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身を焦がすほどのひそかな恋
第26話
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「名前を教えなかったかな、友達に話しかけるように気軽にキズナと呼んでほしいねえ。とくに女の子には」
「不法侵入しているやつの名前を気軽に呼ぶ女の子なんてこの世に存在しないと思うんだけど」
「それもそうだね」
キズナが指ぱっちんをすると、その彼をにらんでいたユイの表情がしおらしいものになっていく。
「さっきも言ったがどうして諦めようとする。本心はあの子と付き合いたかったんじゃないのかい」
今の言葉を否定するようにユイが首を横に振る。
「サキのことは大好きだけどそれと同じぐらい」
「否定されるのがこわいか。でも彼女は受け入れてくれそうに見えたがね」
「あれは自覚なしの同情だと思う」
「同情から恋に落ちてくれることもあるだろう」
「それじゃあ……ダメ」
キズナがため息をついている。
「話が変わるが、他の女の子と付き合っていたのはどうしてかな? 彼女のことが大好きだったのならそういう関係をつくらないのが常識だと思うけど」
「サキへの思いを忘れるために」
「付き合っていた女の子はそれを知っていた?」
「知っていたからこそあたしのことを好きになってくれたみたい」
「狂っているねえ、どちらも。ある意味では純愛と言えるのかもしれないが」
秘密を話したことによって、ユイの中のなにかが切れたらしく自分自身を抱きしめるように泣きくずれている。
「サキ。ごめんね……あたしが死ぬまで我慢をしてあげていれば、こんなことには」
「我慢か。なん回でも言うが、どうしてそんなことをする必要があるんだ?」
キズナがベッドから立ち上がった。
「自分の気持ちに正直になる、それはとても正しい行動なんだから悔やむ必要なんてない。その結果が今回のようになったことは残念ではあるが」
自分自身を抱きしめたままでユイがキズナのほうを見上げる。
「だが、やはり後悔することは違うだろう。自分の正義を貫いた結果……誰かを傷つけてしまうこともある。それはしょうがないことなんだ」
「しょうがないこと」
「そうだ。自分の気持ちを否定して相手の気持ちを尊重する。それも正しいのかもしれないが、自分を殺して相手に合わせることが本当に正しいと言えるのか」
ユイが唇をきつく結んでいた。
「本当の尊重とはお互いの本音を全力でぶつけて、理解し合うことだ。ただ我慢をすることではない」
なにかを言いたいようでユイの唇が動こうと。
「さあ……我慢しないで言ってごらん。たった一度きりの人生、後悔したくはないだろう?」
スラックスのポケットの中からキズナが青白い石を取りだしている。かつてないほどの輝きに興奮をしているのか彼がにやつく。
「あたしは、サキのことが大好き!」
「それだけかい」
「どうしてあたしだけが、こんな目に遭うの。ただ好きになった相手が女の子だっただけなのに、普通に生きてきたはずなのに……だったら」
ユイが両手で自分の口をふさいでいる。吐きだしかけた言葉の邪悪さを理解してか、震えていた。
「遠慮することはない。本音を言うことは正義だ。正しいことにはなにかしらの犠牲がつきものだ……そうだろう?」
キズナの持論を聞かされ、ユイはゆっくりと口をふさいでいた両手をかいほうしていく。
「みんなもあたしみたいに不幸になればいいのに」
ユイの思いに呼応をするように青白い石の輝きが部屋を青く染めていった。
「それでいい。今日こそ受けとってくれるね」
キズナから青白い石を受けとるとユイは立った。彼女の身体全体があわく輝き変化をしていく。
「ああ。とても美しい姿だ」
ベッドに座り、キズナがにやついている。
青白い表皮に隆起した胸。ムダを省いた細い手足の先にはどこかなまめかしい五指が並んでいた。
腰まわりにはフレアスカートのような白い布が、お尻を包みこむように巻きつき。
青い怪物の顔面には涙を流しているような模様が描かれている。
「これ、じゃま」
青い怪物が青白い石を握りつぶした。
「あらら……まあ、いっか。そろそろこの遊びにも飽きてきたところだしな」
「サキちゃん、どうかしたの」
ユイの家から出てきたサキの姿を見てか、ヌイは心配そうな表情をしている。
