少年少女のくすぶった感情ども

赤衣 桃

文字の大きさ
上 下
35 / 43
みんなにも平等なナイトメアを

第34話

しおりを挟む

「あなたがもっていた青白い石はさっきの青い怪物が壊してしまったんですね」
 キズナの態度を気にしながらも、対抗する手段がないのでどうしようもないと判断したのか。サキが話を進めようとしている。
「そうだけど今さら、ぼくの能力のことを確認する必要はないんじゃない」
「もう一つ……あなたには人間を怪物にする能力があるはず、そのことを教えてもらえませんか」
「教えてもいいんだけどねえ。なんとなく気づいているんじゃない」
「仮説ですから正しいとは限らないので、あなたの口から聞かせてほしいですね」
「ぼくも全てを知っているわけじゃない。それでもいいなら教えてあげるよ」
 サキがうなずいていた。
「オッケー。まずは赤い石と青白い石について……この二つは全く違うものだとぼくは認識している」
「赤い石は人間に特殊な能力をつかえるようにするアイテム」
 サキの仮説を聞き、キズナが声をだして笑う。
「なんですか」
「ああ、ごめんごめん。なるほどなるほど。確かに普通はそういう風に考えるだろうね」
 浮かべた涙をぬぐいつつキズナがサキをなだめるような動作をする。
「ついでに教えてほしいんだが君は青白い石をどういうアイテムだと思っているんだい」
「に、人間を怪物にするアイテム」
「なるほどね。ぼくや君たちの能力が一つずつしかないんだし、消去法で青白い石がそういうアイテムだと考えたというところか」
 思考のプロセスを読まれて悔しいのかサキが顔をしかめていた。
「おっと、笑ったことを気にしているなら謝るよ。ごめん。ただ君の考えかたは正しいというか常識的すぎてね、ついつい」
 キズナが口もとを右手で覆って、笑うのを堪えているようで肩を揺らす。
「あなたの仮説は違うんですか」
「というか、そもそもの前提が違うんだろうね」
 話の順番を考えているのかキズナが天井を見る。まとまったのかサキのほうに視線を戻していた。
「君は、ぼくをなんだと思っている」
「人間じゃないんですか? 好きか嫌いかでいえば嫌いなタイプですけど」
「タイプはさておき人間だと認識をしてくれているようだね。けど、ぼくや君が人間だと誰が決めたんだ? 神さまかな」
「決めているというより生きもの的にそういう種類だと言われているからだと……あなたが言うように本来は人間という名前で分類されてないのかもしれませんけど」
 もっとひろく考えるなら宇宙人と呼べなくもないがほとんどヘリクツや言葉遊びのような気がする。
「少し話が逸れてしまったけど人間の定義がかなり曖昧なものだと言いたいだけなんだ」
「えっと、ネコにはネコの特徴。犬には犬の特徴があるように人間には人間の特徴があると思わないかということですか」
「そんなところだね。その人間らしいものの一つが感情だと、ぼくは考えている」
 サキも同意しているのか首を縦に振っていた。
「今の話を前提にすると君たちが怪物と呼んでいた存在たちもひろい意味では人間だと呼べなくはないだろう」
「どちらかというとその怪物たちこそが本来の人間の姿である可能性もありますね」
 自分が考えていたことと同じことをサキが言ったからかキズナが拍手をしている。
「そのとおりだ。否定するかもしれないが、ぼくと君はとても相性が良い。考えかたがとても似ているんだろうね」
「はあ。またですか」
 どうしてハリヤマさん以外の男の子とはこう考えかたが合致するんだろうな。
「その怪物たちこそが本来の人間なのかもしれないということは分かりましたけど、そもそも赤い石と青白い石はなんのためにつくられたんですか」
「それについては、ぼくも分からない。そのことをヒマつぶしに調べるために青白い石をつかっていた感じだからね」
 キズナをにらんだが今さらそのことを言及しても意味がないと判断したようでサキは息をはきだしている。
「その青白い石をつかった理由はなんとなく分かりました。ハリヤマさんに赤い石を渡したのはなんでですか? なかったことにする能力があるとはいえわざわざ同じ能力者を増やす必要もないでしょう」
「彼にそんなものを渡してないよ。そもそもぼくが赤い石の存在を知ったのは君が能力をつかえるようになった頃と同じぐらいだったはずだし」
「えっ」
「今、君も言っていたじゃないか。ぼくが赤い石をはじめからもっていたなら、そんな面白そうなものをわざわざ手放したりしないさ」
「そう……ですよね」
 それじゃあ、ハリヤマさんは赤い石をどこで。
「だったらあなたはいつ、なかったことにする能力をつかえるようになったんですか。能力をつかえるなら赤い石をどこかで見ているはず」
「覚えてないんだよね。確かに君の言うとおり……なかったことにする能力を使えるんだからどこかで赤い石を見ているはずなんだが」
「都合が悪い情報なんですか」
 キズナが嘘をついていると思っているのかサキの目つきが鋭くなっていく。
「確かに、ぼくにとって都合の悪い情報と邪推するのは分かるが。なかったことにする能力をつかえるのに、ここで話さない理由がないと思わないか」
「能力者の記憶をなかったことにできないからじゃないんですか。アキグチくんの記憶を消せなかったのと同じように」
「アキグチくん? それは誰の」
 椅子から立ち上がったサキが思いきり、キズナの顔面を殴った。彼が後頭部を床に叩きつけている。
「ぶん殴りますよ」
「もう殴っているけどね……今のは冗談だ。勘弁をしておいてくれないか」
 倒れているキズナを殴ろうとしたようで、サキは右の拳を振りあげていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

マーちゃんの深憂 設定・用語集

釧路太郎
キャラ文芸
『マーちゃんの深憂』 設定や用語を解説しています

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...