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第二章 軍属大学院 入学 編

82.美味しすぎて辛い-Ⅰ

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 気がつくと見慣れている気もする大型のショッピングモールの中に居た。
 自分が立っているのは服や靴などの衣料品売り場の様だ。

(あれ? なんでこんなところにいるんだっけ……?)

 自分の必要な衣料品についてはおじいちゃんが準備してくれているので、特にこの辺りに用は無いはずだ。

(食品売り場に行くかな……。キュウに果物買っておきたいし……。あっ、でも靴はちょっと見たいかもな……)

 ぼんやりとそんなことを考えながら、近くにあったスニーカーへと手を触れると――

(いッ――!? せ、静電気? なんでスニーカーで……?)

 なんだか怖いので靴売り場をあとにして、食品売り場に向かいながらぼんやりと空を見上げる。
 高く高く広がる空には大きな入道雲が浮かび、燦々と煌めく太陽に照らされて輝いている。
 よく晴れた夏の昼下がりだ。
 ショッピングモール内には冷房が効いているため自分は涼しいが、外はかなりの暑さだろう。

(ん? 空? ……まあいいか)

 しばらく歩いていると、吹き抜けになっている部分から下の階が見えた。
 自分がいるのは二階部分で、この下がちょうど食品売り場の様だ。
 目的地を見つけたのだが、辺りを見渡しても何故か肝心の階段などが見当たらない。

(まあ、このくらいなら行けるか……)

 ぼんやりとした思考のまま身体強化を施して、落下防止用の手すりを乗り越えようと木製の手すりに触れると――

(いッ――!? ま、また静電気!? 今日はやたら発生するなぁ……)

 不思議に思いつつも、また静電気が発生すると嫌なので手すりに触れずにジャンプで飛び越えて下の階へと降りる。
 着地地点に人の気配が無いのは確認済みだ。
 というより辺りには一切の人影が見当たらない。
 随分と寂れたものだ。

(さて……果物売り場は……おっ、あったあった)

 見つけた果物売り場まで足を運ぶと、キュウの特に好きな桃に似た果物があり、値段を確認しようと値札を見ると、値段は書いていなかった。
 代わりに『クソ雑魚』と書かれている。
 生産者はいったいこの果物にどんな想いを込めてこの名前をつけたのだろうか。
 絶対に売れないと思う。

(流石にこれは無いな……。他に良さげな果物は……え? これしか無いの……?)

 なんと辺りには他に果物が無いのである。
 品揃えの良さに何か恨みでもあるのだろうか。

(さっきはあった気もするんだけどなぁ……。まあ無いなら仕方ないか……)

 キュウに果物を買ってやると決めていたので、仕方なくその『クソ雑魚』なる果物を一つ手に取っあばばばば――
          ・
          ・
          ・

「――あばばはば!?」

 あまりの衝撃に思わず目を見開く。
 目に映るのが知らない天井だとか、背中越しに感じるベッドの感触が凄く心地よいだとかそんなことを気にする余裕も無い程の電流が右手を通して体全体に広がる。
 十中八九テッチが自分を起こすために電流を流してくれているのだろうが、なかなかやめてくれる気配がない。

「て、ててっ、テッチ! もも、もう、起きて、起きてる、から!」

 痺れながらもどうにか声を出すと、ようやく電流が止まり、一息吐いてから上体を起こす。

「も、もうテッチ……。もう少し優しく起こしてくれてもいいのに……」

 自分の隣で伏せているテッチを撫でながらそう言うと、テッチが反論してくる。

「ワウッ!」

「え? 『なかなか起きないからだ!』って? そ、そんなに起きなかったの……?」

 ちゃっかり電流の被害を受けないようにか、隣で浮いているキュウに問いかける。
 少し離れていようとも、ベッドに触れていては少なからず電流の被害を受けるというのを既に学習しているからだろう。
 森にいた頃も何度かこの起こされ方はしたのだが、一緒に電流の餌食になっていたあの頃のキュウはもういない様だ。

『武は毎回寝坊助さんだけど今日は特に酷かったよ。テッチん五回くらいピリピリでやってくれてたのに起きないからビリビリにしたの!』

 自分の質問に対してキュウが答えを返してきた。
 昨日も感じた事ではあるが、耳からはキュウキュウ鳴いているのが聞こえるのに、心を通してはっきりとした言葉が伝わってくるこの感覚はなかなか不思議である。

「そ、そうなんだ……ごめんねテッチ。あと、毎回ありがとうね」

「ワウッ!」

 「しゃあなしだぞ!」的な事を言ったテッチはしっぽを振りながらベッドから降り、部屋の入口と思わしき扉の前まで歩いてからこちらを振りむいた。
 ついてこいという事だろうか。
 というよりも、今はいったい何時なのであろうか。
 そう思い辺りを見回し、時計を探す。
 部屋の中には家具は最低限しかなく、非常にすっきりとしている。
 そんな数少ない家具の内の一つであるベッドの隣の小さな台の上に置き型の時計があった。
 連続的に止まること無く動く秒針は音もたてずに静かに時を示している。
 まだ六時を少し過ぎた程度のようで、待ち合わせの時間には余裕で間に合うだろう。
 しかし一秒毎に動くタイプの秒針と違い常に動いているためか、時間の経過が少しばかり早いような錯覚に陥り、少し気が急いてしまう。
 一長一短ではあるが、アイラにお願いしている腕時計は一秒毎に動くタイプにしてもらおう。

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