こどくな患者達

赤衣 桃

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常識は通じない②

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「やっと起きたか、ハチ」
 ベッドの近くで胡座をかくゴウと視線が合う。
 起き抜けだからか頭の中で霧が発生している。
「今までの出来事は全て、わたしの夢だったとか」
「残念ながら、イチとシイとじじいが殺されたのは事実だな。犯人も誰か分かっていない」
 ゴウとナナが犯人の名前を口にしていたことだけが夢の中の出来事だったのかしら。
 バイク関連のアイテムが多い部屋のベッドの上で肉体をゆるやかに起こす。スタンガンの影響か首が動かしづらい気がする。
「ゴウは犯人と決着をつける予定だったのでは」
「ロクに会いに行くと言った覚えはあるけど、犯人を確実に捕まえるのにナナやハチと協力しないのは傲慢だろう」
 ゴウの意見は正しくて、わたしの記憶違いなのは彼女がいる時点で確定のはずなのに、なんだか腑に落ちない。
「悪かったな、スタンガンなんか使っちゃってさ」
「お気になさらず。ゴウが死に急いでいるとわたしが勘違いした結果なんですから」
 スタンガンのせいで記憶が消えたんだと思うが、目の前のゴウには文句を言いたくない気分らしい。そもそも自業自得で電気を流されただけだしな。
 ゴウの後ろにある回転椅子を動かしナナがこちらを見た。挨拶を交わしたが、どことなく彼女の表情が硬い印象。
「夜になったら簡単ではあるが三人の葬式を夢世界でしたいと考えているんだが、どうだい」
「犯人が捕まってからのほうが良いのでは」
「どっちにしても、じじいが殺されたことを知らせないといけないし。葬式を理由に皆に集まってもらおうという話だな」
 特にニイは自分が望んでいた展開でもあるから、断る理由もないはずだとナナが補足する。
「犯人を誘い出すための作戦でもないんですよね」
「だったらハチにも手伝ってもらうよ。わたしとは同盟関係なんだから」
 ナナが言いたくないのであればわたしは騙されてあげるべきなのだろう。道化を演じるぐらいは大根役者にもできる簡単なお仕事だ。
「葬式は夜からみたいなので、眠らせてもらっても良いですか。疲れているみたいで眠くて」
 ゴウとナナはわたしにサプライズを仕掛けたいなと考えているようだし、一番迷惑をかけない大人の対応のはず。
「遠慮することはない、ゆっくりお休み」
「なんだったら怖い夢を見ないように添い寝をしてやろうか」
 ゴウが声を震わせている。しばらく一緒に行動をしていたのに今更、緊張する訳がないので。
「わたしは寝相が良いので安心をしてください」
「心配しているのは別のことだよ」
 アンドロイドもいびきをかくのかと脳味噌を回転させている間にゴウもベッドの上に寝転んだ。
 医療室のベッドと違って小さく、年功序列ということでゴウが腕枕をしてくれる。
 目が合う、彼女はゴウなのに違う存在だとわたしは認識をしてしまう。
「本物のゴウだったら、この質問に答えられるはずです。あなたの好きな食べ物はなんですか」
「妊娠しているから酸っぱいものが欲しいわね」
 やっぱり彼女は本物のゴウのようだな。



「起こしちゃったようね、ヤガミちゃん」
 ゴウの部屋のベッドで眠っているはずなのに目を開けられた。しかも今のわたしは人間のようで頬が柔らかくて。
 手足は短いがアンドロイドみたいに冷たくない。
「変顔をしてもヤガミちゃんは笑われなさそうね」
 夢の中とはいえ看護師さんみたいな人にもわたしの正体を説明するのが筋か。彼女の心臓が驚かないように慎重に伝えないと。
「実はわたしはアンドロイドなのですが、一時的に人間に変身できています」
「ヤガミちゃんは擬態できるアンドロイドなのね」
 看護師さんにも話が通じているはずなのに、上手にあしらわれてしまった。
「アンドロイドのヤガミちゃんは人間とは違う特別な機能があったりするのかしら」
「基本的には同じですが、ベッドで充電をしないと肉体は動かなくなります」
 改めて考えると、充電するだけでも肉体を動かせそうなのに食事まで必要なんて。燃費の悪いアンドロイドにもほどがあるな。
「人間のヤガミちゃんも元気になるためにいっぱい食べようね」
 おそらく、部屋の外からキャスターを動かす音が聞こえたからか看護師さんがそちらに向かう。
 ベッドの周りに吊るされたピンク色のカーテンで姿が見えなくなったと思ったら、すぐに看護師さんが戻ってきた。
「今日は苦手な野菜を克服できるかな」
 看護師さんがサイドテーブルの上に次々とトレイを置いていく。
「病院食のフルコース、健康第一を添えてですか」
 まさか料理名を当てるとは、なんて看護師さんがリアクションをしてくれた。
 合掌をして病院食を口に運ぶ。夢の中なのにお腹が空いているのも奇妙な話だった。
「大変美味しく頂きました。よろしければシェフの方を呼んでもらえませんか」
 シェフは不在らしく、代わりに看護師さんに病院食の感想を伝える。
「ヤガミちゃんの料理への思いと苦手な野菜を食べられたことはわたしが責任を持ってシェフのところに届けるわ」
「顔のパーツみたいに忘れないでくださいね」
 看護師さんは自分がのっぺらぼうだとは気づいてないらしく首を傾げていた。
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