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殺し合いはとつぜんに
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これ以上ないほど念入りにシュウジは自分の息子だと自称をするスオウと女神との仲なおりの方法について打ち合わせをした。
「こんなに話し合う必要があるのか?」
そうスオウに聞かれたりもしたが、失敗をすれば確実に殺されてしまうからだとシュウジは伝える。
「スオウもその女神のお母さんと似ているところがあるだろう、リンネの件だよ。おそらくお前も頭に血がのぼって……つい殺してしまったはず」
「確かにそうだったな」
「裏表のない性格なんて言いかたもあるが誰だって殺されたくない。お母さんよりも弱っちいお父さんだったらなおさら、そのためにこんなに綿密に話し合っているんだよ」
「弱者なりの生き残りかたというやつか」
「そうだ。だから、そんな弱っちいお父さんに力を貸してくれ」
「悪いお父さんですね。自分の息子までも復讐するために利用をするなんて」
茶屋の近くの丸太小屋の中のベッドですやすやと眠っているスオウに毛布をかけながら、シュウジをなじるようにメイは口にする。
「息子だからこそ手伝ってもらっているんだよ……仲なおりができればおれも殺そうとはしない」
「そんな可能性は絶対にないと確信している表情をしていますよ、スオウくんのお父さん」
窓際の近くに設置した木製の椅子に座るシュウジが空に浮かぶ半月を見つめていた。
「夫婦とはいえ違う生きものだからな。どうやってもわかりあえない場合もあるさ」
「それでも自分の息子さんに実の母親を」
「いや、そうはならない。むしろスオウは率先しておれのお嫁さんを名乗っている女神さまを殺さなければならない可能性のほうが高い」
「どういう意味ですか?」
シュウジの仮説を聞き、メイが膝から崩れ落ちるように床に座りこむ。しばらくして彼の巧妙なうそだと考えたのか首を横に振った。
「もしも、そうじゃなかったらどうするんですか。自分の母親を殺すことになるんですよ」
「そのときはそのときだ。さすがにとどめはおれがさすつもりだが、あの女神さまはそんな簡単に殺させてはくれない」
「本当に仲なおりはできないんですか?」
「お互いにそんなことができる性格だったらこんなこじれた関係になってない。メイからすれば女神とおれはただ憎しみあっているだけに見えているかもしれないが少し違う」
まさか自分の口からこんなロマンチックな言葉がでてくるとは、と思ったのかシュウジがゲラゲラと笑っている。
「ふふっ、あの牢屋ではじめて会った瞬間からこうなるのは分かっていた。多分……女神さまもなぁ。どちらかの心臓をとめることだけがおれたちの愛情みたいなものだ。おれはそもそも不死身だけど」
「女神さまなら、さすがのシュウジさんでも殺せる可能性はありますよ」
「ようやく信じてくれたか」
「わたしはいつでもシュウジさんを信じてますよ。その選択が大多数の方々にとって間違っていても」
「別にメイがついてくる必要もないと思うが?」
「女神さまが殺されるところをかぶりつきで見れるチャンスはそんなにありませんからね」
「あっそ」
木製の椅子にもたれかかりシュウジが眠ったのを確認してからメイもスオウが横になっているベッドにお邪魔していた。
「甘いな。シュウジ」
玉座に肘をついて座る、シュウジのものと似た柄の着流し姿の女神がつぶやく。
目の前の黒く長いテーブルに置かれた羽のようなもののはえたデザインの鏡にはシュウジがうつっていた。
「自分で言っていたではないか……弱者は生き残るために脳みそを全力で回転させなければならない。わたしとお前の息子と名乗るスオウを、一応は母親という立場が監視しないわけないだろう」
その父親が仲なおりか殺し合いの二択を選ばなければならない状況だったら、なおさらな。そう言いつつ女神が鏡のほうに右手をのばす。
