上 下
49 / 163
第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編

間話 とある少年の独白-Ⅱ

しおりを挟む
 もちろん次の日からはちゃんと髪の色を戻して、制服もちゃんと着て登校したさ。
 みんなから散々前日のことをネタにされてからかわれたけど、寧ろ話のタネになってありがたかったな。
 そういえば後日武に、どうしてあの時話しかけてきてくれたのかって聞いてみたらあいつ、こちとら結構勇気出して聞いてみたのに、「寂しそうだったから」ってあっけらかんと答えやがった。
 まあそんな武だから、俺は親友になりたいって思ったんだろう。
 俺はあの時、武に心底救われたんだ。

「おっと、危ない危ない。手水を忘れるところだった」

 苦いけど、忘れたくはない大事な思い出に浸りすぎて参拝時のマナーを破るところだった。
 入学時の出来事以来、この辺りの作法は大事にしているんだ。
 手水をしながらも、頭を駆け巡るのは高校生活での思い出だ。

「本当に楽しかったな……」

 あいつのおかげで俺は概ね高校三年間を楽しく過ごせたわけなんだが、未だに心の片隅に引っかかっていることがある。
 二年の半ばの頃だっただろうか、武の笑い方がおかしくなった時期があった。
 いや、もともと静かに笑う奴で、いくら楽しそうでも大笑いとかしたことは見たことなかったんだけど、なんだか悲しそうに笑うようになっているのに俺は気が付いたんだ。
 というか、そこで初めて俺は、武の静かに笑ってるところ以外を――つまり怒ってたり悲しんでたりするところを見たことが無いって事に気が付いたんだ。
 一年半も一緒に学生生活を送っておいて何を今更ってかんじだよな。
 でも本当に気が付かなかったんだ。
 きっとあいつが意図的にそういう表情を見せないようにしてたんだろうな。
 表情の乏しい奴だなぁなんて思った事はあったけど、楽しそうなのは伝わってきたし、会話のノリが悪いわけじゃないからそれまで気が付かなかったわけだ。

 初めて見る武の悲しそうな表情に、その時の俺は自分に何かしてやれることは無いんだろうかって、本当に素直にそう思った。
 やたら人助けが好きな武の性格がうつってしまっていたのかもしれないな。
 そうして俺に出来ることを考え始めて、まず原因について考えることにしたんだ。
 その頃武の身に起こった特別な事といえば、帰宅中に突然意識を失って病院に運ばれたことだったわけで、正直頭の悪かった俺はもう「これだっ!」って確信しちゃったのだ。
 ただ、武に聞いても「特に何もない」って言うもんだから、頭の悪いなりに図書館とかに行ったりして、武の倒れた通りの付近で起こった出来事とか噂話とかを新聞とか読んで頑張って調べたりしたのだ。
 正直テスト勉強なんかよりも頑張っていたと自負している。
 まあ結果を言うと、何もわからなかった。
 完全に無駄骨だったわけだ。

 暫くすると幾分か武の悲し気な表情も薄れて、前と同じように静かに笑うようになったけど、俺にはやっぱり無理をしているように見えたんだ。
 どうにかしてやりたいとはずっと思っていたし、これをどうにかすることで武と親友になれるかもしれないという打算的な考えもあった。
 ただ時間というものは有限で、武が大学に進学してしまったらきっと会う機会も劇的に減ってしまい、そのうち疎遠になってしまうだろうという予感が俺にはあった。
 だから、タイムリミットを少しでも延ばそうと俺も武と同じ大学を目指すことにしたのだ。
 馬鹿な俺なりに必死に勉強して、休日には武にも教えてもらいながら合格を目指したんだ。
 今までの人生で一番頑張ったと言っても過言ではないくらいに頑張ったんだ。
 まあ結果は惨敗で、でも俺は浪人してでも目指してやろうって思ってたわけさ。
 ただ、俺の不合格を聞いて表情の乏しいあいつが本当に申し訳なさそうに謝ってくるのを見た時、俺はなんだかもう満足してしまったんだ。

――俺の事を思ってこんなに感情をだしてくれるなら、もう親友じゃなくても良いんじゃないかなって。

 卒業式の日までずっと気にしていて、気にするなって言ってもあいつは悲しそうな顔のままで、そんな顔をずっとさせてる事の方が俺には嫌だった。
 だからいつも通りおちゃらけて、話を変えて、最後に聞いたんだ。

『なあ、武。俺たち"友達"だよな?』

 そう聞くとあいつは今まで見た中で一番の笑顔で「当り前じゃないか!」って答えてくれた。
 そう、"友達"なんだ。
 きっと親友だよなって聞いてもあいつは同じ答えを返してくれたと思う。
 でもきっといつもみたいに気を使った静かな笑顔での返答だっただろう。
 俺にはなんとなくそれがわかってしまったんだ。

――俺が、武を救う事の出来る"親友"になることはできないんだ。

 そこまで考えたところで、もう賽銭箱の数歩手前まで来ている事に気が付いた。

「今年は何お願いしようかな……」

 毎年くだらないことや単純なことばかりお願いしているわけだけど――

「まあ一年くらい自分以外のことをお願いしてもいいよな」

 賽銭箱の前に立って会釈し、五円玉を賽銭箱に放り込む。
 深く二回お辞儀をして、ゆっくりしっかりと二回拍手をした後、手を合わせたまま心の中で祈る。



――自分には出来なかった分せめて、新たな地での新たな出会いが、彼に本当の笑顔をもたらしてくれますように――



 両手を下ろし、もう一度深くお辞儀をしてから神社をあとにする。
 参道を歩きながらも、本当に叶ってほしいから心の中で祈り続けた。

 俺を救ってくれたあいつを救える誰かに、あいつが出会えますように――



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...