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一人目②
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「サンが自分の部屋に移動させたんじゃないのか。あの斧は館から出るためにパソコンで注文したはずだし」
「それなら良いんだけど、武器だから色々と心配になっちゃってね」
例の変なメッセージの件もあるしとイチが呟く。
「サンは自分の部屋にいなかったんですよね」
部屋の扉をノックしたけど、どこかに行っているみたいなのよ。イチが質問に答えてくれる。
ナナの表情の変化に気づいてかイチが反応した。
「面白い出来事を思い出しただけさ。気を悪くしたなら謝るよ」
「とにかくサンを見かけたら斧のことを確認をしておいてくれない。もしもの場合は、全員に知らせておく必要があるから」
こちらに背中を向けたイチに、ところでサンに頭電話はしたのかいとナナが声をかけた。
「六階のアスレチックスペースで運動している最中とかで通話を」
「頭電話とはなんでしょうか」
イチとナナが不思議そうにわたしを見下ろす。
「頭電話を覚えていたら、部屋に行ったかをイチに聞いたりはしないか」
ナナが頭電話について教えてくれた。
わたしたちには電話の機能があり右のこめかみを三秒ぐらい押し続けたら、通話できる相手の名前がメニュー表みたいに見えるようになるんだとか。
試しにやってみると博士とサンとシイとロク以外の名前が横書きで縦に並んだ画面が、わたしの目の前に表示される。
「名前が出てないアンドロイドと博士には電話できない」
「正解。左のこめかみを同じように押し続けておくと今は電話ができないから邪魔しないで、と相手に伝えられるのよ」
イチが左のこめかみを人差し指で押し続ける。
「イチの名前が消えました」
にやつくイチが左のこめかみをもう一回押した。
「またイチの名前が出てきました」
「電話できるようになった時は左のこめかみを軽く押すと元に戻せるわ」
博士の悪戯か知らないけど電話をかけられた側は動けなくなるぐらい頭が痛くなるから、あまり使わないほうが良いわとイチが言う。
「電話をかけた側も通話中は動けなくなるから使うならベッドの上で寝転びながらするべきだな」
ちなみに通話中に動けなくなるのは人間の世界のルールを参考にわたしたちが怪我をしないように、博士が配慮したんだとか。
「分かりました。覚えておきます」
真面目に答えたはずなのにナナに笑われた。
電話表を消したい時は、右のこめかみをもう一回押せば良いようだ。
「右のこめかみを三秒、相手が電話できるか確認をして名前を口にすれば通話が可能」
「頭電話はもう完璧ね。サンに会えたら斧のことを聞いて、知らなければ全員に連絡」
イチが首を大きく横に振った。理由は全く分からないが彼女がわたしの頭に触れる。
「ハチ、わたしに電話するなら窓の光が青になってからにしてよ」
なんとなく窓に視線を向けてしまう、今は赤色。
「挨拶するのを忘れてました、こんにちは」
「今はさようならじゃないかしら」
サンに会えたらよろしく、ナナにそう言うとイチは廊下を北へ歩いていった。
「イチの言っていたことを聞いて、ハチはなにか変だと思わなかったかい」
廊下の角を曲がりイチの後ろ姿が見えなくなるとナナが耳元に顔を近づける。くすぐったいからか、肉体がびくついてしまう。
イチの違和感について聞いたが、これ以上ハチに性格が悪い存在だと認識されるのも嫌だからとナナにはぐらかされた。
「それにわたしの主観が強い仮説で。悪いがハチ、ここで待っていてくれないか」
お腹が痛くなってきたようで顔が青ざめたナナが自分の部屋に戻っていく。
窓の光を見つめてナナを待っていると、靴べらで叩かれたみたいに頭が痛くなった。しゃがみたいが両足が木の棒に変化したみたいに曲げられない。
「ハチ。わたしの声が届いている」
頭の中からシイの声が聞こえる、電話か。だから頭が痛くて肉体を動かせないけどイチが言っていたほどではないような。
「こちらは空を飛べないハチです、どうぞ」
「良かった、ちゃんと通じた」
悪い出来事がシイに起こっていてか彼女の口調が弱々しい。
「わたしの部屋に助けに来てくれ」
突然、シイの声が途切れた。頭の痛みがなくなり腕も足も動かせる。
シイはアンドロイドだけど良い人でおそらく電話を切る時も相手に心配をさせないようにするはずだから。
ナナが戻ってきてから冷静に行動しようと思っていたのに。わたしの頭の中のデータを否定するように肉体が勝手に動く。
「ナナが戻ってきてから一緒に」
なんて口にしながら廊下を北に走って、角を二回曲がってすぐのシイの部屋の扉をノックしていた。
開かないのは分かっているのにドアノブを、隙間がある。
節分の豆よりも大きい灰色の物体が挟まっていて扉が。シイが床の上に散らばっていた。彼女の破片の近くには探していた斧もあった。
「悪戯説じゃない」
身の危険を感じられる機能はないはずなのに背中が酷く冷たい。
「シイ。ごめんね、間に合わなくて」
シイを形成していた一部である顔がわたしのほうを見上げる角度で転がっている。扉に挟まっていたのは彼女の左目だったらしい。
