少年少女のくすぶった感情ども

赤衣 桃

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みんなにも平等なナイトメアを

第31話

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 中庭の地面へと叩きつけたヌイの近くに青い怪物がゆるやかに着地をした。
 ヌイの頭からあふれてくる血がひろがり、辺りに生えている草が赤く染まっていく。
「さすがにこれでもう、うごかないはず」
「なーんか強そうなのがいるね」
 青い怪物がびくつき声のしたほうに顔を向ける。
 頬に赤い血のようなものをくっつけ日本刀を握りしめているアヤが上履きの音を響かせながら昇降口の近くを歩いている。
「お前が原因? 生徒全員を怪物にした」
 アヤは昇降口側にある中庭の出入り口の前で立ち止まり、青い怪物に刀身を向けている。
「まあ、どっちでもいいや。そんなことよりもサキは無事なんだよね、ヌイ」
「むだ。こいつはもう」
「ああ。体育館の渡り廊下で待っているよ」
 足もとから聞こえてきた声に青い怪物がびくびくとしながら起き上がろうとするヌイを見下ろす。
「ば、ばけもの」
「まさか怪物にそんなこと言われるとは。おっと、さすがに血を流しすぎだな……ふらふらする」
 ヌイが腕立ての要領で身体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。能力で手当てをしているのか自分の頭をなでた。
「あれっ……攻撃をしてこないの。それともハーフタイムってことかな」
 ふらついているヌイがにやつき、昇降口の近くにいるアヤの姿を確認している。
 青い怪物もヌイが見ている方向にいる存在を警戒しているのか動こうとしない。
「それで一人で勝てそうなの?」
「いや……ムリかな。ぶっちゃけるとアヤでも手に負えないだろうね。間違いなく過去最強ですから」
「ふーん、そうなんだ」
 アヤは怒っているようでヌイの顔をにらみつけている。そんな彼女の表情が面白いらしく肋骨の痛みに耐えるように彼は笑った。
「いてて、そうだそうだ。その他の怪物たちは」
「切った」
「それはすごい。が、こちらの怪物さんはやっぱりお姉さんでもムリでしょうね」
 ヌイが青い怪物をいちべつしている。
「それじゃあ、なんでその怪物さんは警戒して動けなくなっているのかしら」
「ぼくとアヤのコンビネーションを警戒してくれているのかと」
 アヤがため息をつくと、連動をするようにヌイも大きく息をはきだした。
「取り越し苦労ね」
「全くだよね。ぼくとアヤが連携なんてできるわけがないのに」
 頭の手当てが終わったようでヌイが自分の横腹のあたりに触れる。
「ぼくとアヤならね」
 アヤが笑みを浮かべていることが理解できてないのか、青い怪物は首を傾げて音を鳴らす。
「もう一回だけ聞くけど、サキは無事なんだよね」
「ああ。渡り廊下でお兄さんが戻ってくるのを律儀に待ってくれているよ」
「ふん、違うね。お姉ちゃんが迎えに来るのをサキは待ってくれているのよ」
 ヌイが大声で笑い、アヤの顔を見つめている。
「ところで、そろそろお姉さんと呼んでもいいですかね」
「ダーメ……前にも言ったでしょう。サキが彼氏としてヌイを紹介してくれないかぎり絶対に許さないから」
「いつになることやら」
「心配しなくても、そんなことは一生ないから」
「それは残念だな。でも」
 治療が終わったのか、ヌイが手足をぶらつかせていた。
「そうね。今回だけは」
 アヤが青い怪物に鋭い視線を向けている。
「この青い怪物を倒すために、最強のお姉ちゃんが手を貸してあげる」
「サキちゃんのために?」
「そうよ。当たり前じゃない」



「そろそろ、いい?」
 青い怪物が首を左右に動かすのをやめて、ヌイの顔をにらみつけるように見た。
「わざわざ待っていてくれたのか、ずいぶんと気前がいいようで」
 伸びをしながらヌイがにやけている。
「こっちもじかん、かかっただけ」
 青い怪物の姿が消えると、ヌイの身体が体育館のほうへふきとんだ。殴られたらしく彼のお腹の辺りに拳の形をした傷あとが浮きでていた。
「いまのさえも、はんのうできるの」
 青い怪物の右腕が折れている。その青白い右腕がもとに戻ると同時に地面に着地したヌイがすばやく近寄ってきた。
 スライディングをするように滑りこみヌイが青い怪物に足払いをかけようとした。瞬時にとびあがり地面に向かってはじこうとしてか中指を折り曲げている。
 上履きの音が聞こえてか青い怪物が背後に迫ってきているアヤの姿を確認。
 下から切りつけようとするアヤの日本刀を狙い、青い怪物が折り曲げた中指を真っすぐにのばし……それをはじく。
 青い怪物の顔につき刺さっていたヌイの白い歯が日本刀と衝突し、刀身が折れた。
 刀身が折れたことに少し驚いたようだが、アヤはそのまま日本刀を振りあげている。
 青い怪物を切りつける直前。刀身がのびて青白い頭の一部を切り落とした。
 頭を再生させながら青い怪物は後転をするように身体を丸くして、地面を転がっていく。
「ヌイ。足場」
「オッケー」
 地面に寝転がっているヌイは両膝を曲げ、足裏を空のほうに向けた。
 ヌイの足裏の上にアヤが足をのせて地面を転がる青い怪物のいる方向に力強くジャンプをする。
 アヤは日本刀を振りあげて青い怪物を真っ二つにしようと振りおろす。
 あお向けになった瞬間、青白い左腕で刀身を受けとめ、アヤのみぞおちに青い怪物は蹴りを入れようと。
 青い怪物に蹴られる前に、先にアヤが相手のお腹を思いきり蹴りヌイのほうに後ろとびをした。
「スパッツぐらい穿けよな!」
「別に見なかったらいいでしょう!」
 後方へとんでいるアヤと交代するようにすばやく起き上がったヌイが青い怪物に接近をしている。
 青い怪物も起き上がりながらヌイの姿を見据えていた。分が悪いと判断したようで背後にある教室の窓へと逃げこむ。
 青い怪物が空中に散らばるいくつもの窓ガラスの破片をつかみ、ヌイに投げつけていく。
「アヤは体育館のほうから」
「了解」
 ヌイは窓ガラスの破片を左腕で受けとめ昇降口のほうから青い怪物が逃げこんだ教室へと向かった。
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