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第一章 カラハダル大森林 異世界転移 編
間話 とある少年の独白-Ⅱ
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もちろん次の日からはちゃんと髪の色を戻して、制服もちゃんと着て登校したさ。
みんなから散々前日のことをネタにされてからかわれたけど、寧ろ話のタネになってありがたかったな。
そういえば後日武に、どうしてあの時話しかけてきてくれたのかって聞いてみたらあいつ、こちとら結構勇気出して聞いてみたのに、「寂しそうだったから」ってあっけらかんと答えやがった。
まあそんな武だから、俺は親友になりたいって思ったんだろう。
俺はあの時、武に心底救われたんだ。
「おっと、危ない危ない。手水を忘れるところだった」
苦いけど、忘れたくはない大事な思い出に浸りすぎて参拝時のマナーを破るところだった。
入学時の出来事以来、この辺りの作法は大事にしているんだ。
手水をしながらも、頭を駆け巡るのは高校生活での思い出だ。
「本当に楽しかったな……」
あいつのおかげで俺は概ね高校三年間を楽しく過ごせたわけなんだが、未だに心の片隅に引っかかっていることがある。
二年の半ばの頃だっただろうか、武の笑い方がおかしくなった時期があった。
いや、もともと静かに笑う奴で、いくら楽しそうでも大笑いとかしたことは見たことなかったんだけど、なんだか悲しそうに笑うようになっているのに俺は気が付いたんだ。
というか、そこで初めて俺は、武の静かに笑ってるところ以外を――つまり怒ってたり悲しんでたりするところを見たことが無いって事に気が付いたんだ。
一年半も一緒に学生生活を送っておいて何を今更ってかんじだよな。
でも本当に気が付かなかったんだ。
きっとあいつが意図的にそういう表情を見せないようにしてたんだろうな。
表情の乏しい奴だなぁなんて思った事はあったけど、楽しそうなのは伝わってきたし、会話のノリが悪いわけじゃないからそれまで気が付かなかったわけだ。
初めて見る武の悲しそうな表情に、その時の俺は自分に何かしてやれることは無いんだろうかって、本当に素直にそう思った。
やたら人助けが好きな武の性格がうつってしまっていたのかもしれないな。
そうして俺に出来ることを考え始めて、まず原因について考えることにしたんだ。
その頃武の身に起こった特別な事といえば、帰宅中に突然意識を失って病院に運ばれたことだったわけで、正直頭の悪かった俺はもう「これだっ!」って確信しちゃったのだ。
ただ、武に聞いても「特に何もない」って言うもんだから、頭の悪いなりに図書館とかに行ったりして、武の倒れた通りの付近で起こった出来事とか噂話とかを新聞とか読んで頑張って調べたりしたのだ。
正直テスト勉強なんかよりも頑張っていたと自負している。
まあ結果を言うと、何もわからなかった。
完全に無駄骨だったわけだ。
暫くすると幾分か武の悲し気な表情も薄れて、前と同じように静かに笑うようになったけど、俺にはやっぱり無理をしているように見えたんだ。
どうにかしてやりたいとはずっと思っていたし、これをどうにかすることで武と親友になれるかもしれないという打算的な考えもあった。
ただ時間というものは有限で、武が大学に進学してしまったらきっと会う機会も劇的に減ってしまい、そのうち疎遠になってしまうだろうという予感が俺にはあった。
だから、タイムリミットを少しでも延ばそうと俺も武と同じ大学を目指すことにしたのだ。
馬鹿な俺なりに必死に勉強して、休日には武にも教えてもらいながら合格を目指したんだ。
今までの人生で一番頑張ったと言っても過言ではないくらいに頑張ったんだ。
まあ結果は惨敗で、でも俺は浪人してでも目指してやろうって思ってたわけさ。
ただ、俺の不合格を聞いて表情の乏しいあいつが本当に申し訳なさそうに謝ってくるのを見た時、俺はなんだかもう満足してしまったんだ。
――俺の事を思ってこんなに感情をだしてくれるなら、もう親友じゃなくても良いんじゃないかなって。
卒業式の日までずっと気にしていて、気にするなって言ってもあいつは悲しそうな顔のままで、そんな顔をずっとさせてる事の方が俺には嫌だった。
だからいつも通りおちゃらけて、話を変えて、最後に聞いたんだ。
『なあ、武。俺たち"友達"だよな?』
そう聞くとあいつは今まで見た中で一番の笑顔で「当り前じゃないか!」って答えてくれた。
そう、"友達"なんだ。
きっと親友だよなって聞いてもあいつは同じ答えを返してくれたと思う。
でもきっといつもみたいに気を使った静かな笑顔での返答だっただろう。
俺にはなんとなくそれがわかってしまったんだ。
――俺が、武を救う事の出来る"親友"になることはできないんだ。
そこまで考えたところで、もう賽銭箱の数歩手前まで来ている事に気が付いた。
「今年は何お願いしようかな……」
毎年くだらないことや単純なことばかりお願いしているわけだけど――
「まあ一年くらい自分以外のことをお願いしてもいいよな」
賽銭箱の前に立って会釈し、五円玉を賽銭箱に放り込む。
深く二回お辞儀をして、ゆっくりしっかりと二回拍手をした後、手を合わせたまま心の中で祈る。
――自分には出来なかった分せめて、新たな地での新たな出会いが、彼に本当の笑顔をもたらしてくれますように――
両手を下ろし、もう一度深くお辞儀をしてから神社をあとにする。
