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第二章 軍属大学院 入学 編

59.帝都の街並み-Ⅲ

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(まあ確かに見た事のない景色ではあるもんな……。なんか認めたくないけど)

 キュウは門を潜り抜けてからずっと、見た事のない建物と見た事のない量の人に興奮しっぱなしの様で、自分の後頭部を尻尾で叩いてきている。

「楽しいかキュウ?」

「キュウッ♪」

「そっか……じゃあまあ、これはこれで良いか」

 キュウが楽しいのならばそれが正解で良いのだろう。
 これもまた"新しい世界"だ。
 正直新しい思い出としてはいまいちだが――

「ま、間に合った~……。――はい、タケルくん。これ」

 唐突に思考を遮ったのはソフィアの少し疲れたような声だった。
 手には何か種の様な物の入った小さな無色透明な水晶のペンダントを持っている。

「どこ行ってたのよソフィア――ああ、なるほどね」

 ソフィアに質問するアイラは、ソフィアが手に持っている物を見て何か納得したようである。

「えっと……これは何?」

 渡されるがままにペンダントを受け取り、水晶の中を覗き見る。
 無色透明だと思っていた水晶には、よく見るといたるところにうっすらと細い白色の魔法陣が埋め込まれており、これはこれでなかなか綺麗である。

「それは一年水晶って呼ばれるもので、色々種類があるんですけどその種が入ったタイプは時間が経つ程に中の種が成長していって、ちょうど一年後に花が開くんです! ちなみにその種はアポロの花の種です!」

 ソフィアはそう言うと、一度身なりを整えて一呼吸置いてから、満面の笑みを浮かべてもう一度口を開いた。

「今日という日があなたにとって特別な日と思えるような一年をあなたが過ごせるように、私は願っております――」

 そよ風が吹き、ソフィアの翡翠色の髪が陽光に煌めきながら静かに揺れる。

「――タケルくん! ようこそ、帝都ヴェルジードへ!」

 うやうやしくおじぎをしたソフィアの姿に、体を震えが駆け抜けた。

――何がいまいちなもんか……。

 一瞬で自分の心を埋め尽くしたこの感情は、どう表現するのが正解なのだろう。
 何と返せばいいのかがわからない。
 心の震えに呼応してなのか、瞳が潤んできてしまう。
 だが、少なくとも自分は今、彼女に――

――ソフィアに感謝を伝えたい。

 なるほど、自分は今きっと、"感動"というものをしているのだ。
 ならば瞳が潤むのも、唇が震えるのも、起きてしかるべき現象なのだろう。

「ありがとう……ソフィア……。その、なんて言えば……良いのかな……?」

 アポロの花。
 それは、アポロ色の由来となった花の名前で、おばあちゃん曰く『暖かみがあって見ていると安心する』ような色の花だそうだ。
 きっと今の自分の心を色で表すならば、アポロ色なのだろう。

――また、貰ってしまった。

 暖かな感情をみんなにお裾分けしたかったはずなのに、自分はいつも貰ってばかりだ。
 ならば自分のすべき事はなんだ。
 彼女に伝えられる事はなんだ。
 自分の未来が良いものであれと、願ってくれる彼女に出来る事はなんだ。

「――ソフィア。アイラとサキトとリオナさんも、テッチもロンドもキュウも聞いて欲しい事があるんだ」

――今、返せるものが無いなら、せめて……。

「唐突で何言ってるのかわからないかもしれないけど、聞いて、そして覚えていてほしいんだ」

――せめて、みんなに誓おう。

「僕はきっと、いや、絶対に夢を叶えるよ。ここで、ここから――きっと"みんなを護れる人間"になってみせるよ!」

 未熟な自分が何を大言壮語しているのかと思われるかもしれないが、不思議と少しの恥じらいもない。

「キュウッ!」

「ああ、もちろんキュウも一緒にな」

 相棒も背中を押してくれている。
 案の定サキトやアイラは面食らったような表情をしているが、ソフィアは笑顔を浮かべたまま返事をしてくれる。

「はい! タケルくんならきっとなれるって信じてます!」

 ソフィアの言葉につられて、他の面々も反応を返してくれる。

「おう! でも護られてばっかじゃいられねぇからよ! 俺も強くなるぜ!」

「普通に聞いたら"何言ってんだか"って思っちゃうかもしれないけど……まあ、なんでかタケルならできると思えちゃうのよね。実際に一端をこの目で見ちゃってるからかしら? 私も応援するわよ。でもとりあえずはまず借りを返させてよね!」

「あらあら、自信満々ねぇ。でもお姉ちゃん、そういうの好きよ」

 ロンドは活を入れてくれているつもりのようで、頭の上に乗って嘴でつついてきている。
 テッチは一度小さく鼻を鳴らしただけだが、それがテッチなりのエールなのだということを自分は知っている。

 心を満たす感謝と感動と共に、帝都での一つ目の大事な思い出を得たのであった。





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