上 下
89 / 113
高嶺の花はおねだり上手/本編その後if

32

しおりを挟む
「え~、咲良ちゃん、そんなに椎名くんのこと好きなの?でもどうせそれも嘘でしょ?俺らにも散々好き好き言ってたもんねえ」
「その気もないのにそうやって気ぃ持たせたら駄目だって。だからみーんな勘違いしちゃうんだからさ」

「··········おい、」

 類に何の話だとでも言いた気な椎名を見た類は、「あー·····、可哀想だから椎名くんに教えてあげるね」と首を振る俺を横目に、椎名にふっと鼻で笑うのだ。

「·····この子、こーんな可愛い顔してとんでもなく浮気性でさ、朝日くんと付き合ってたのに俺ら全員にも好きだなんだ言いながら股開いてたんだよ?」
「·················は、?」

 すると、押さえ付けてくる那智に未だ抵抗していた椎名の動きがピタッと止まった。
 そんな椎名の反応を見る類は「あ、やっぱなにも知らないんだね、君」と笑った。

「俺らがしょっちゅう咲良ちゃん呼び出してんのは、俺らに気ぃ持たせてたお仕置きだよ」
「そ、れ·····って、まさか··········、」
「うん。セックス」

 椎名の問いに対してさらりと返答する類に、椎名は言葉を失っていた。その瞳にはもはや色はなかった。

「でさあ、この子ともう何回もヤってんだけど、未だおしりの締まりいいんだよねえ。椎名くんもヤらせてもらった時、めちゃくちゃ気持ち良かったでしょ」
「この子いっぱい喘いでくれるしさ、もしかしたら俺のこと好きなのかもって思っちゃうよねえ」

 その気持ち分かるなあ、と類は椎名を見下ろしながらにやっと笑った。
 すると椎名は少し何か考えた後に、なあ咲良と覇気のない瞳で俺を見つめるのだ

「········初めて話した時、泣いてたよね·····。本当はそいつらの相手すんの、嫌なんでしょ·····?」

 そうだよね、と力の入っていない目で訴えられると、椎名に対して何も言えない俺に、「咲良ちゃん、分かってるよね」と類は耳打ちするのだ。
 今まで類の口から聞いたことのないくらい、その声は低かった。俺はこんな状況でありながらも、一瞬で類の言葉の意味が分かってしまった。
 そして俺は涙をぐっと堪えて感情を殺し、冷たく椎名を見下ろした。

「········椎名さあ、なに勘違いしてるか分かんないけど、ぬるいんだよお前のセックス」
「たまには味変したくてお前とヤってみたけどさ、喘ぐ演技だけで疲れるわけ。俺、お前よりこいつらとヤるの好きなんだわ。·····もうさ、俺の邪魔しないでくれる?」

 そんな俺の言葉に椎名は目を見開くと、その瞳から徐々に光は消えていった。

 「わ、キッツ」と類が呟くと、狭い空き教室に少しの間沈黙が流れた。
 すると椎名は「どいてもらっていいですか」と、自身を押さえ付けている那智に静かに目を向けた。
 そんな那智は類をちらっと見やると、類はいいんじゃない?とでも言うかのようにこくんと頷くのだ。
 那智が椎名の上から退くと、立ち上がった椎名はゆっくりとこちらに近付いてくるのだ。俺の目の前まで来ると、ピタッと足音が止まった。
 そして、黒い影にふっと顔を覆われた時、バチン!と衝撃と共に頬に鋭い痛みが走った。じわじわとした痛みが頬に広がり、恐る恐る叩かれた肌を手のひらで覆った。
 すると、上から低い声が降ってくるのだ。

「·····よく、分かったよ。お前といられて楽しかったのは、俺だけだったってことがさ」
「お前が········、そんな奴だと思わなかった」

 そう震える声で俺を見下ろす椎名の目は赤く染まり、潤んでいた。

「···············あ、」

 背を向け入口へと歩みを進める椎名に思わず手を伸ばすが、俺の声が届くことはなく、伸ばした手の奥で扉がバタンと音を立てて閉まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

淫愛家族

箕田 悠
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...