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夢が先か、現実が先か②
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「おはようヤガミちゃん、よく眠れたようね。顔がスッキリしているわよ」
五秒ぐらいしか寝てないと思うけど、睡眠の質が高かったようだ。
「ハチちゃん、今日はナナセくんと内緒話の続きをするんじゃなかったの」
看護師さんにも筒抜けの時点でナナセくんと二人だけの秘密では。はて彼女にアンドロイドのほうの名前を教えていたっけ。
「どうかした、わたしの顔になにかついている」
のっぺらぼうだった看護師さんに鼻がある。個性的というべきか骨が折れているような。
「鼻がくっついてますね」
「ファンデーションを変えたことに気づいてくれたのヤガミちゃんだけよ」
ハチと呼ばれた気がしたのはわたしの勘違いか、相性が悪いのか話も噛み合ってないし。
朝食後、鼻のある看護師さんと向かいのベッドに寝転ぶナナセくんのところに移動をした。
「おはようございます、ナナセくん。昨日の内緒話の続きをしましょうか」
「もはや内緒話じゃない気がするんだけど」
わたしの後ろに立つ鼻のある看護師さんにナナセくんが視線を向けている。
ナナセくんは鼻のある看護師さんに、話を聞かれたくないようで場所を変えることに。
とはいえ入院中の子供たちだけで遊ばせられないようで、付かず離れずで彼女はついて来ていた。
「ナナセくんは看護師さんをどうして女性だと判別できているの」
「顔とか体を見れば分かるだろう。胸や尻も大きいんだからな」
わたしと違って、ナナセくんは看護師さんの目と口が見えていると考えて良さそうか。
聞き耳は立ててないのに、廊下の人間たちの会話の内容が鮮明に伝わる。
「この病院、今日の夕方に爆破されるんでしょう」
「爆破されて当然。ここで入院していた患者さん、ばらばらにされて」
「わたしも肝臓を切り取られたわ。そのせいで酒が飲めなくなったんだから」
いつの間にか立ち止まっていたようで、上半身を横に傾けるナナセくんが、わたしの顔を心配そうに見上げていた。
パジャマがめくれて、ナナセくんの横腹から骨が剥き出しているのは幻覚に違いない。
「顔色が悪いぞ、どうかしたのか」
「病院が爆破されるとかいう話が聞こえたので不安になったんでしょうね」
「心配するな。二回も爆破なんかされないからさ」
回数は関係ないはずなのに、ナナセくんは絶対にありえないと確信しているようだった。
「秘密の部屋に案内してやるよ」
ナナセくんがわたしの手を握りしめて走る。大人のほうが手足が長いので、すぐに看護師さんに追いつかれると思っていたのに撒けてしまう。
扉を開けてないのに知らない間にかどこかの部屋に逃げこめていた。
煤か灰かは分からないけど床や壁が黒く染まり、変な臭いがするので呼吸がしづらい。
「清潔がモットーの医者やら看護師はこの黒焦げの部屋には入ってこないからゆっくり話せるぜ」
黒焦げという言葉がなんだか引っかかる。
鼻をつまみたくなるような臭いがした。酸っぱく目から涙が出てきそうな感じ。本当はアンドロイドなのに鳥肌も立ってきている。
「ヤガミが生きていた頃のこと、思い出せたかい」
「わたしはハチですし、死んだ経験はありません」
臭いはどこからしているのやら、黒焦げの部屋が暗くなってきてか自分の手足しか視界に入らない。
「どろどろしていますね、ナナセくんの手」
見えづらいがスライムみたいなナナセくんの左手がわたしの右手首にまとわりつく。
悪臭の原因はナナセくんだったらしい。
「悪夢を見せなくても、わたしはずっとこの世界にいるつもりはありませんよ。ナナセくん」
「全てを思い出したようだね、ハチ」
ナナと博士の混ぜ物であるナナセくんが笑う。
「改めて、ハチは犯人が今回の事件を起こしたことについてどう思ったかな」
「当然の仕打ちでしょうね」
神様がいて、わたしたちか犯人のどちらかが悪いと決められるなら確実にこちらが負けてしまう。
「だとしたら犯人のために殺されてあげるのかい」
「わたしが殺されて、犯人が幸せになるのであればいくらでもこの命をあげます」
「そもそも今回の結末に、ハッピーエンドはないとわたしは思うんだがね」
「それでも犯人が残りの全員を殺してもらうバッドエンドにはさせられませんよ」
犯人の気持ちは分からないがあの館で八人のアンドロイドたちが楽しく暮らしていたことも、紛れもない事実だったはずだ。
タイムリミットがあり、いつかは他の全員を殺さなければならないのが決定をしていたとしても。
「わたしは犯人にも幸せになってもらいたいです」
「どれだけ望んでも、どうにもならないのはハチも理解できているだろう」
「どうせ死ぬんですから我儘に生きようとするのが人間らしいかと。悪いですか」
拍手をするような動作をしつつナナセくんが顔の辺りを左右に揺らす。
「満点の答えだよ。おそらくもう二度とハチがこの世界に来ることは」
「わたしは忘れっぽいので、今の決意さえもいつかは消えてなくなりますよ」
「その時はもっと大人になっている君に会えるのか楽しみだな」
自問自答が終了したからかナナセくんの姿が少しずつ消えていく。
「博士とは、もう夢の中でしか会えないんですね」
