死ねないペットの女神殺し計画

赤衣 桃

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謙虚そうでもないシスター

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「ちっ」
 なんとか銃をかまえるハンターの攻撃を最小限でかわしたが村人だと思われる人間が舌打ちをした。
 村人だと思われる人間が自分のケガの具合を確認する間に若手の男がすばやく距離をとる。
「おーい、平気か。変異種くん」
「ヘンなあだ名はやめてください。鼻血は出てますが骨に異常はなさそうです」
「とっさに後ろにとんでいたもんな」
 移動しながら話しているのか両手にナイフを握る女の声があちこちから聞こえた。
「んで、イケてるお兄さんは人間?」
「わざわざ質問してもらって悪いが……答えが一つしかないような。どっちにしろだろう」
「まあね。かなり好みだから」
「時間かせぎ。ありがとうございます」
 逃げようとしたのかそんな動きを見せた村人だと思われる人間の全身を消しとばさんばかりの勢いで一直線に炎が通りすぎていき。
「ふう」
 真っすぐ長いトンネルが開通したように、激しい炎でくりぬかれた燃える地面の上に倒れる村人だと思われる人間を若手の男が見下ろす。
「しぶといな。今のをくらって原形があるとは」
「手加減しました」
「うそつけ」
 両手にナイフを握る女が若手の男につっこむ。
「とにかく今回の依頼はこれで完了だな」
「この人が噂の元凶だと?」
 おそらくな……と若手の男の疑問に銃をかまえるハンターが答える。
「それにしても最後のこいつの動き」
「やっぱり、あんたも気づいていたか」
「なにか違和感でもあるんですか。先輩方」
「いや。魔法で拘束をしてくれ、全力でな」
 若手の男に魔法で拘束をさせた上で銃をかまえるハンターは用意していた荒縄らしきもので村人だと思われる人間をさらに縛りあげていた。



「牢屋がこれほど似合うやつもいないよな」
 自嘲するように村人だと思われる人間、シュウジが赤褐色のレンガのようなものでつくられた牢屋に放りこまれている。
 両手首に巻きつけられた縄をちぎり、シュウジが左右の腕をそれぞれにぶらつかせた。
 牢屋を見回りに来た人間を気絶させて鍵を奪い、シュウジは彼になりすますことに。
「兄ちゃん、脱獄するつもりならその鍵くれよ」
「あいよ」
 シュウジが放りこまれていた牢屋の向かいに囚われているフードをかぶったやつに鍵を渡す。
「ところで、ここはどこなんだ」
「アテナシ収容所だが、そういえば兄ちゃんは気絶したままでここに来たんだったな」
「近くに人間はいるのか?」
「東のほうに集落があるけど、食料には期待しないことだ。基本的に部外者には売ってくれないし」
「じゃあ、ここで奪ったほうがいいか」
 がちゃり、とフードの男が牢屋から出てきた。
「兄ちゃんも窃盗で?」
「そんなところだな。森で暮らしていたんだが食料に困っていたところに三人組にからまれた」
 多分、おれが森に住みついていたから駆除業者を雇ったんじゃないか。とシュウジが言う。
「このへんの森は……ナイネナンか確かにあそこのモンスターは美味しくないな。食いでもないし」
 フードの男がシュウジの服装を確認している。
「それにしても兄ちゃん、ムリヤリ連れてこられたわりには服がきれいなような?」
「女神さまの餞別だから丈夫なんだろうよ」
「頭のほうは強く打ったみたいだが」
 そう言いフードの男はシュウジに軽く頭を下げるとどこかに行ってしまった。
 シュウジも食料を奪ってからフードの男に教えてもらった集落に向かった。



 追手を撹乱するために他の囚人たちも解放をしたシュウジはアテナシ収容所の東のほうにある集落に到着した。
 ほとんど似たような格好ではあるがシュウジの顔に見覚えがないようで集落の住人は目を合わせようともしない。
 フードの男がアドバイスしていたとおりに食料も売ってもらえなさそうだな……とでも言いたそうにシュウジが息をつく。
 雨風のしのげそうなところをさがしていると集落の住人たちが集まっているところにシュウジが視線を向けた。その中心から演説でもしているのか女の声が高らかに聞こえる。
 シスターのような格好の女性が集落の住人たちに薬品のたぐいを渡したり彼女の魔法で治療しているようだった。
 ひととおり、ケガをしていたであろう集落の住人たちをさばき終わった白髪で幼い顔立ちのシスターとシュウジの目が合う。
「治療……ではなさそうですね」
 シュウジの全体象を見ながらシスターが言った。
「薬でしたら、病状などを教えてもらえればこちらで調合できますが」
「そういうのはいいんだ。このへんのことを教えてほしくてな」
「そうでしたか。どうか、こちらの住人たちのことをおゆるしください」
 シスターが土下座のようなポーズをとる。
「あんたが謝る必要もないし、気にしてない。似たようなことはよくあったからな」
「ですが、あなたが抱えるどす黒い欲望はどうか、わたしだけに向けてくださると助かります」
「おれの心が読めるのか?」
「表面的なものだけですが」
 地面に頭をこすりつけたままでいるシスターの姿をシュウジが見下ろす。
「頭を上げてくれ。さすがに目立ちすぎる」
「では」
「ああ。あんたにもここの住人にもなにもしない」
「ありがとうございます」
 シュウジの言われたとおりに頭を上げて、正座をしているシスターがにっこりと笑う。
「あの……なにか」
 ゆっくりとかがみこみ、シュウジがシスターの顔を色んな角度から確認していた。そんな彼の行動を不思議に思ってか彼女が首をかしげる。
「年齢は?」
「一応、成人はしております」
「薬を売ったりしているということは神さま関係の仕事をしているんだよな」
「薬は販売してませんが、そうですね」
 なにかを考えているらしくシュウジが黙った。
 値踏みをするようにシスターの赤い目ややわらかそうな身体を上から下へシュウジが視線を動かす。
「あんたをおれの女にしてもいいか?」
「すみません。やめてもらえると助かります」
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