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自業自得の偽善者
第41話
しおりを挟む「同じじゃないか。もう少し詳しく教えてもらえるかな」
キズナの返事に、黒っぽい背広を着ている男性が興味が湧いたようでにやついている。
「ぼくじゃなくてもいいだろう。さっさと殺せよ、殺人鬼」
「君のようなタイプははじめてなんだよ。今までも同じような質問をしたことはあったんだが、彼女が死ぬと精神も折れてしまうのかまともに答えてくれなくてね」
黒っぽい背広を着ている男性はなにかするつもりなのか、ベルトコンベアの上の青みがかった黒髪の女の子の遺体をキズナの近くまで引きずってきた。
「今回は、おじさんが彼女を踏みつぶして殺した。もしも鉄骨で頭をつぶされてしまった事故死だった場合はその原因である工事関係者をうらむのかい」
「ぼくが答える義務はないだろう」
「それもそうだね」
黒っぽい背広を着ている男性はうなずくと、青みがかった黒髪の女の子をのけぞらせ後頭部とかかとをくっつけようと曲げている。
お腹の皮がちぎれているようでゴムがすり切れる時のような音がした。
あまりにも残酷な光景なのかキズナは胃液を吐きだしながら嗚咽をもらす。
「なに……しているんだよ」
「見てのとおり遺体を細かくしている。焼くにしても埋めるにしても小さいほうが処理しやすいから」
「目の前でする必要はないだろう」
「目の前でしない理由もないな。それと彼女が折りたたまれるところを見せてあげようと思ってね」
「頭がおかしいんじゃないのか」
「おじさん本人のほうがよく分かっているよ」
キズナと話をしつつ黒っぽい背広を着ている男性が青みがかった黒髪の女の子をボーリングボールのようにしていく。
「その工事関係者が自分のミスを隠蔽した結果だとしたら、そいつをうらむ可能性はあるだろうな」
「ん? ああ。さっきの質問か、わざわざ答えなくても良かったのに。律儀だねえ……君は」
「お前をうらむってことだよ」
涙を流しながらも、自分をにらみつけてきているキズナの顔を見てか黒っぽい背広を着ている男性が笑いだした。
「悪い悪い、なるほど。それもはじめてだな。オカルト攻撃というか幽霊に転職しておじさんを殺してやるというタイプのおどしか」
「そんな幼稚な考えかたじゃない、お前は悪人だ。神さまなんて信じてないが。いつか、いつかお前を裁く存在が必ず」
「現れるだろうね。おじさんの経験を言わせてもらえるならその存在とやらはおじさんよりも悪人なんだろう。おじさんが悪だと思う存在なんだからね」
黒っぽい背広を着ている男性が、キズナの右手の中指を折り曲げる。
「うっ……あ、ああ」
「君がおじさんを悪人だと思っている理由は、おじさんが君にとって理不尽なことをしているからなんだろうね」
キズナの右手の薬指も折り曲げられてしまった。
「君にとって理不尽だと思う行為は君だけが感じていることだ。マゾヒストの人間からすれば快楽だと考える人間もいるのも事実じゃないか」
「それは、ただの詭弁だろうが」
「ああ、詭弁だね。だが考えかたの一つであることも事実だ。君は否定するがもしかしたら彼女は理解してくれたかもしれないね」
キズナの右手の指を全て折ってしまったのか黒っぽい背広を着ている男性が、彼の左手の指を順番に折りつづけていた。
「そんなへりくつ、理解するわけないだろうが」
「君は彼女じゃないのにどうして分かるんだい?」
「まともじゃないからだ。お前が殺人鬼で、異常者だからだ!」
「ひどいことを言う。おじさんは少し変わっているだけでれっきとした人間なのに」
「お前なんか人間じゃない」
折れている指の痛みで意識がもうろうとしているのかキズナが目を細める。彼の顔が青白く染まっていく。
「そういうことにしておこう。君にとっておじさんは宇宙人みたいなものなんだろう」
なにかを思い出したのか黒っぽい背広を着ている男性がスラックスのポケットに手をつっこんだ。
「そうだそうだ。宇宙といえば……変わった色の石を拾ったんだ。おじさんの予想だけどこれは間違いなく隕石だろうね。この石を見ているだけで興奮を今日の君はとことん運が悪いようだ。どこかに落としてしまったらしい」
黒っぽい背広を着ている男性の言葉はすでに聞こえてないようでキズナが天井を見上げている。
廃工場の天井には穴があいており、きれいな青空と白い雲が見えた。
「死ぬ前に見せてあげようと思ったのにとても残念だよ」
「ごめん、な……き」
キズナが唇を動かしている。誰かの名前を呼んでいるようだ。
黒っぽい背広を着ている男性がキズナの首をへし折る。彼の口から空気が抜けるような音がした。
キズナの身体に巻きつけていたガムテープをはがしてボーリングボールみたいになってしまった青みがかった黒髪の女の子の横に彼を引きずっていく。
「き、ごめんな」
まだ生きていたのか、風の音がそう聞こえているだけなのかキズナの身体から奇妙な声が聞こえる。
黒っぽい背広を着ている男性にはその声のようなものは聞こえてないのか気にした様子もなくキズナの身体も丸くしていた。
「さ……き。ごめんな。ほんとうに、ごめん。もっといっしょに」
青みがかった黒髪の女の子とキズナを転がし……黒っぽい背広を着ている男性が事前に用意していたであろう底が見えない大きな穴へと落とした。
その近くに立てかけてあったスコップをつかい、黒っぽい背広を着ている男性が土をかぶせる。
「これもなかった……ことに、なら」
大きな穴を埋め終えると、奇妙な声も聞こえなくなった。黒っぽい背広を着ている男性は空を見上げながら口笛を吹いていた。
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