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高嶺の花はおねだり上手/本編その後if

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 椎名が出て行ってからは、類と那智が氷やタオルをかき集めてきては打たれた頬を冷やすなどをされていた。
 そんなことしなくていいからやめろと慌ただしく用意をしている二人に言うと、跡が残ったら大変だと逆に怒られてしまった。
 もはや何を言っても二人は聞かなそうなので、諦めた俺はもう好きにしろと気が済むまでやらせることにした。
 バケツにくんだ水に氷を入れ、その中で冷やしたタオルを頬にしばらく当てていると、徐々に頬の赤みが引いてきた。
 椎名に打たれた時のことを考えてぼうっとしていると、頭をぽんぽんと撫でられるのだ。
 見上げると、類と目が合った。

「ほっぺた痛かったでしょ。よくあそこまで言ったねえ」

 類の言葉に那智も頷いたが、普通に考えれば、あんな風に言う必要はかったと思う。
 だが今後俺に関わらないようにするには、ああでも言って突き放すしかなかった。
 あのままだと椎名は間違いなく俺から離れないし、今は大丈夫でも、その内日常的に体の関係を持っていたかもしれない。そうなればこいつらが黙っていないだろう。だから、キツいことを言ってでも俺から離す必要があった。

「·····てか、言わせたのあんたらだろうが。椎名が俺に手を出すこと、最初から分かってて泳がせてたんだろ」
「あは·····、バレた?ま、咲良ちゃんから椎名くんを拒否してもらえてよかったよ。そしたら手を引いてくれたし、今回椎名くんは特別に不問なわけ」

 椎名がおとがめなしなのは正直、ほっとした。
 現在の唯一の友人である椎名との関係が絶たれたのはかなりショックだが、全て俺の自業自得だ。
 椎名は良い奴だ。だから、最初から俺に関わるべきではなかったのだ。

 椅子に掛け、頬を抑えながらも椎名のことをぼんやりと考えていると「ねえ」と、背にずしっと体重をかけられるのだ。
 すぐ後ろに類の顔があり、金色の髪が首をくすぐるとぶるっと体が震え、そんな俺の反応を見る類はくすっと笑った。

「·····咲良ちゃんさ、さっきの続き、しない?俺まだ不完全燃焼でさ~」
「····················え、」

 服の上から体をまさぐってくる類に、「やめろ」と体をひねって抵抗した。
 すると那智が「おい」と類の肩を掴むのだ。

「·····類、お前は先程咲良としていただろう」
「いや、それはそれでしょ。だってじゃんけんで勝ったの俺じゃん」
「そのじゃんけんも後出しだっただろうお前····ッ!!」

 すると未だ俺の上から退かない類は、顔をしかめながらうっざと呟くのだ。

「·····そもそもさ那智さ、予定より30分も早く来たじゃん。まじ有り得ないんだけど」
「「椎名くんが歩くのが早くてね」とか言ってたけどさ、よく考えたら案内してここまで連れて来たの那智じゃん」
「まさか走って来たの?必死すぎてウケんだけど」

 類は半笑いで背後にいる那智を見やると、那智はわなわなと肩を震わせるのだ。

「真似をするなッ·····!しかも無駄に似ているッッ·····!!」

 すると息を切らし取り乱したことにハッとした那智はごほん、と咳払いをすると、徐々に落ち着きを取り戻していった。

「·····ふん、そもそもそんな猿でも分かることをよく考えないと分からないなんてね」

 那智が口元に手を当て類に向かって口角を上げると、類は頬をカッと赤く染めるのだ。

「は、ハア~~~~~~~?!まじうっさいんだけど·····ッッ!!」

 頭に血が上っている様子の類は俺を解放すると、ずんずんと那智に詰め寄り「那智だってさあ·····!」と那智を指差して何やら言い返し始めた。

 ーーなんなんだ、この小学生低学年レベルの争いは。

 まあ、丁度いい。今の内に··········

 喧嘩している二人を背に、物音を立てないようゆっくりと入口に近づいた。
  忍び足で無事に扉の前に付くと、二人から解放される安心感から、ほっと息を吐いた。
 そして、ここまで来たら後は全力で逃げるだけだと、扉に手を掛けた時だった。
 突然ふっと背後から伸びてきた二人分の影に、目の前の扉ごと包まれた。
 まさか、と恐る恐る背後を振り返ろうとした瞬間、左右から伸びてきた手にダンっと扉を押さえられ、行く手をはばまれてしまったのだ。

「·····ね、咲良ちゃんさ、そんな逃げる元気あるなら、こっちも手加減しなくていいよね?」
「一応けが人だからね。俺達なりに気は使っていたんだが·····、その必要はないようで安心したよ」

 そんな二人の声が背後から降りかかり、俺は後ろを振り返ることができなかった。
 こんなことなら全力で走って逃げるべきだったと、今になって後悔した。
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