この館のアンドロイドを全員、必ず殺す。そんな気持ちが伝わるほどシイだった肉体には何回も斧が振り下ろされていた。
「それなら良いんだけど、武器だから色々と心配になっちゃってね」
例の変なメッセージの件もあるしとイチが呟く。
「サンは自分の部屋にいなかったんですよね」
部屋の扉をノックしたけど、どこかに行っているみたいなのよ。イチが質問に答えてくれる。
ナナの表情の変化に気づいてかイチが反応した。
「面白い出来事を思い出しただけさ。気を悪くしたなら謝るよ」
「とにかくサンを見かけたら斧のことを確認をしておいてくれない。もしもの場合は、全員に知らせておく必要があるから」
こちらに背中を向けたイチに、ところでサンに頭電話はしたのかいとナナが声をかけた。
「六階のアスレチックスペースで運動している最中とかで通話を」
「頭電話とはなんでしょうか」
イチとナナが不思議そうにわたしを見下ろす。
「頭電話を覚えていたら、部屋に行ったかをイチに聞いたりはしないか」
ナナが頭電話について教えてくれた。
わたしたちには電話の機能があり右のこめかみを三秒ぐらい押し続けたら、通話できる相手の名前がメニュー表みたいに見えるようになるんだとか。
試しにやってみると博士とサンとシイとロク以外の名前が横書きで縦に並んだ画面が、わたしの目の前に表示される。
「名前が出てないアンドロイドと博士には電話できない」
「正解。左のこめかみを同じように押し続けておくと今は電話ができないから邪魔しないで、と相手に伝えられるのよ」
イチが左のこめかみを人差し指で押し続ける。
「イチの名前が消えました」
にやつくイチが左のこめかみをもう一回押した。
「またイチの名前が出てきました」
「電話できるようになった時は左のこめかみを軽く押すと元に戻せるわ」
博士の悪戯か知らないけど電話をかけられた側は動けなくなるぐらい頭が痛くなるから、あまり使わないほうが良いわとイチが言う。
「電話をかけた側も通話中は動けなくなるから使うならベッドの上で寝転びながらするべきだな」
ちなみに通話中に動けなくなるのは人間の世界のルールを参考にわたしたちが怪我をしないように、博士が配慮したんだとか。
「分かりました。覚えておきます」
真面目に答えたはずなのにナナに笑われた。
電話表を消したい時は、右のこめかみをもう一回押せば良いようだ。
「右のこめかみを三秒、相手が電話できるか確認をして名前を口にすれば通話が可能」
「頭電話はもう完璧ね。サンに会えたら斧のことを聞いて、知らなければ全員に連絡」
イチが首を大きく横に振った。理由は全く分からないが彼女がわたしの頭に触れる。
「ハチ、わたしに電話するなら窓の光が青になってからにしてよ」
なんとなく窓に視線を向けてしまう、今は赤色。
「挨拶するのを忘れてました、こんにちは」
「今はさようならじゃないかしら」
サンに会えたらよろしく、ナナにそう言うとイチは廊下を北へ歩いていった。
「イチの言っていたことを聞いて、ハチはなにか変だと思わなかったかい」
廊下の角を曲がりイチの後ろ姿が見えなくなるとナナが耳元に顔を近づける。くすぐったいからか、肉体がびくついてしまう。
イチの違和感について聞いたが、これ以上ハチに性格が悪い存在だと認識されるのも嫌だからとナナにはぐらかされた。
「それにわたしの主観が強い仮説で。悪いがハチ、ここで待っていてくれないか」
お腹が痛くなってきたようで顔が青ざめたナナが自分の部屋に戻っていく。
窓の光を見つめてナナを待っていると、靴べらで叩かれたみたいに頭が痛くなった。しゃがみたいが両足が木の棒に変化したみたいに曲げられない。
「ハチ。わたしの声が届いている」
頭の中からシイの声が聞こえる、電話か。だから頭が痛くて肉体を動かせないけどイチが言っていたほどではないような。
「こちらは空を飛べないハチです、どうぞ」
「良かった、ちゃんと通じた」
悪い出来事がシイに起こっていてか彼女の口調が弱々しい。
「わたしの部屋に助けに来てくれ」
突然、シイの声が途切れた。頭の痛みがなくなり腕も足も動かせる。
シイはアンドロイドだけど良い人でおそらく電話を切る時も相手に心配をさせないようにするはずだから。
ナナが戻ってきてから冷静に行動しようと思っていたのに。わたしの頭の中のデータを否定するように肉体が勝手に動く。
「ナナが戻ってきてから一緒に」
なんて口にしながら廊下を北に走って、角を二回曲がってすぐのシイの部屋の扉をノックしていた。
開かないのは分かっているのにドアノブを、隙間がある。
節分の豆よりも大きい灰色の物体が挟まっていて扉が。シイが床の上に散らばっていた。彼女の破片の近くには探していた斧もあった。
「悪戯説じゃない」
身の危険を感じられる機能はないはずなのに背中が酷く冷たい。
「シイ。ごめんね、間に合わなくて」
シイを形成していた一部である顔がわたしのほうを見上げる角度で転がっている。扉に挟まっていたのは彼女の左目だったらしい。
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