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ペットにもどすための絶望
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シュウジのちぎれた右腕が回転をしながら空中を舞っている。まばたきさえもしなかったはずなのに女神がどうやって切りとったのか見えなかったからか彼が歯ぎしりをした。
「どうして分身の右腕を。ガントを巻きつけてないんだから本体は丸分かりだろうが」
「ちょっとした確認だよ。分身の強さが本体と同じかどうかのな、単純に五倍ということか」
ひとしきり殴り合って、テーブルや玉座の破片が散らばる部屋にいる本体もふくめた五人のシュウジたちを女神が順番に見る。
右腕をちぎられた分身も五体満足に戻っていた。
「誤算か?」
「そうだな。フミダインで手に入れた、そのガントがこれほどとは思ってなかったからな」
わたしが殺したやつが命がけでつくったものとはいえ……と女神が軽く笑う。
「ずいぶんと」
「油断しているのはそっちだろう。分身はあと一人だぞ」
シュウジの分身がそれぞれ一瞬で細切れに、全身をサイコロステーキほどの大きさまで圧縮させられたり、雑巾のようにしぼられてヒモ状に破壊されてしまった。
「ふむ、さすがに本体と違ってそこまで破壊すればもとには戻らないようだな」
後手では殺されると判断をしたシュウジと分身の完璧に連携のとれた打撃を避けつつ女神がそれらの肉片を観察する。
「本体はどうかな?」
女神と目が合い、シュウジが後ろにジャンプして彼女から距離をとった。やわらかいものが彼の背中に触れる。
「そう嫌がることもないだろう、シュウジ」
行動を読んでいたようでシュウジの背後にまわりこんでいた女神が邪悪そうな笑みをつくり耳もとでささやく。風切り音も聞こえ。
「おっ、なかなかやるな」
全身に無数のえぐられたような切り傷をきざまれながらもなんとかシュウジは女神の顔面を殴ろうとしたが当たらない。
そんな空振りの反動にも耐えられなかったようでシュウジの左腕が床に落ちた。
「とっさに限界まで肉体の強度を上げたか。わたしも甘いな……全力で切りきざんでおけばシュウジもペットに戻るという選択をしてくれた可能性もあるのに」
「まだ、ゆるしてくれるつもりで?」
「わたしは優しい女神さまだからな。あの遠まわしな死刑にしてもそうだ、シュウジが退屈だろうからと配慮しただけのこと」
「それでおれに殺されるとはマヌケにもほどがある女神さまだな」
「よしよし。そうでないとな」
シュウジの全身の切り傷と左腕が完璧に再生したのと同時に女神がすばやく右の手刀を振りおろす。
やっと目が慣れてきたらしく自分のほうへと真っすぐ向かってくるブーメランのようなかたちの風の刃をシュウジが紙一重でかわした。
「風の女神さまだったんだな」
「うん? ああ、目が慣れてきたのか。隠していたつもりもないがそのとおりだ。風の力加減しだいでひしゃげたり、圧縮したりできる」
こんな風にな、とシュウジの分身が真っ白な床にめりこむほど潰されて破壊される。
「分身はもうつくってくれないのか? たくさんのシュウジに囲まれるのがわたしの夢だったのに」
「嫌味はやめてくれませんかね。あのレベルの分身がもうつくれないことを知っているくせに」
「できないのか、本当に?」
「女神さまにうそはつきません。さっきの数の分身が今のおれの限界ですよ」
「そんなシュウジでも……スオウには優しいうそをついてやるとは。さすがに自分の母親を殺したことを悟らせたくはないか?」
精神攻撃の一種だと考えたのかシュウジはなにも言わず、できるだけ反応しないようにしていた。
「スオウはやっぱりリンネの子どもだったか」
「そもそも、わたしとシュウジに子どもができないことは教えていたはずだが」
「おれの不死身の遺伝子がほしくて女神さまがだましていたかもしれないかと」
「自意識過剰だな。まあ、そういう可能性も」
じゃらじゃらと鎖同士の擦れ合うような音が聞こえると女神の全身を見えないヒモ状のなにかが巻きつき拘束をしていく。
が……すぐに風の刃で切ったようで見えない鎖の破片が不規則につぎつぎと落下する。
「シュウジは本当にうそつきだな」
鎖と同じように透明になっていたシュウジの分身を切りきざんだようで、なにもないところに無数の赤い線が浮かびあがり消えてしまった。
「どうした? わたしの風の刃はガントを切れないとは言ってないだろう。それに今のシュウジの複製したものだったら、なおさら」
シュウジの右腕とともにガントが切れていた。彼が床に落ちた自分の一部を見下ろす。
「さすがにわたしと同じ立場の神が最後の力をふりしぼってつくったものはこわせないかその程度ならそのうちもとに戻る。けど、ペットの心をへし折るには充分だったようだな」
自分の右肩を左手で触りながら、いっこうに右腕が再生しないことに腹が立っているのかシュウジの目つきが鋭くなる。
先ほどと違い、ゆるやかに右腕が再生していく。
「さあ、次はどんな風に楽しませてくれるんだ」
「共闘とか……どうでしょうかね」
「ああ。スオウか、すでに殺してある。最初に地上にいたシュウジの分身をひしゃげた時に一緒にな」
「それは」