右手のひらいていた五指をとじて……女神が握りこぶしをつくると木製の椅子に座って眠るシュウジの上半身がひしゃげていく。
「な、にが」
「お前が望んでいた死刑だよ。シュウジ」
鏡ごしにシュウジに返事をしたが、女神の言葉になにも反応をしないまま彼の全身から骨の折れる音が響き。
「久しぶりだな。シュウジ」
握りつぶされたはずのシュウジが玉座の背もたれもろとも女神の顔面を殴ろうとしたが、彼女の左手の中指だけであっさりと受けとめられてしまう。
くだけた玉座の背もたれの破片が床に落ちる。
「やっぱり奇襲は失敗か」
「なかなか悪くなかったぞ。フミダインのマドミカとかいう女に対して分身をつかってなければ、一発だけなら殴られていたかもしれない」
まだ座った状態の女神のその言葉を聞きシュウジがにやついた。
「ということは」
「ああ、お前の行動は今までずっと監視していた。手札は全部わたしにバレている」
今なら……まだ飼い主とペットという関係をやりなおしてやってもいいがどうする? そんな女神の提案はお断りなのかシュウジが首を横に振る。
「そこまで徹底的に対策するということはおれにも勝ち目があるということだろう?」
「楽観的だな。そういうところもわたしは嫌いじゃなかったよ」
「うそを」
「本当だ。大切なおもちゃを自分の手でこわすのはいつだってかなしいものだぞ」
「まだ」
シュウジの視界が上からゆっくり血を垂らされたように赤く染まる。ようやく彼も頭部の一部が切りとられたことに気づいたらしく女神に奪われた分の脳みそが再生しはじめた。
いつの間にか黒く長いテーブルの上に立っていた女神がシュウジの頭の一部をお手玉のように天井に投げる。
「ふむ、切りとった瞬間に再生をするかと思ったがその不死身の肉体も恣意的なんだな」
「もっと分かりやすく言ってくれ」
「その不死身の肉体は自動で再生しているわけではなくてシュウジの気持ちで手動で回復しているようだと言ったんだ。簡単にまとめれば」
シュウジが自分は死んだと認識すれば、おそらく再生することはなくなるということだな。と女神がにやつく。
ほうり投げたシュウジの頭の一部がテーブルの上に落ちたのとほとんど同時に彼と女神は殺し合いを再開した。
「こんなに話し合う必要があるのか?」
そうスオウに聞かれたりもしたが、失敗をすれば確実に殺されてしまうからだとシュウジは伝える。
「スオウもその女神のお母さんと似ているところがあるだろう、リンネの件だよ。おそらくお前も頭に血がのぼって……つい殺してしまったはず」
「確かにそうだったな」
「裏表のない性格なんて言いかたもあるが誰だって殺されたくない。お母さんよりも弱っちいお父さんだったらなおさら、そのためにこんなに綿密に話し合っているんだよ」
「弱者なりの生き残りかたというやつか」
「そうだ。だから、そんな弱っちいお父さんに力を貸してくれ」
「悪いお父さんですね。自分の息子までも復讐するために利用をするなんて」
茶屋の近くの丸太小屋の中のベッドですやすやと眠っているスオウに毛布をかけながら、シュウジをなじるようにメイは口にする。
「息子だからこそ手伝ってもらっているんだよ……仲なおりができればおれも殺そうとはしない」
「そんな可能性は絶対にないと確信している表情をしていますよ、スオウくんのお父さん」
窓際の近くに設置した木製の椅子に座るシュウジが空に浮かぶ半月を見つめていた。
「夫婦とはいえ違う生きものだからな。どうやってもわかりあえない場合もあるさ」
「それでも自分の息子さんに実の母親を」
「いや、そうはならない。むしろスオウは率先しておれのお嫁さんを名乗っている女神さまを殺さなければならない可能性のほうが高い」
「どういう意味ですか?」
シュウジの仮説を聞き、メイが膝から崩れ落ちるように床に座りこむ。しばらくして彼の巧妙なうそだと考えたのか首を横に振った。
「もしも、そうじゃなかったらどうするんですか。自分の母親を殺すことになるんですよ」