言ってみただけですよ、わたしはもう博士が白衣姿だったのかどうかさえも覚えてないんですから。
五秒ぐらいしか寝てないと思うけど、睡眠の質が高かったようだ。
「ハチちゃん、今日はナナセくんと内緒話の続きをするんじゃなかったの」
看護師さんにも筒抜けの時点でナナセくんと二人だけの秘密では。はて彼女にアンドロイドのほうの名前を教えていたっけ。
「どうかした、わたしの顔になにかついている」
のっぺらぼうだった看護師さんに鼻がある。個性的というべきか骨が折れているような。
「鼻がくっついてますね」
「ファンデーションを変えたことに気づいてくれたのヤガミちゃんだけよ」
ハチと呼ばれた気がしたのはわたしの勘違いか、相性が悪いのか話も噛み合ってないし。
朝食後、鼻のある看護師さんと向かいのベッドに寝転ぶナナセくんのところに移動をした。
「おはようございます、ナナセくん。昨日の内緒話の続きをしましょうか」
「もはや内緒話じゃない気がするんだけど」
わたしの後ろに立つ鼻のある看護師さんにナナセくんが視線を向けている。
ナナセくんは鼻のある看護師さんに、話を聞かれたくないようで場所を変えることに。
とはいえ入院中の子供たちだけで遊ばせられないようで、付かず離れずで彼女はついて来ていた。
「ナナセくんは看護師さんをどうして女性だと判別できているの」
「顔とか体を見れば分かるだろう。胸や尻も大きいんだからな」
わたしと違って、ナナセくんは看護師さんの目と口が見えていると考えて良さそうか。
聞き耳は立ててないのに、廊下の人間たちの会話の内容が鮮明に伝わる。
「この病院、今日の夕方に爆破されるんでしょう」
「爆破されて当然。ここで入院していた患者さん、ばらばらにされて」
「わたしも肝臓を切り取られたわ。そのせいで酒が飲めなくなったんだから」
いつの間にか立ち止まっていたようで、上半身を横に傾けるナナセくんが、わたしの顔を心配そうに見上げていた。
パジャマがめくれて、ナナセくんの横腹から骨が剥き出しているのは幻覚に違いない。
「顔色が悪いぞ、どうかしたのか」
「病院が爆破されるとかいう話が聞こえたので不安になったんでしょうね」
「心配するな。二回も爆破なんかされないからさ」
回数は関係ないはずなのに、ナナセくんは絶対にありえないと確信しているようだった。
「秘密の部屋に案内してやるよ」
ナナセくんがわたしの手を握りしめて走る。大人のほうが手足が長いので、すぐに看護師さんに追いつかれると思っていたのに撒けてしまう。
扉を開けてないのに知らない間にかどこかの部屋に逃げこめていた。
煤か灰かは分からないけど床や壁が黒く染まり、変な臭いがするので呼吸がしづらい。
「清潔がモットーの医者やら看護師はこの黒焦げの部屋には入ってこないからゆっくり話せるぜ」
黒焦げという言葉がなんだか引っかかる。
鼻をつまみたくなるような臭いがした。酸っぱく目から涙が出てきそうな感じ。本当はアンドロイドなのに鳥肌も立ってきている。
「ヤガミが生きていた頃のこと、思い出せたかい」
「わたしはハチですし、死んだ経験はありません」
臭いはどこからしているのやら、黒焦げの部屋が暗くなってきてか自分の手足しか視界に入らない。
「どろどろしていますね、ナナセくんの手」
見えづらいがスライムみたいなナナセくんの左手がわたしの右手首にまとわりつく。
悪臭の原因はナナセくんだったらしい。
「悪夢を見せなくても、わたしはずっとこの世界にいるつもりはありませんよ。ナナセくん」
「全てを思い出したようだね、ハチ」
ナナと博士の混ぜ物であるナナセくんが笑う。
「改めて、ハチは犯人が今回の事件を起こしたことについてどう思ったかな」
「当然の仕打ちでしょうね」
神様がいて、わたしたちか犯人のどちらかが悪いと決められるなら確実にこちらが負けてしまう。
「だとしたら犯人のために殺されてあげるのかい」
「わたしが殺されて、犯人が幸せになるのであればいくらでもこの命をあげます」
「そもそも今回の結末に、ハッピーエンドはないとわたしは思うんだがね」
「それでも犯人が残りの全員を殺してもらうバッドエンドにはさせられませんよ」
犯人の気持ちは分からないがあの館で八人のアンドロイドたちが楽しく暮らしていたことも、紛れもない事実だったはずだ。
タイムリミットがあり、いつかは他の全員を殺さなければならないのが決定をしていたとしても。
「わたしは犯人にも幸せになってもらいたいです」
「どれだけ望んでも、どうにもならないのはハチも理解できているだろう」
「どうせ死ぬんですから我儘に生きようとするのが人間らしいかと。悪いですか」
拍手をするような動作をしつつナナセくんが顔の辺りを左右に揺らす。
「満点の答えだよ。おそらくもう二度とハチがこの世界に来ることは」
「わたしは忘れっぽいので、今の決意さえもいつかは消えてなくなりますよ」
「その時はもっと大人になっている君に会えるのか楽しみだな」
自問自答が終了したからかナナセくんの姿が少しずつ消えていく。
「博士とは、もう夢の中でしか会えないんですね」
言ってみただけですよ、わたしはもう博士が白衣姿だったのかどうかさえも覚えてないんですから。
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