「ダミーなのも分かっているよ。あの辺りは遭難をした人間の遺体がたくさんあるからなー、スオウとメイとかいう女の身代わりもつくれる。悪くはない作戦だったな」
「どうして分身の右腕を。ガントを巻きつけてないんだから本体は丸分かりだろうが」
「ちょっとした確認だよ。分身の強さが本体と同じかどうかのな、単純に五倍ということか」
ひとしきり殴り合って、テーブルや玉座の破片が散らばる部屋にいる本体もふくめた五人のシュウジたちを女神が順番に見る。
右腕をちぎられた分身も五体満足に戻っていた。
「誤算か?」
「そうだな。フミダインで手に入れた、そのガントがこれほどとは思ってなかったからな」
わたしが殺したやつが命がけでつくったものとはいえ……と女神が軽く笑う。
「ずいぶんと」
「油断しているのはそっちだろう。分身はあと一人だぞ」
シュウジの分身がそれぞれ一瞬で細切れに、全身をサイコロステーキほどの大きさまで圧縮させられたり、雑巾のようにしぼられてヒモ状に破壊されてしまった。
「ふむ、さすがに本体と違ってそこまで破壊すればもとには戻らないようだな」
後手では殺されると判断をしたシュウジと分身の完璧に連携のとれた打撃を避けつつ女神がそれらの肉片を観察する。
「本体はどうかな?」
女神と目が合い、シュウジが後ろにジャンプして彼女から距離をとった。やわらかいものが彼の背中に触れる。
「そう嫌がることもないだろう、シュウジ」
行動を読んでいたようでシュウジの背後にまわりこんでいた女神が邪悪そうな笑みをつくり耳もとでささやく。風切り音も聞こえ。
「おっ、なかなかやるな」
全身に無数のえぐられたような切り傷をきざまれながらもなんとかシュウジは女神の顔面を殴ろうとしたが当たらない。
そんな空振りの反動にも耐えられなかったようでシュウジの左腕が床に落ちた。
「とっさに限界まで肉体の強度を上げたか。わたしも甘いな……全力で切りきざんでおけばシュウジもペットに戻るという選択をしてくれた可能性もあるのに」
「まだ、ゆるしてくれるつもりで?」
「わたしは優しい女神さまだからな。あの遠まわしな死刑にしてもそうだ、シュウジが退屈だろうからと配慮しただけのこと」
「それでおれに殺されるとはマヌケにもほどがある女神さまだな」
「よしよし。そうでないとな」
シュウジの全身の切り傷と左腕が完璧に再生したのと同時に女神がすばやく右の手刀を振りおろす。
やっと目が慣れてきたらしく自分のほうへと真っすぐ向かってくるブーメランのようなかたちの風の刃をシュウジが紙一重でかわした。
「風の女神さまだったんだな」
「うん? ああ、目が慣れてきたのか。隠していたつもりもないがそのとおりだ。風の力加減しだいでひしゃげたり、圧縮したりできる」
こんな風にな、とシュウジの分身が真っ白な床にめりこむほど潰されて破壊される。
「分身はもうつくってくれないのか? たくさんのシュウジに囲まれるのがわたしの夢だったのに」
「嫌味はやめてくれませんかね。あのレベルの分身がもうつくれないことを知っているくせに」
「できないのか、本当に?」
「女神さまにうそはつきません。さっきの数の分身が今のおれの限界ですよ」
「そんなシュウジでも……スオウには優しいうそをついてやるとは。さすがに自分の母親を殺したことを悟らせたくはないか?」
精神攻撃の一種だと考えたのかシュウジはなにも言わず、できるだけ反応しないようにしていた。
「スオウはやっぱりリンネの子どもだったか」
「そもそも、わたしとシュウジに子どもができないことは教えていたはずだが」
「おれの不死身の遺伝子がほしくて女神さまがだましていたかもしれないかと」
「自意識過剰だな。まあ、そういう可能性も」
じゃらじゃらと鎖同士の擦れ合うような音が聞こえると女神の全身を見えないヒモ状のなにかが巻きつき拘束をしていく。
が……すぐに風の刃で切ったようで見えない鎖の破片が不規則につぎつぎと落下する。
「シュウジは本当にうそつきだな」
鎖と同じように透明になっていたシュウジの分身を切りきざんだようで、なにもないところに無数の赤い線が浮かびあがり消えてしまった。
「どうした? わたしの風の刃はガントを切れないとは言ってないだろう。それに今のシュウジの複製したものだったら、なおさら」
シュウジの右腕とともにガントが切れていた。彼が床に落ちた自分の一部を見下ろす。
「さすがにわたしと同じ立場の神が最後の力をふりしぼってつくったものはこわせないかその程度ならそのうちもとに戻る。けど、ペットの心をへし折るには充分だったようだな」
自分の右肩を左手で触りながら、いっこうに右腕が再生しないことに腹が立っているのかシュウジの目つきが鋭くなる。
先ほどと違い、ゆるやかに右腕が再生していく。
「さあ、次はどんな風に楽しませてくれるんだ」
「共闘とか……どうでしょうかね」
「ああ。スオウか、すでに殺してある。最初に地上にいたシュウジの分身をひしゃげた時に一緒にな」
「それは」
「ダミーなのも分かっているよ。あの辺りは遭難をした人間の遺体がたくさんあるからなー、スオウとメイとかいう女の身代わりもつくれる。悪くはない作戦だったな」
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