参道を歩きながらも、本当に叶ってほしいから心の中で祈り続けた。
俺を救ってくれたあいつを救える誰かに、あいつが出会えますように――
みんなから散々前日のことをネタにされてからかわれたけど、寧ろ話のタネになってありがたかったな。
そういえば後日武に、どうしてあの時話しかけてきてくれたのかって聞いてみたらあいつ、こちとら結構勇気出して聞いてみたのに、「寂しそうだったから」ってあっけらかんと答えやがった。
まあそんな武だから、俺は親友になりたいって思ったんだろう。
俺はあの時、武に心底救われたんだ。
「おっと、危ない危ない。手水を忘れるところだった」
苦いけど、忘れたくはない大事な思い出に浸りすぎて参拝時のマナーを破るところだった。
入学時の出来事以来、この辺りの作法は大事にしているんだ。
手水をしながらも、頭を駆け巡るのは高校生活での思い出だ。
「本当に楽しかったな……」
あいつのおかげで俺は概ね高校三年間を楽しく過ごせたわけなんだが、未だに心の片隅に引っかかっていることがある。
二年の半ばの頃だっただろうか、武の笑い方がおかしくなった時期があった。
いや、もともと静かに笑う奴で、いくら楽しそうでも大笑いとかしたことは見たことなかったんだけど、なんだか悲しそうに笑うようになっているのに俺は気が付いたんだ。
というか、そこで初めて俺は、武の静かに笑ってるところ以外を――つまり怒ってたり悲しんでたりするところを見たことが無いって事に気が付いたんだ。
一年半も一緒に学生生活を送っておいて何を今更ってかんじだよな。
でも本当に気が付かなかったんだ。
きっとあいつが意図的にそういう表情を見せないようにしてたんだろうな。
表情の乏しい奴だなぁなんて思った事はあったけど、楽しそうなのは伝わってきたし、会話のノリが悪いわけじゃないからそれまで気が付かなかったわけだ。
初めて見る武の悲しそうな表情に、その時の俺は自分に何かしてやれることは無いんだろうかって、本当に素直にそう思った。
やたら人助けが好きな武の性格がうつってしまっていたのかもしれないな。
そうして俺に出来ることを考え始めて、まず原因について考えることにしたんだ。
その頃武の身に起こった特別な事といえば、帰宅中に突然意識を失って病院に運ばれたことだったわけで、正直頭の悪かった俺はもう「これだっ!」って確信しちゃったのだ。
ただ、武に聞いても「特に何もない」って言うもんだから、頭の悪いなりに図書館とかに行ったりして、武の倒れた通りの付近で起こった出来事とか噂話とかを新聞とか読んで頑張って調べたりしたのだ。
正直テスト勉強なんかよりも頑張っていたと自負している。
まあ結果を言うと、何もわからなかった。
完全に無駄骨だったわけだ。
暫くすると幾分か武の悲し気な表情も薄れて、前と同じように静かに笑うようになったけど、俺にはやっぱり無理をしているように見えたんだ。
どうにかしてやりたいとはずっと思っていたし、これをどうにかすることで武と親友になれるかもしれないという打算的な考えもあった。
ただ時間というものは有限で、武が大学に進学してしまったらきっと会う機会も劇的に減ってしまい、そのうち疎遠になってしまうだろうという予感が俺にはあった。
だから、タイムリミットを少しでも延ばそうと俺も武と同じ大学を目指すことにしたのだ。
馬鹿な俺なりに必死に勉強して、休日には武にも教えてもらいながら合格を目指したんだ。
今までの人生で一番頑張ったと言っても過言ではないくらいに頑張ったんだ。
まあ結果は惨敗で、でも俺は浪人してでも目指してやろうって思ってたわけさ。
ただ、俺の不合格を聞いて表情の乏しいあいつが本当に申し訳なさそうに謝ってくるのを見た時、俺はなんだかもう満足してしまったんだ。
――俺の事を思ってこんなに感情をだしてくれるなら、もう親友じゃなくても良いんじゃないかなって。
卒業式の日までずっと気にしていて、気にするなって言ってもあいつは悲しそうな顔のままで、そんな顔をずっとさせてる事の方が俺には嫌だった。
だからいつも通りおちゃらけて、話を変えて、最後に聞いたんだ。
『なあ、武。俺たち"友達"だよな?』
そう聞くとあいつは今まで見た中で一番の笑顔で「当り前じゃないか!」って答えてくれた。
そう、"友達"なんだ。
きっと親友だよなって聞いてもあいつは同じ答えを返してくれたと思う。
でもきっといつもみたいに気を使った静かな笑顔での返答だっただろう。
俺にはなんとなくそれがわかってしまったんだ。
――俺が、武を救う事の出来る"親友"になることはできないんだ。
そこまで考えたところで、もう賽銭箱の数歩手前まで来ている事に気が付いた。
「今年は何お願いしようかな……」
毎年くだらないことや単純なことばかりお願いしているわけだけど――
「まあ一年くらい自分以外のことをお願いしてもいいよな」
賽銭箱の前に立って会釈し、五円玉を賽銭箱に放り込む。
深く二回お辞儀をして、ゆっくりしっかりと二回拍手をした後、手を合わせたまま心の中で祈る。
――自分には出来なかった分せめて、新たな地での新たな出会いが、彼に本当の笑顔をもたらしてくれますように――
両手を下ろし、もう一度深くお辞儀をしてから神社をあとにする。
参道を歩きながらも、本当に叶ってほしいから心の中で祈り続けた。
俺を救ってくれたあいつを救える誰かに、あいつが出会えますように――
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