少年少女のくすぶった感情ども

赤衣 桃

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みんなにも平等なナイトメアを

第34話

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「あなたがもっていた青白い石はさっきの青い怪物が壊してしまったんですね」
 キズナの態度を気にしながらも、対抗する手段がないのでどうしようもないと判断したのか。サキが話を進めようとしている。
「そうだけど今さら、ぼくの能力のことを確認する必要はないんじゃない」
「もう一つ……あなたには人間を怪物にする能力があるはず、そのことを教えてもらえませんか」
「教えてもいいんだけどねえ。なんとなく気づいているんじゃない」
「仮説ですから正しいとは限らないので、あなたの口から聞かせてほしいですね」
「ぼくも全てを知っているわけじゃない。それでもいいなら教えてあげるよ」
 サキがうなずいていた。
「オッケー。まずは赤い石と青白い石について……この二つは全く違うものだとぼくは認識している」
「赤い石は人間に特殊な能力をつかえるようにするアイテム」
 サキの仮説を聞き、キズナが声をだして笑う。
「なんですか」
「ああ、ごめんごめん。なるほどなるほど。確かに普通はそういう風に考えるだろうね」
 浮かべた涙をぬぐいつつキズナがサキをなだめるような動作をする。
「ついでに教えてほしいんだが君は青白い石をどういうアイテムだと思っているんだい」
「に、人間を怪物にするアイテム」
「なるほどね。ぼくや君たちの能力が一つずつしかないんだし、消去法で青白い石がそういうアイテムだと考えたというところか」
 思考のプロセスを読まれて悔しいのかサキが顔をしかめていた。
「おっと、笑ったことを気にしているなら謝るよ。ごめん。ただ君の考えかたは正しいというか常識的すぎてね、ついつい」
 キズナが口もとを右手で覆って、笑うのを堪えているようで肩を揺らす。
「あなたの仮説は違うんですか」
「というか、そもそもの前提が違うんだろうね」
 話の順番を考えているのかキズナが天井を見る。まとまったのかサキのほうに視線を戻していた。
「君は、ぼくをなんだと思っている」
「人間じゃないんですか? 好きか嫌いかでいえば嫌いなタイプですけど」
「タイプはさておき人間だと認識をしてくれているようだね。けど、ぼくや君が人間だと誰が決めたんだ? 神さまかな」
「決めているというより生きもの的にそういう種類だと言われているからだと……あなたが言うように本来は人間という名前で分類されてないのかもしれませんけど」
 もっとひろく考えるなら宇宙人と呼べなくもないがほとんどヘリクツや言葉遊びのような気がする。
「少し話が逸れてしまったけど人間の定義がかなり曖昧なものだと言いたいだけなんだ」
「えっと、ネコにはネコの特徴。犬には犬の特徴があるように人間には人間の特徴があると思わないかということですか」
「そんなところだね。その人間らしいものの一つが感情だと、ぼくは考えている」
 サキも同意しているのか首を縦に振っていた。
「今の話を前提にすると君たちが怪物と呼んでいた存在たちもひろい意味では人間だと呼べなくはないだろう」
「どちらかというとその怪物たちこそが本来の人間の姿である可能性もありますね」
 自分が考えていたことと同じことをサキが言ったからかキズナが拍手をしている。
「そのとおりだ。否定するかもしれないが、ぼくと君はとても相性が良い。考えかたがとても似ているんだろうね」
「はあ。またですか」
 どうしてハリヤマさん以外の男の子とはこう考えかたが合致するんだろうな。
「その怪物たちこそが本来の人間なのかもしれないということは分かりましたけど、そもそも赤い石と青白い石はなんのためにつくられたんですか」
「それについては、ぼくも分からない。そのことをヒマつぶしに調べるために青白い石をつかっていた感じだからね」
 キズナをにらんだが今さらそのことを言及しても意味がないと判断したようでサキは息をはきだしている。
「その青白い石をつかった理由はなんとなく分かりました。ハリヤマさんに赤い石を渡したのはなんでですか? なかったことにする能力があるとはいえわざわざ同じ能力者を増やす必要もないでしょう」
「彼にそんなものを渡してないよ。そもそもぼくが赤い石の存在を知ったのは君が能力をつかえるようになった頃と同じぐらいだったはずだし」
「えっ」
「今、君も言っていたじゃないか。ぼくが赤い石をはじめからもっていたなら、そんな面白そうなものをわざわざ手放したりしないさ」
「そう……ですよね」
 それじゃあ、ハリヤマさんは赤い石をどこで。
「だったらあなたはいつ、なかったことにする能力をつかえるようになったんですか。能力をつかえるなら赤い石をどこかで見ているはず」
「覚えてないんだよね。確かに君の言うとおり……なかったことにする能力を使えるんだからどこかで赤い石を見ているはずなんだが」
「都合が悪い情報なんですか」
 キズナが嘘をついていると思っているのかサキの目つきが鋭くなっていく。
「確かに、ぼくにとって都合の悪い情報と邪推するのは分かるが。なかったことにする能力をつかえるのに、ここで話さない理由がないと思わないか」
「能力者の記憶をなかったことにできないからじゃないんですか。アキグチくんの記憶を消せなかったのと同じように」
「アキグチくん? それは誰の」
 椅子から立ち上がったサキが思いきり、キズナの顔面を殴った。彼が後頭部を床に叩きつけている。
「ぶん殴りますよ」
「もう殴っているけどね……今のは冗談だ。勘弁をしておいてくれないか」
 倒れているキズナを殴ろうとしたようで、サキは右の拳を振りあげていた。
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