死ねないペットの女神殺し計画

赤衣 桃

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地上にうみおとされました

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「おや、雷ですかね?」
 また神の声でも聞こえたのか、とでも言いたそうにシュウジが隣に立つメイを見下ろす。
「どう見ても晴れだと思うが」
「ええ。ですが……ちょうどフミダインの方向から雷鳴が聞こえた気がしまして」
「フミダインの方向からか」
 そちらにシュウジが振り向くがすぐに興味がなくなったようで次の目的地のほうへと移動する。メイもゆるやかに彼を追いかけた。
「気にならないんですか? もしかしたらあの蠱毒の国を終わらせた生きものが誕生をしたのかもしれませんよ」
「そうだとしたら今のおれの手には負えないレベルということになるな」
「謙虚ですね」
「事実だよ。フミダインの女の兵士長みたいなやつにも不意打ちでなんとか勝てたようなものだし」
「マドミカさんですか。でも、あの方はフミダインを愛しすぎていて自分の力を制御をしている部分もあったかと」
 なにかのきっかけでその制御がなくなったら大変ですけど、メイが笑っている。
「そのマドミカよりもメイは強いのか?」
「強いにも色々とあるので。腕っぷしではなく言葉だったら勝てる可能性があると思います」
 メイがそう答えることを分かっていたようでなにも言わずにシュウジはスルーした。
「シュウジさんも腕っぷしはそれなりにあるんですからそれ以上は強化しなくてもいいのでは? 基本的には超能力で生きものを洗脳できますし」
「おれの復讐相手にその超能力は効かない。しかも身体能力も桁違いすぎるんだよ」
「ほほう。神さまみたいな生きもので」
「女神さまだからな」
「本物の女神さまかどうかはおいといて。最終的にたよりになるのは肉体だけという神さまからの教訓ですね」
 というかシュウジさんの超能力で身体能力を極限まで強化するイメージをしたらいいのでは? そうメイがさらっと言う。
 自分の超能力について詳しくメイに話してないのはシュウジも分かっているようだがそれほど驚きはないらしい。
「それにも限界がある。ガントで強化された超能力をつかっても復讐相手の単純な身体能力にはとても及ばない」
「こちらから提案をしておいてですが、リソースの問題もありますね。身体能力だけ互角でもその他の部分も対抗できるレベルでなければ負けてしまう」
「分かりやすい解説をありがとうございます」
「しかしシュウジさんの超能力は本当に便利だとは思いますよ。ガントの時みたいに自分の肉体の強化方法をイメージするだけでその答えを教えてくれるんですからね」
 超能力の無効化をどうにかする対策より先に肉体強化をがんばろうとするシュウジさんの考えかたもいじらしいですが……そうメイは言葉を続けた。
「超能力の無効化をどうにかする方法はあるのか」
「アイテムにたよっている場合であればそのものを取りあげればいいですが。そういう体質の方は基本的に対処できません」
 魔法だけでなく武器なども発展しているのはそのへんの理由だったりしますね。そんな知識をドヤ顔のメイからシュウジは聞かされている。
「例外があるってことか?」
「特定の魔法だけが効かないとか。肉体に無効化のアイテムを埋めこんだり、タトゥーを入れていればその部分をえぐったりすれば可能性はあるかと」
「タトゥーか」
「シュウジさんの不死身の肉体にタトゥーを入れることはできるんですか?」
「試したことがないからな。ただ、おれの肉体強化方法はそのタトゥーらしいんだよな」
 えぐられたり、削られたりしても不死身の肉体であればタトゥーも元通りになってくれるから合理的な方法だとシュウジさんの超能力が教えてくれたんでしょうかね。
 うーん、と悩んでいるようなポーズをとるメイを鋭い目つきでシュウジは見下ろしたが。すぐに……今は彼女とあらそっても意味がないと思ったらしく彼はおだやかな顔つきをしていた。



 フミダインからはるか東の方向にある大陸。メメナイの小さな集落の周辺をその地域では奇抜な姿の男児が夜中に歩きまわるという噂があった。
 和風という言葉を連想させる、さまざまな種類の折り紙の柄をパッチワークしたような肌のその男児が三日月の下でいつものように遊んでいると、近くの集落に住む人間に声をかけられる。
 本当に男児を心配するようなセリフをその人間は口にしていたが、彼はむかついたらしく近くの集落もろとも魔法で消しとばしてしまった。
「うるさい。子どもあつかいするなよ……女神の母さんは立派な大人だって認めてくれているんだぞ」
 もうこの世からいなくなってしまった集落の人間に対してか頬をふくらませながら男児は言った。
「そうだよね! リンネ」
「はい。スオウさまはあの最強の女神であるメグミさまの息子で立派な大人でございます」
 にっこりと笑顔をつくりメイド服のような格好をしているリンネがスオウの言葉を全て肯定する。
「だよねだよね。そうだ、リンネ。ぼくのお父さんもこの世界にいるんだったらさ、会ってもいい?」
「スオウさまがお父さまと出会ったことをお母さまに秘密にしてくれるのであればいくらでもお手伝いをさせてもらいますが」
「秘密にできるよ!」
「本当ですかね?」
「本当だよ。リンネはぼくのお嫁さんにしてあげるんだから、お母さまに殺されるようなことは絶対にしないよ。リンネもぼくと同じ気持ちでしょう?」
「はい。わたくしもスオウさまと同じ気持ちです。スオウさまのお嫁さんにしてもらえる……その時を楽しみにしており」
「だから子どもあつかいするなって。頭悪いな」
 リンネの首がちぎれた。彼女の頭部がのっかっていた肉体が草むらの上に倒れた。頬をふくらませたスオウが口から炎をはきだす。
 焼けこげていくリンネの遺体をなんの感情もなさそうにスオウが見る。
「また新しいお嫁さんをさがさないと。でも、もしかしたらぼくのお父さんが見つけてくれているかもしれないな。血がつながっているんだし」
 そのお嫁さんがシスターだったら最高だな。
 そうつぶやき、スオウは飛行機のようなポーズをとって血のつながった父親のいる方向に空を飛んでいく。
 焼けこげたリンネの遺体の灰が心配そうにスオウを追いかけるようにただよっていた。
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