
 すっかり慣れてしまっていたが、よくよく考えれば火にも水にも繊維にもよくわからない材質の床にもなってしまう魔力とはいったい何なのであろうか。

「あの、ティストさん」

「んあ? もう再開してぇのか?」

「いや違いますよ!? どんだけ僕を痛めつけたいんですか!?」

「んだよあの程度で。軟弱な奴だな」

 相当頑張ったつもりなのだが、ティストさん基準だとあれだけやっても軟弱らしい。
 恐ろしい世界である。

「ってそうじゃなくって……。その、魔力って何なんですか……?」

「んあ? 何って……魔力は魔力だろ? 何が言いてぇんだ?」

「いや、魔力って色々な物になるじゃないですか。火とか水とか、この服も破れたら魔力を使って修復されますし、さっきティストさんが壊した床も元通りに直ったじゃないですか。どうしてなのかなって」

「どうしてって……。この床――ってかこの施設自体は建国した頃にいたイオカラっていう凄ぇ魔法師が作った魔方陣魔法の機能で自動修復されるし、その魔方陣魔法の一部をジジイが解明して作ったのがその服の自動修復機能なわけで……。――だぁぁっ! 私が知るかよそんなもん! ジジイに聞けジジイにっ!」

 何とも答えになってない答えを述べると、考えるのが面倒になったのかティストさんがおじいちゃんに丸投げした。
 聞けるものなら聞きたいが、流石にこれを聞くためだけに森の家まで数日かけて行くのも面倒くさい。

「あらあら、どうしたんですかティスト様? そんな大きな声をだされて……」

 ハヴァリーさんならわかるだろうかなどと考えていると、ティストさんの声を聞きつけたのか、別の場所で何かをしていたリオナさんとハルカ先輩がこちらへと近づいてきた。
 ハルカ先輩はわからないが、魔法専門らしいリオナさんなら何か知っているかもしれないので聞いてみる。

「あの、魔力って色々な物になったりしますけど、いったい何なんですか?」

「へ? 色々な物になるって……それが魔力でしょ?」

「だよな? 本当に何が言いてぇんだボウズ? ああ、言っておくが、イオカラの魔方陣魔法を一部でも理解できてるのなんてたぶんこの世にジジイくらいしか居ねぇから、聞いても無駄だぞ」

「ああ、ジジイっていうのはティスト様の師匠のセイル様の事よ――って、流石に知ってるわよね。そもそもタケル君にはティスト様も素で話してるんだから、ティスト様がセイル様の事を本心では凄く尊敬してるけど照れ隠しでジジイなんて呼び方してるのくらい――」

「――だぁぁぁぁっ! なに適当な事抜かしてんだリオナぁぁぁぁっ! 誰があんな鬼畜クソジジイの事なんか尊敬するかっ! 大体お前なぁっ――」

 薄々勘付いてはいたが、やっぱりティストさんはおじいちゃんの呼び方は照れ隠しだったらしい。
 そういえば昔おじいちゃんが「弟子も恥ずかしがり屋で、頼んでも呼んでくれんかった」などと言っていた気がする。
 おじいちゃんの唯一の弟子ということは、十中八九ティストさんの事だったのだろう。
 素直に「おじいちゃん」と呼んであげればいいのに――

「――なんであんなに恥ずかしがってんだろう……?」

「まあ、慣れればそう思っちゃうよね……」

 相も変わらず照れ隠しなのかリオナさんに喚き散らしているティストさんを見ながらそんな事を呟くと、ハルカ先輩がこちらに歩み寄ってきて、相変わらず抑揚の少ない声で同調してきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...