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みんなにも平等なナイトメアを
第28話
しおりを挟むサキは制服に着替え、朝食をとったあと鞄をもち自宅からとびだす。
「サキちゃん。ちょっと待って」
声の聞こえた自宅の玄関へサキが振り向く。安眠できなかったのかあくびをするヌイが立っていた。
「朝は弱いんですね」
「いつもはこんなにひどくないんだけどね。昨夜はヘンな夢を見たからさ」
「夢ですか」
「そうそう……たまになんだけど妙にリアルな感じでね。しかも」
「わたしやお姉ちゃんもその夢に出てくるとか」
サキの予想を聞きヌイの表情がこわばっていく。
「サキちゃんも?」
「たまに。でも、わたしの場合は黒いもやみたいなものを切りまくっている夢でお姉ちゃんやハリヤマさんはいません」
「偶然にしては」
「少し気になりますよね」
「おいこら。お姉ちゃんの意見も聞きなさいよ」
ヌイの頭を軽くチョップしつつアヤがぶーたれている。
「お姉ちゃんもヘンな夢を見たことがあるの?」
「うーん、まったくないね」
「ははっ……だよねー」
笑っているヌイを見てかアヤが寝癖をなでた。
「今のは悪口じゃないよ。お姉ちゃん」
「分かっているよ」
抱きついて動きを止めようとしたサキの頭をなでアヤがなにかを言いかけたが黙っている。
アヤがサキを抱きしめた。
「お姉ちゃん?」
「昨夜こわい夢を見たんだ。だから、ちょっとだけこうさせてくれるとお姉ちゃんは助かる」
「うん。分かったよ、お姉ちゃん」
校門を通りぬけ、昇降口から理科室の近くにある階段のほうに移動する。サキはその階段の前で立ち止まり、二階に行こうとしているアヤとヌイの背中を見上げていた。
「それじゃあ……昼休みにそっちに行くつもりだけどさ。色々と気をつけてね、サキちゃん」
「分かりました。お姉ちゃんとハリヤマさんも気をつけて」
「心配しなくてもお姉ちゃんは不死身なのだ」
「そうだったね。忘れていたよ」
サキが笑ったのを確認したからかアヤは満足そうな表情をしている。
手を振りつつサキが教室のほうへ姿を消したのを見送るとアヤとヌイは階段をあがっていった。
すれ違っていく生徒に挨拶をしながらサキは廊下を歩いていく。所属している教室に入ると、自分の机の上に鞄を置いて友達のカスリのもとに近づく。
「おはよう。カスリちゃん」
昨日のカスリの行動を真似ているのかサキは後ろから軽く彼女の右肩を叩いた。
カスリの右肩がちぎれて、右腕が床へと転がっていった。その断面からは少しずつ血が流れている。
吐き気をもよおしているのかサキは口もとを右手で覆って……後ろに下がっていく。
右腕がなくなったことに気づいたようでカスリが左手で右肩のあたりをゆるやかになでた。
「か、カスリが。なんで」
「うでがない。どうして?」
カスリの声が白い怪物が発していた音と似ていたのかサキが青ざめる。
「なんで、カスリちゃんが? だってなんにも悪いことなんか」
「さき、どうかしたの」
友達のカスリであろう生きものが振り向くとサキは涙を流しながらへたりこんでしまった。肩を震わせて、彼女が意味の分からない言葉を叫ぶ。
誰かに盗まれたのかカスリの顔には両方とも目玉がなかった。その代わりにあいている二つの穴の奥に透明な玉のようなものが埋めこまれて。
「なんで……さきがないているのぉ」
カスリは泣いているのか空いている二つの穴からおはじきに似ているものが大量に出てきた。生きているらしく、そのそれぞれが奇妙な声をあげる。
サキはその声を聞かされて驚き、カスリからはなれた。勢いよく立ち上がり足がもつれたようで机に頭をぶつけている。
「はやく、教えないと」
頭をぶつけたところを右手で押さえながらサキは教室から出ようと。
「うそ。でしょう」
廊下になん人もの生徒たちが並んでいた。いずれも身体のどこかが欠損をしており、立ち尽くすサキを見ていた。
「学校のみんなが怪物にされて」
とつぜん後ろから抱きしめられて、サキが身体を震わせる。
「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ、さき。わたしたちはずーっと……ともだちでしょう」
今のカスリなりの思いやりあるささやきを聞いたせいかサキが歯ぎしりをした。
「さき?」
サキが後ろからまわされているカスリの左腕を、彼女が両手で力いっぱい握りしめている。
「うん。わたしたちはずーっと友達だよ」
「さき、いたいよ」
「カスリちゃんだけじゃない……キヌちゃんもユイちゃんも。ううん、友達だからとかじゃないね」
カスリの左腕がちぎれてしまった。
「いったい、どれだけ人を傷つければ気がすむの。アキグチくんにカスリちゃん……キヌちゃんやユイちゃんにツムギさん、学校のみんなさえも」
どこかから指ぱっちんの音が聞こえると、墨汁をたっぷりつけた筆で描いたような景色へと変わっていく。
「さあて、ぼくを見つけられるかな」
頭に直接、響くようにキズナの声が聞こえた。
「ごめんね。カスリちゃん」
後ろに立っていたカスリのお腹をサキが思いきり蹴っている。
くの字に折れて水ようかんを踏んづけてしまった時のようなヘンな音とともにカスリは勢いよく机にぶつかり、倒れた。
アキグチくんとか白い怪物みたいにとんでもなく強いわけじゃない。このていどならわたしでも。
サキは自分の机のフックに引っかけてあった鞄を回収し、廊下に並んでいる生徒たちに投げつけた。
鞄は教室の出入り口の一番近くにいた男子生徒の左肩に当たった。よろめいている間にサキは廊下に出て理科室のほうへと走りだす。
わたし一人で倒せるレベルの強さでも大勢で来られたら。お姉ちゃんか、ハリヤマさんと合流しないと。
サキが理科室の近くにある階段をあがろうとしたがなにかしらの気配を感じたらしく立ち止まって、見上げる。
数えきれないほどの白い怪物たちがサキを階段の上から見下ろしていた。今のところは、彼女を襲うつもりはないらしく様子をうかがっているようだ。
「さき……まってよ」
教室のほうから歩いてきているカスリの声を聞きサキは昇降口のほうへ移動していく。
「大丈夫。お姉ちゃんとハリヤマさんなら絶対に」
自分に言い聞かせるかのように、くり返しサキはつぶやいていた。
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