こどくな患者達

赤衣 桃

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アンドロイドにも魂①

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 一緒に眠っていたはずのゴウの姿がなかった。
「起きたようだね、ハチ」
 机の前の回転椅子に座ったナナがこちらに視線を向けている。
「なにか面白い夢でも見たのかい。随分とスッキリとした顔を」
「わたしも犯人が分かりました」
 ナナは表情を変えずに回転椅子から立ち上がり、ベッドに近づいてきた。
「絶対にハッピーエンドにならない」
「だけど犯人に殺されたとしても同じことかと」
 ナナがベッドに腰を下ろす。わたしになにか言いかけたがやめてしまった。
「答え合わせをしなくて良いんですか」
「絶対にハッピーエンドにならないとハチも確信をしているのなら大筋は同じだろう。証拠などもすでに用意してあるし」
 物的証拠は存在しないはずだが、ナナのことだし奇策でもあるのかもしれないな。
「最後の晩餐になるかどうかは不明だが食事を」
「夢の中で病院食を頂いたので平気そうです」
 いつものわたしらしい言動と判断したようでナナの表情に変化なし。
「ハチのためにホワイトボードに注文してくれたが必要がなく」
「お腹がへっこんできたので食べたいです」
「随分と人間らしい考え方をするようになったね」
 わたしのためにホワイトボードに料理を注文してくれたのを恥ずかしがってか、ゴウがトイレの扉を盾にしてこちらを見ている。
「ゴウ、わたしのために料理を注文してくれていてありがとうございます」
「気にするな。当然のことをしただけだよ」
 しばらくは楽しく会話していたはずなのに、いつの間にか三人とも無言で料理を夢中で口に運ぶようになっていた。
 絶対にハッピーエンドにならない。
 アンドロイドでも人間でもどんなことであろうと幸せなほうが良いに決まっているのに、わたしたちの運命はすでに。



「思い残すことはもうありません」
「嘘でも思い残すことはあってくれよ。今から犯人と対決しなきゃならないんだからさ」
 ゴウが言う犯人との対決の詳細はあえて聞かないまま出ていき隣の部屋にいるはずのロクを訪ねた。
「ロクは部屋を出てきてくれないのではゴウが説得しても無理だったですし」
「心配ない、問題はニイのほうだがそちらも切り札があるから杞憂だと思う」
 ゴウもロクとニイを説得できる妙案を知っているようで黙ったまま。
 ナナの言っていたように、いつぞやと違いロクはあっさりと自分の部屋から出てきた。アンドロイドだけどまるで人が変わったみたいだな。
「わたしが眠っている間にロクを根気強く説得でもしていたんですか」
「ロクは素直な性格だからね。今の状況とこれから起こるであろう展開を丁寧に説明したら納得をしてくれただけさ」
 ロクがわたしに抱きつく。これまでの彼女からは考えられないような行動だからか頭が混乱する。
「本当にロクなんでしょうか」
「ごめんね。わたしもハチと仲良くしたかったんだけど、どうしても素直になれなくて」
 わたしが困っていると判断してか、ゴウがロクを引き離してくれた。
「ほのぼのするのは良いけどよ。大変な状況だってことも忘れないでくれよ」
「分かっているって、これから犯人と対決だろう」
 力強くわたしの手を握りしめるロクと目が合う。
「ハチはわたしが守ってやるからな」
 違和感の正体はゴウとロクの性格が入れ替わっているみたいに感じているからなのか。
「どうかしたのかい、ハチ」
「重要なことが分かった気がしたんですけど忘れてしまいました。多分ゴウとロクに関してかと」
「ゴウとロクが双子ということじゃないのかい」
「ナナの言う通りかもしれませんね」
 ロクに手を握られたままナナの後ろをついていき南からニイの部屋の前に移動をする。
 ゴウは背後から犯人が襲ってくる可能性を考えてか一番後ろを歩いていた。
「ニイ、中にいるならノックだけでも良いから返事をしてくれ」
 廊下の窓から射しこむ光が青だし、ニイは部屋で眠っている時間帯のはずだが。
「こんな時間に非常識だと思わないの」
 ナナのノックにいらついてか扉越しにニイの荒らげた声が聞こえる。
 今から博士とイチとシイの葬式をするために八階の夢世界に来てくれないかとナナが頼んでいるが。
「博士やイチやシイには悪いけど絶対に行かない。わたしたちだけならともかく、彼まで殺されたなら身を守るためには自室にいるのが一番安全」
 そもそも葬式の話自体が嘘で、もしかしたらナナが犯人に脅迫されている場合もあるでしょうとニイが言う。
「わたしがニイと話をすれば」
「ありがたいけど、今のニイにはハチが説得しようしても無駄だ。自分の命以上に可愛いものはない」
 ニイの説得を諦めたんだと思っていたナナの行動を見て声が出てしまう。
 ゴウとロクは知っていたようで冷ややかにナナを見ている。英語でわたしをほめてくれていた彼女が素直に部屋を出てきているのも当然だった。
「この館には安全な場所なんて存在しないんだよ」
 目の前の現実を見せられてニイも困惑をしている様子。自分の命が大事だと彼女が考えているなら。
「一緒に行くしかなさそうね。博士とイチとシイの葬式もできるみたいだし、一石二鳥かしら」
 冗談を口にするもニイの身体は震えていた。犯人の気分次第で殺せたんだから当たり前か。
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