こどくな患者達

赤衣 桃

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すなお問題②

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「ニイを見た記憶はあるけど、毎日同じことを繰り返しているからな。朝飯からアスレチック、部屋で筋トレみたいに」
 シイが殺されてからは部屋でトレーニングをしているがな、ゴウに付き合ってもらうのも悪いしさ。とサンが続けた。
「あのさグループ分け、まだするのか。前と同じで年功序列ならニイと組むことに」
 隣の部屋のニイに聞こえるのを心配してかサンにしては珍しく小さな声でナナに確認している。
「くだんのニイ本人がグループ分けを嫌がるだろうから、好きなように行動してくれて構わないよ」
 まさに今、自分のしたことがニイにとって嫌がる類いのものだと理解をしたようでサンの目が泳ぐ。
「そこまで気にする必要もない。アンドロイドとはいえ命がかかっているんだからサンのような反応になって当然だ」
「ナナとハチが動じなさすぎるんだ。少しはサンを見習え」
 ナナはどうか知らないけど、わたしは。
「わたしはともかくハチは表情に出にくいだけだと思うよ。イチが壊れたのを認識した瞬間に、大粒の涙を流していたから」
「これまでの人生で蓄えていた目薬が出てきただけかと」
「面白い機能だな。あのじじいもたまには良いことをするじゃんか」
 ゴウがわたしの頭を乱暴に撫でる。耳から涙以外の物体が出てきたような、貴重な財産なのに。
 和やかな空気が漂っているのに冷たい視線で誰かに睨まれている気がした。
「わたしもハチ以外に涙を流すアンドロイドを見たことがないのでね。さすがに驚いた」
「だよな、わたしにも拝ませてくれよ」
「泣けと言われても、俳優じゃないですし」
 大根役者のほうがわたしにはぴったりだと思う。
「ハチの涙はまた別の機会にするとして。できれば部屋の中を見せてほしいんだが」
「別に良いけど、ダンベルとかしかないよ。その他は皆と同じでパソコンとベッドぐらい」
 部屋の扉のチェーンロックを外してもらい三人でチェックしたが言っていた通り、筋トレに使う道具以外に変わったものはない。
「ナナ、パソコンの操作は得意か。わたしは機械が苦手でさ。パスワードを入力してくださいとか催促されちまった」
「他人のパソコンのパスワードまでは分からない。サン、やってくれないか」
「つーか、これだけ協力したんだから三人の部屋もチェックさせてよ。はい、できた」
 サンがパスワードを入力するとパソコンの画面に半裸の男の姿が映った。
「むきむきですね」
「ハチにも筋肉の良さが分かるか。良いよな、この左腕の辺りとか最高だよな」
 そこまで考えた発言ではなかったのにサンが嬉しそうにパソコンの男性の左腕に浮き出ている血管を人差し指で囲むように動かす。
「サンは人体が好きなんですか」
「この男の人が全体的に好きという感じだな。肉体もそそるけど、なによりイケメンだしさ」
「見てくれに関して口を出すのは嫌だけどよ。なよなよしてそうな面じゃないか」
「そのアンバランスなところが良いんじゃん。柔和な顔に反比例する強靭な肉体がくっついているからこそ」
 どうかしたのか、とパソコンの画面を見ないように右手で顔を隠すナナにサンが視線を向けた。
「大したことじゃない、わたしは異性が苦手でね。ましてや半裸を見るなんて発想すらしたくもない」
「男性ですが、女の子みたいな顔なので平気では」
「半裸でむきむきなんだろう。どれだけ顔が可愛らしくてもね、異性に違いはない」
 消去法でわたしがパソコンの操作をすることに。
 サンのパソコンを調べてみたけど、めぼしい情報は出てこなかった。
「そうだ、前にロクの部屋にあるパソコンでわたしのところに入ったとか言われたんだが。あれはどういう意味なんだ」
「多分、ロクのパソコンからゴウが使っているコンピュータのほうに入ったという意味かと」
 ゴウには上手く伝わってないのか首を傾げられてしまう。
「今、わたしが使用しているパソコンはサンの所有物ですよね」
「サンの部屋に置いてあるからな、それは分かる」
「このパソコンでもパスワードなどを知っていたらわたしの部屋にある機械やコンピュータを操作することも可能という話です」
「ハチは天才ハッカーだったのか」
「だとしたらロクも天才ハッカーになりますね」
 サンとナナはわたしの拙い説明を聞くまでもなく分かっているらしく、にやついていた。
 ゴウかわたしのどちらを笑っているのかは、考えないでおこう。
「簡単にまとめるとさっきのパスワードを入力してくださいという画面でわたしのパソコンに入るためのパスワードを入力すると、誰でも天才ハッカーになれます」
 ゴウが目を閉じて、唸り始めている。
「わたしが機械が得意になって、ハチのパソコンのパスワードを知ればいつでも」
「できることならわたしのパソコンの秘密はそっとしておいてくれると助かります」
 なんてつっこむとゴウの目が輝いてしまった。
「ハチにも見られたくないことがあるのか、誰にも言わないから教えてみろよ」
 サンとナナが近くにいる時点で破綻しているが、別に内緒でもないので教えることに。
「日記を書いているんです」
 意外だったらしくゴウが驚いた顔をしている。
「忘れんぼうのハチという二つ名で呼ばれるので、日記を書いておけば対策ができるかと思いまして」
 たまに日記の存在自体を忘れるので変な空白期間があったりするのは黙っておこう。
「その日記、具体的にはどんな内容を書いている」
 興味があるらしくナナが食いついてきた。
「その日にあった出来事を覚えている限り、書いているだけですよ」
「最高じゃないか、ぜひとも読ませてくれ」
 わたしもナナがむきむきの半裸の男性が苦手なのを知ってしまったんだし、ハチ日記を提供するのは必然なんだと思う。
「さっそくハチの部屋に行くのか」
「その前にロクに説明をするつもりだ。良かったらサンも一緒に来るかい」
「わたしはパス、皆の部屋を調べるのもな。ハチの日記は気になるが好奇心に殺されないように部屋でトレーニングしているよ。頭脳労働は専門外だし」
 頭電話も使えないから、用があるなら部屋に来てくれとサンが別れの挨拶のつもりか手を振る。
「ゴウ、ハチ、外に出ようか」
「サンも、んぐぐぐ」
 わたしがなにを言おうとしたのかさえも分かってないはずなのに、ゴウに右手で口を塞がれた。
「ハチもイタリア語でさようならだとよ、邪魔して悪かったな」
「友達と遊んだだけのことだ、気にするなよな」
 明るい返事とは裏腹に扉の隙間から見えたサンの顔もどことなく不思議そうにしている様子だった。
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