死ねないペットの女神殺し計画

赤衣 桃

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危険なショートカット

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 次の目的地であるオトナゲと呼ばれる地域の近くの茶屋でシュウジとメイは休憩をしていた。昼食をとってからそれほど経ってないが彼女は団子に似た和菓子を口に運ぶ。
「甘いものはいくらでも入るんです」
「なにも言ってないが」
 木製のベンチに座るメイの横にある高く積みあげられた瓦のような皿をシュウジがちらりと見た。
「わたしの甘いもの好きはともかく……世界最高のイレズミ師がシュウジさんの身体にタトゥーを入れられたらいいですね」
「邪推かもしれないが、結果はすでに分かっているみたいに聞こえるんだけど」
「なにごともやってみないと分かりませんよ。神々の血を凝縮したものを飲み干して耐えられたほどの肉体にタトゥーを入れられるかも不明ですし」
 湯気がでているお茶に息をふきかけてメイが半分ほど飲む。目の前に見える雄大な自然の景色を見て癒やされているのか彼女の顔がゆるんでいく。
 草木のにおいにまじって人間の腐ったような刺激臭もしているがメイは気づいてなさそうだった。
「なんで、おれがそんな物騒なものを飲んだことをメイが知っているんだ?」
「神さまがテレパシーで教えてくれました」
「そうかい」
「信じてなさそうですねえ。悪人を名乗るシュウジさんらしい考えかただと思いますが」
 どうやったら今の話を信じてもらえるのか考えているようでメイが目を閉じて、小さくうなる。
「おおっ……ちょうどいい情報を神さまから教えてもらいましたよ。もうすぐこの場所にシュウジさんの子どもだと名乗る小さな男の子が来ます」
「へー」
 小馬鹿にしたようにシュウジがにやついた。
「そのおれの子どもの名前は?」
「スオウくんですね。見た目は五、六歳ぐらいですが。今のシュウジさんでも簡単には勝てないレベルの生きものみたいかと」
「ヘンな言いかただな。おれの息子だとしたら一応は人間なんじゃないのか?」
「いえ。女神さまと人間のハーフみたいで」
 はるか上空から勢いよくおりてきたスオウの両足がシュウジの頭を踏みつけ、地面にめりこませた。
「女神さまと人間のハーフみたいで。シュウジさんの頭の上に落下してくるので気をつけてくださいと言いかけたのですが……少し遅かったようで」
 ベンチが壊れなくてよかった、と地面に頭をめりこませたシュウジを尻目にメイが口にしていた。
「おい、そこの女。このあたりでぼくのお父さんを見なかったか? シュウジという名前なんだが」
「ほらっ、息子さんが呼んでいますよ。お父さん」
 地面にめりこんだままのシュウジの背中のあたりをメイが平手で軽く叩く。
「ちょっとだけ待っててね。今、きみのお父さんをひっこ」
「ぼくを子どもあつかいするなよ。女」
 空気をぴりつかせて、なんとかまばたきをできるほどのほんの一瞬でメイを……スオウが魔法で消しとばそうとしたが。
「こらっ、そんなあぶないことしたらダメ。わたしだけじゃなくて山が三つぐらい消えちゃうでしょ」
 いつの間にかメイに後ろから抱きしめられていたことに驚いているようでスオウが目を丸くする。
「それとわたしの名前はメイ。まだ名前の知らない女の子を呼ぶときはスオウくんだったらお姉ちゃんが一番いいと思うなー」
「メイ、お姉ちゃん」
「そう」
「メイお姉ちゃん」
「いいねー。スオウくんにそんな風に呼ばれちゃうとお姉ちゃんもほれちゃいそうになるぜ」
 メイとスオウがそんな会話をしている間に意識を取り戻したらしく地面から頭をひっこぬきシュウジが首を左右に動かして音を鳴らす。
 ゆっくりとしゃがみこんだシュウジがスオウの顔をまじまじと確認する。
「おれの子どもにしては面が善人すぎるな」
「うまれたてはみんな大体こんな感じですよ」
 スオウがまた山を消しとばそうとしないようにかメイが彼を後ろから優しく抱きしめた状態で言う。
「そんなもんかね。本当におれとあの女神さまからうまれたんだとしたらスオウだっけ。お前、リンネってやつを知っているか?」
「ああ。ぼくのお嫁さんにする予定だったが、ぼくを子どもあつかいしたから殺した」
「よし、おれの息子で確定だ。よろしくな」
「今ので確定なんですか! しかもさらっと物騒なことも言ってましたし!」
「そんなに物騒でもないだろう……こいつぐらいの年頃の男だったら年上の女を自分の嫁さんにしたいと考えてもおかしくないし」
「そっちじゃありませんよ!」
 つっこんでいるメイのことを気にせずシュウジはスオウと力強く握手をした。
「お前がぼくのお父さん?」
「そうだ。まあ、おれなんかを尊敬する必要はさらさらない。今のところはスオウさまのほうが圧倒的に強いんだからな」
「聞いていたとおりのお父さんみたいで」
 自分をそれほど子どもあつかいしないシュウジの態度を気に入ったようでスオウがにやつく。
「それで、なんでこんなところにいるんだ? 付き添いがいたってことはおれに会いに来たとかか」
「ああ」
「そうかい。いじらしいことで」
「お母さんとケンカをしているなら、ぼくが仲介役をやってやるが」
「息子さんもこう言ってますし、お母さまとの仲介役をやってもらったほうがいいと思いますよ」
 シュウジと女神の事情を正しく理解しているかは不明だがメイがスオウの提案を後押しした。
「仲なおりか。今のおれよりもはるかに強いスオウさまの提案だから拒否もできないよな」
 しぶしぶ了承をしたという雰囲気のため息をつきながらメイとスオウには見えないようにシュウジは邪悪そうな笑みを浮かべる。
「思ったよりはやく復讐できそうだよ。女神さま」
 とシュウジはつぶやいていた。
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