「そのときはそのときだ。さすがにとどめはおれがさすつもりだが、あの女神さまはそんな簡単に殺させてはくれない」
「本当に仲なおりはできないんですか?」
「お互いにそんなことができる性格だったらこんなこじれた関係になってない。メイからすれば女神とおれはただ憎しみあっているだけに見えているかもしれないが少し違う」
まさか自分の口からこんなロマンチックな言葉がでてくるとは、と思ったのかシュウジがゲラゲラと笑っている。
「ふふっ、あの牢屋ではじめて会った瞬間からこうなるのは分かっていた。多分……女神さまもなぁ。どちらかの心臓をとめることだけがおれたちの愛情みたいなものだ。おれはそもそも不死身だけど」
「女神さまなら、さすがのシュウジさんでも殺せる可能性はありますよ」
「ようやく信じてくれたか」
「わたしはいつでもシュウジさんを信じてますよ。その選択が大多数の方々にとって間違っていても」
「別にメイがついてくる必要もないと思うが?」
「女神さまが殺されるところをかぶりつきで見れるチャンスはそんなにありませんからね」
「あっそ」
木製の椅子にもたれかかりシュウジが眠ったのを確認してからメイもスオウが横になっているベッドにお邪魔していた。
「甘いな。シュウジ」
玉座に肘をついて座る、シュウジのものと似た柄の着流し姿の女神がつぶやく。
目の前の黒く長いテーブルに置かれた羽のようなもののはえたデザインの鏡にはシュウジがうつっていた。
「自分で言っていたではないか……弱者は生き残るために脳みそを全力で回転させなければならない。わたしとお前の息子と名乗るスオウを、一応は母親という立場が監視しないわけないだろう」
その父親が仲なおりか殺し合いの二択を選ばなければならない状況だったら、なおさらな。そう言いつつ女神が鏡のほうに右手をのばす。
右手のひらいていた五指をとじて……女神が握りこぶしをつくると木製の椅子に座って眠るシュウジの上半身がひしゃげていく。
「な、にが」
「お前が望んでいた死刑だよ。シュウジ」
鏡ごしにシュウジに返事をしたが、女神の言葉になにも反応をしないまま彼の全身から骨の折れる音が響き。
「久しぶりだな。シュウジ」
握りつぶされたはずのシュウジが玉座の背もたれもろとも女神の顔面を殴ろうとしたが、彼女の左手の中指だけであっさりと受けとめられてしまう。
くだけた玉座の背もたれの破片が床に落ちる。
「やっぱり奇襲は失敗か」
「なかなか悪くなかったぞ。フミダインのマドミカとかいう女に対して分身をつかってなければ、一発だけなら殴られていたかもしれない」
まだ座った状態の女神のその言葉を聞きシュウジがにやついた。
「ということは」
「ああ、お前の行動は今までずっと監視していた。手札は全部わたしにバレている」
今なら……まだ飼い主とペットという関係をやりなおしてやってもいいがどうする? そんな女神の提案はお断りなのかシュウジが首を横に振る。
「そこまで徹底的に対策するということはおれにも勝ち目があるということだろう?」
「楽観的だな。そういうところもわたしは嫌いじゃなかったよ」
「うそを」
「本当だ。大切なおもちゃを自分の手でこわすのはいつだってかなしいものだぞ」
「まだ」
シュウジの視界が上からゆっくり血を垂らされたように赤く染まる。ようやく彼も頭部の一部が切りとられたことに気づいたらしく女神に奪われた分の脳みそが再生しはじめた。
いつの間にか黒く長いテーブルの上に立っていた女神がシュウジの頭の一部をお手玉のように天井に投げる。
「ふむ、切りとった瞬間に再生をするかと思ったがその不死身の肉体も恣意的なんだな」
「もっと分かりやすく言ってくれ」
「その不死身の肉体は自動で再生しているわけではなくてシュウジの気持ちで手動で回復しているようだと言ったんだ。簡単にまとめれば」
シュウジが自分は死んだと認識すれば、おそらく再生することはなくなるということだな。と女神がにやつく。
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