死ねないペットの女神殺し計画

赤衣 桃

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良くも悪くも共感優先

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「なにをしている」
 無数の拳をくっつけたような城の中をシュウジとメイが歩きまわっていると甲冑を着た女に声をかけられた。
「リーダーさんに会いたいのですが……以前に来たときとは全く違う内装になってしまったようなので迷っております」
 甲冑を着た女がメイの姿を念入りに確認をする。見覚えがあったらしく金属の擦れあう音をさせつつ彼女が軽く頭を下げた。
「わざわざシスターさまがここに来るのも珍しい。なにかそれほどの用事でも?」
「わたしはただの付き添い。用事があるのは友人である彼のほうです」
 バイザーで顔を覆われて分からないがシュウジに視線を向けたようで甲冑を着た女がそちらに身体の正面を合わせる。
「こちらの方がですか」
「はい。確か、フミダインではそろそろ武術大会のようなものが開催される予定だったかと」
「そうですが。この城に来る必要はないはず」
「ええ。ですが律儀な彼はその大会を開いてくれたリーダーさんに少しだけでもお礼の言葉を伝えたいとわたしに頭を下げてきたもので」
「はあ、こちらの方がそれほどのことを」
 メイのうそに合わせるべきかどうかを考えているのかシュウジは黙っていた。彼が漂わせる邪悪そうなものを感じてか甲冑を着た女が気づかれないように臨戦態勢をとる。
「立場的にこういうことを言わなければならないのをゆるしてほしいのだが。こちらの方におどされていたりしませんか? シスターさま」
「仮にそうだとしても、わたしには言えません」
「命が危ういかもしれない状況と分かっていても」
「ええ……わたしの命一つでこちらの方が結果的に救われるのであれば助けるのがシスターだと思っていますから」
 それにここに来るまでにわたしのほうがなん回も命を救ってもらいました、とメイが言う。
「少し意地悪なことも言わせてもらうとフミダインでも似たようなやり方をされているのでは? 規模的にも彼のほうがつつましいかと」
 耳の痛いことを聞かされたのもあってか、甲冑を着た女が臨戦態勢を解除した。
「シスターさまが納得されているのならどのような関係であろうと口を挟む権利はありませんが。もめごとだけはできるだけ避けてくれませんか」
「すでにそっちの連中になん回か襲われたんだが」
 ようやく口を開いたシュウジの顔のほうを分かりづらいが甲冑を着た女が見ている。
「それはすまなかった」
 シュウジを異国の存在だと判断してか甲冑を着た女がゆっくりと謝罪の言葉を口にした。
「失礼でなければ、お詫びをさせてもらいたい」
「おれは別にいいんだが。このシスターさまが一人で行動をしているときに襲われる可能性があるからどうにかしてくれないか」
「シスターさまが……ですか」
 含みのある言いかたをしつつ甲冑を着た女がメイを見下ろす。
「おそらくフミダインの国民ではなく、武術大会に参加をする予定のものたちだったのでしょう。このあたりの階層に住む方々にしてはかなり人相の悪い印象でしたし」
「そうでしたか。パトロールの兵を増やし、邪魔でなければシスターさまにも護衛を」
「わたしなどの護衛よりもパトロールの強化をするほうが良いと思います。シュウジさんもいますし」
 そう言ってメイがシュウジの左腕に抱きついた。今の彼女の行動の裏の意味を察してか甲冑を着た女が先ほどよりも深く頭を下げる。
「そうだ。ついででもないですけど……武術大会の優勝商品であるガントを見せてもらえませんか?」
「分かりました。では、こちらへ」
 甲冑を着た女を追いかけようとしたがシュウジの左腕をメイがはなそうとしない。
「シスターさん、歩きづらいんですけど」
「これは失礼。殿方のたくましい腕に抱きついたのは久しぶりだったものですから」
「恋人同士のふりをする必要までないのでは」
「甘いですね。シスターという立場とはいえ更生のためだけにそこまで身を捧げられるものなのか? と疑ってしまうのが人情」
「愛情ならそういう行動も理解されやすいと?」
「人間というものは自分の尺度で当てはまる答えをさがしてしまうので。とくにシュウジさんのような方は偏見をもたれやすいですし」
「冷静な分析をありがとうございます」



 甲冑を着た女に案内をされた部屋の中央のあたりにある台座に保管されたはずの優勝商品のガントがなくなっていた。
 その部屋の扉の前で警備していた兵士たちも誰も来ていないと証言をしており、危害もくわえられていない。
「他の場所からこの部屋まで穴などを掘ったとか」
「それはほとんど不可能かと、この部屋だけでなくフミダイン全土自体そのような加工ができません。できるとすれば可能性は二つ」
 と甲冑を着た女が人差し指と中指をのばす。
「一つはリーダーがもつホレルンというアイテムをつかった場合……もう一つはこの世界には数人しかいないレベルの魔法をつかえる存在の仕業」
「後者の可能性は低いのでは? それほどの実力者ならガントを求める必要なんて」
「おそらくガントの強化や複製でさらに巨大な力を欲しているんだと思います」
「だが、ホレルンのほうが可能性は高いんだろう。そのリーダーの画策でガントを盗まれたことにして優勝商品をそれとなく変更しようと」
 甲冑を着た女とメイの会話に横槍を入れてきた、シュウジにむきだしの敵意が向けられる。
「なんて言った?」
「今、お前はなにを言ったんだ。おい!」
 部屋を警備する兵士たちの肩をそれぞれにつかみながらも甲冑を着た女もシュウジに殺気立っているようで荒く呼吸をくり返す。
「異国のものと理解しているつもりだが、すまないが。今の言葉だけは訂正をしてくれないか……リーダーを侮辱したことは事実なので」
「リーダーを侮辱したつもりはなかったんだ。今回のところはゆるしておいてくれ」
 もめごとはシュウジもできるだけ避けたかったのかあっさりと簡単な謝罪をした。
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