「なんでもないですよ。帰りましょう」
サキが横切ろうとするとヌイに人差し指で彼女は頬を軽くつつかれた。
「なにしているんですか」
「サキちゃんが隠しごとしているからちょっとだけイタズラさせてもらいました。やっぱりなにかあったんじゃないの?」
「本当になんでもないですよ」
「そっか。お兄さんの勘違いか、ごめんね」
サキの頭を軽くなでて、ヌイは駅のほうへと歩きだした。ぶらつかせていた右手を彼女に力強く握られてしまう。
「ハリヤマさんは誰にも話せてない秘密とか、あったりしますか」
しばらく歩いているとヌイの右肩にサキが左耳を押し当てていた。無意識の行動だったのかほんのりと彼女が顔を赤くする。
「んー、あるね。今のサキちゃんみたいに」
「だったら、お互いにここで打ち明けませんか」
「お兄さんは別にいいけどさ。サキちゃんのほうはお友達の秘密だと思うから」
ヌイの言葉を聞いたからかサキが震えた。
「ごめん、言いかたが悪かったね。秘密を共有する相手はお兄さんで良いの? お姉さんのほうが」
「ハリヤマさんだからこそ言えそうなんです」
「ありゃりゃ、お姉さんが泣いちゃいそうだね」
電車が来るまでの間プラットホームに設置されている座席に腰かけたサキの話をヌイは相づちさえも打つことなく聞いていた。
隣にいるサキが話し終わると、ヌイは背もたれに背中をあずけて大きく息をはきだしていく。
「なかなかのカミングアウトだね」
「えっと、このことは」
「分かっているよ、誰にも話さないから安心して。お姉さんには言わないで正解だったと思うよ」
ヌイに賛同しているらしくサキが首を縦に振る。
「まあ、そういう感情は理屈じゃないからね。色々と難しいとは思うけど……あんまり気にしないほうがいいよ」
「はい。分かっています」
サキは鞄からユイに渡しそびれたペットボトルのりんごジュースを取りだし豪快に飲んだ。
「それでハリヤマさんの秘密はなんですか、教えてください」
半分以上、飲んだペットボトルのりんごジュースを傾けながらサキがヌイの横顔を見つめている。
「えっ、この流れで言わないとダメなの」
「一応、約束ですからね。ほらほら……はやく」
「うーん、しょうがないな」
ヌイが人差し指で自分の頭をかいていた。
「実はお兄さんの能力って記憶を忘れさせることもできるんだよね」
「不法侵入しているやつの名前を気軽に呼ぶ女の子なんてこの世に存在しないと思うんだけど」
「それもそうだね」
キズナが指ぱっちんをすると、その彼をにらんでいたユイの表情がしおらしいものになっていく。
「さっきも言ったがどうして諦めようとする。本心はあの子と付き合いたかったんじゃないのかい」
今の言葉を否定するようにユイが首を横に振る。
「サキのことは大好きだけどそれと同じぐらい」
「否定されるのがこわいか。でも彼女は受け入れてくれそうに見えたがね」
「あれは自覚なしの同情だと思う」
「同情から恋に落ちてくれることもあるだろう」
「それじゃあ……ダメ」
キズナがため息をついている。
「話が変わるが、他の女の子と付き合っていたのはどうしてかな? 彼女のことが大好きだったのならそういう関係をつくらないのが常識だと思うけど」
「サキへの思いを忘れるために」
「付き合っていた女の子はそれを知っていた?」
「知っていたからこそあたしのことを好きになってくれたみたい」
「狂っているねえ、どちらも。ある意味では純愛と言えるのかもしれないが」
秘密を話したことによって、ユイの中のなにかが切れたらしく自分自身を抱きしめるように泣きくずれている。
「サキ。ごめんね……あたしが死ぬまで我慢をしてあげていれば、こんなことには」
「我慢か。なん回でも言うが、どうしてそんなことをする必要があるんだ?」
キズナがベッドから立ち上がった。
「自分の気持ちに正直になる、それはとても正しい行動なんだから悔やむ必要なんてない。その結果が今回のようになったことは残念ではあるが」
自分自身を抱きしめたままでユイがキズナのほうを見上げる。
「だが、やはり後悔することは違うだろう。自分の正義を貫いた結果……誰かを傷つけてしまうこともある。それはしょうがないことなんだ」
「しょうがないこと」
「そうだ。自分の気持ちを否定して相手の気持ちを尊重する。それも正しいのかもしれないが、自分を殺して相手に合わせることが本当に正しいと言えるのか」
ユイが唇をきつく結んでいた。
「本当の尊重とはお互いの本音を全力でぶつけて、理解し合うことだ。ただ我慢をすることではない」
なにかを言いたいようでユイの唇が動こうと。
「さあ……我慢しないで言ってごらん。たった一度きりの人生、後悔したくはないだろう?」
スラックスのポケットの中からキズナが青白い石を取りだしている。かつてないほどの輝きに興奮をしているのか彼がにやつく。
「あたしは、サキのことが大好き!」
「それだけかい」
「どうしてあたしだけが、こんな目に遭うの。ただ好きになった相手が女の子だっただけなのに、普通に生きてきたはずなのに……だったら」
ユイが両手で自分の口をふさいでいる。吐きだしかけた言葉の邪悪さを理解してか、震えていた。
「遠慮することはない。本音を言うことは正義だ。正しいことにはなにかしらの犠牲がつきものだ……そうだろう?」
キズナの持論を聞かされ、ユイはゆっくりと口をふさいでいた両手をかいほうしていく。
「みんなもあたしみたいに不幸になればいいのに」
ユイの思いに呼応をするように青白い石の輝きが部屋を青く染めていった。
「それでいい。今日こそ受けとってくれるね」
キズナから青白い石を受けとるとユイは立った。彼女の身体全体があわく輝き変化をしていく。
「ああ。とても美しい姿だ」
ベッドに座り、キズナがにやついている。
青白い表皮に隆起した胸。ムダを省いた細い手足の先にはどこかなまめかしい五指が並んでいた。
腰まわりにはフレアスカートのような白い布が、お尻を包みこむように巻きつき。
青い怪物の顔面には涙を流しているような模様が描かれている。
「これ、じゃま」
青い怪物が青白い石を握りつぶした。
「あらら……まあ、いっか。そろそろこの遊びにも飽きてきたところだしな」
「サキちゃん、どうかしたの」
ユイの家から出てきたサキの姿を見てか、ヌイは心配そうな表情をしている。
「なんでもないですよ。帰りましょう」
サキが横切ろうとするとヌイに人差し指で彼女は頬を軽くつつかれた。
「なにしているんですか」
「サキちゃんが隠しごとしているからちょっとだけイタズラさせてもらいました。やっぱりなにかあったんじゃないの?」
「本当になんでもないですよ」
「そっか。お兄さんの勘違いか、ごめんね」
サキの頭を軽くなでて、ヌイは駅のほうへと歩きだした。ぶらつかせていた右手を彼女に力強く握られてしまう。
「ハリヤマさんは誰にも話せてない秘密とか、あったりしますか」
しばらく歩いているとヌイの右肩にサキが左耳を押し当てていた。無意識の行動だったのかほんのりと彼女が顔を赤くする。
「んー、あるね。今のサキちゃんみたいに」
「だったら、お互いにここで打ち明けませんか」
「お兄さんは別にいいけどさ。サキちゃんのほうはお友達の秘密だと思うから」
ヌイの言葉を聞いたからかサキが震えた。
「ごめん、言いかたが悪かったね。秘密を共有する相手はお兄さんで良いの? お姉さんのほうが」
「ハリヤマさんだからこそ言えそうなんです」
「ありゃりゃ、お姉さんが泣いちゃいそうだね」
電車が来るまでの間プラットホームに設置されている座席に腰かけたサキの話をヌイは相づちさえも打つことなく聞いていた。
隣にいるサキが話し終わると、ヌイは背もたれに背中をあずけて大きく息をはきだしていく。
「なかなかのカミングアウトだね」
「えっと、このことは」
「分かっているよ、誰にも話さないから安心して。お姉さんには言わないで正解だったと思うよ」
ヌイに賛同しているらしくサキが首を縦に振る。
「まあ、そういう感情は理屈じゃないからね。色々と難しいとは思うけど……あんまり気にしないほうがいいよ」
「はい。分かっています」
サキは鞄からユイに渡しそびれたペットボトルのりんごジュースを取りだし豪快に飲んだ。
「それでハリヤマさんの秘密はなんですか、教えてください」
半分以上、飲んだペットボトルのりんごジュースを傾けながらサキがヌイの横顔を見つめている。
「えっ、この流れで言わないとダメなの」
「一応、約束ですからね。ほらほら……はやく」
「うーん、しょうがないな」
ヌイが人差し指で自分の頭をかいていた。
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