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身を焦がすほどのひそかな恋
第25話
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「それじゃあ、またあとで」
「うん。ごゆっくりというのもヘンか。ユイちゃんによろしく」
ユイの家の前でヌイを待たせて、サキは玄関の扉の横にくっついているインターホンを押した。
「はいはい。どちらさまでしょうか? もしもセールスなら、お隣へどうぞ」
インターホンからユイの声が聞こえてきたからかサキは少し驚いているようだ。
「あっ。ユイちゃん、わたしだよ」
「んむむー、オレオレ詐欺ってインターホンからもあるのか気をつけないと」
「違うよ! 同級生のサキだよ」
「あはは。冗談だって、相変わらずサキはかわいいなー。すぐに開けるからちょっとだけ待って」
インターホンから声がしなくなり、しばらくすると玄関の扉が開いた。隙間にはドアチェーンの鎖が真っすぐのびている。
「合言葉を言いなさい」
玄関の扉の隙間からのぞきこんでいるユイの右目がサキの顔を見つめた。
「ユイちゃんのお見舞いに来ました」
「オッケー。ささ、はやく入りなさい」
素早くドアチェーンをはずして、ユイが手招きをする。サキが玄関の扉をくぐり抜けるのとほとんど同時に鍵をかけた。
「なにかあったの」
「いんや。防犯意識に目覚めただけだよ」
「風邪じゃなくて?」
「風邪がなおったからかもしれないね」
「それは絶対に違うと思うよ」
ユイが階段をあがっていった。
サキもスニーカーを脱ぐとユイの後ろを追いかけつつ、お邪魔しますと口にしている。
「サキはいつも律儀だよねー。お邪魔しますなんてさ、あたしが男だったらほれちゃっているよ」
「普通じゃないの」
「あたしは育ちが良いんだろうなって思うけどね」
ユイがにやつきながら階段をあがろうとしているサキの顔を見下ろす。
「それよりも元気そうで良かったよ。学校に来ないからもっと症状がひどいと」
「身体のほうはねえ。おこちゃまのサキには分からないと思うけど大人なあたしには色々とあるのさ」
「ずる休みがしたかったんですね」
「な、なぜに……そのことを。どこから情報が」
「誰にでも分かるわ!」
階段をあがりきり、廊下を歩きながらサキがユイにつっこんでいた。
自分の部屋の前でユイが立ち止まる。
「部屋を見られるの、なんだか恥ずかしいな」
「今さら、なん回も見られているのに?」
「模様替えをしたんだよ。青っぽい黒髪でちょっと天然な女の子をベッドに座らせようと」
「わたしはインテリアだった!」
「女の子はいつでもインテリアなのさ」
一瞬、お互いになにを言っているのか分からなくなったようでサキとユイは黙ってしまった。
「サキの天然がうつっちゃったようだね」
「天然ってそういうものだっけ」
「天然であることは否定しないんですな」
「あっ……ぼけてくれてたんだね。ごめんごめん」
「それを言ったらダメだよー。サキちゃん」
儀式のようにお互いに一礼するとユイの部屋の中に入っていった。
「まあまあ、くつろいでいてよ。お菓子とかもってくるからさ」
サキが座ったのを確認するとユイは半開きの扉を開けて、外に出ようとしている。
「いいよ、いいよ。そんなに長居もできないから」
「長居できない、だと」
耳に届いたセリフの一部を反復しつつユイは目を輝かせている。部屋の扉を閉め、鍵をかけてサキに近づいた。
「もしかして、サキにもとうとう春が来ましたか」
床に座っているサキの前に腰をおろしながらユイが食いつくように質問をしている。
「今は秋だよ」
「秋は恋の季節だよねー」
「聞いたことないよ!」
サキを押し倒さんばかりにユイがにじり寄った。
「ほらっ。ほらほらー、はやく白状しないと。このまま押し倒しちゃうよ」
「分かった。ちゃんと言うから」
「ふふふふふ……サキはそういうところもかわいいよね。待たせているの、実は女の子だったりして」
顔を赤くしているサキの反応が面白いのかユイはにやつきながら後ろに下がっていく。
「男の子です。それに女の子だったら一緒に連れてくるよ。ユイちゃんも女の子だから。その、えと」
「サキも意外とそういうところを気にはしてくれるよね。ありがとう……うれしいよ」
「普通だと思うけど」
「本当に育ちが良いよねえ。サキってさ」
ユイの顔を見たからかサキは首を傾げたあと彼女の両手を包みこむように握りしめた。
「やっぱりさ、なにかあったの? ユイ」
サキに見つめられて恥ずかしいようでユイが目を逸らす。結んでいた唇をゆるめて彼女が動かそうとしている。
「付き合っていた人が殺されたんだ。サキも知っているよね。最近ゲームセンターの近くで殺人事件があったの」
ゆっくりとうなずき。少し間をあけてからサキは首を傾げた。
えっ? でも、殺されていたのは。
「ユイ。そのゲームセンターの近くで殺された人は確か」
「サキ。かなり前に言ったよね、同情をしたらダメだよ……とかさ」
ユイが同じ女の子のサキにキスをした。
目を見開いているサキからユイがはなれていく。
「ごめんね。今日のかわいすぎるサキは、さすがに我慢できなかった。でも……これで最後だから安心してくれていいよ」
「えっと、うん。わたしは大丈夫だよ」
指先で自分の唇をなでて、サキはぎこちなく笑顔をつくっている。
「あのね、ユイ」
「外で男の子を待たせているんだったよね。はやく行ってあげなよ」
「でも」
「あたしは大丈夫だからさ、行ってあげて。お願いだから……はやく」
サキが立ち上がり部屋の扉へ近づいていき、ドアノブを握りしめた。
「ユイ、また明日ね」
座っているユイのほうを見ようとしたようだが、サキはやめてしまった。
「うん。明日はちゃんと学校に行くよ」
ユイの返事を聞くとサキは部屋を出ていった。
「ねえ、サキ。もういないよね?」
ユイの声だけが部屋の中に響いていく。
「ごめんね……サキ。でも、今日だけ、今日だけだからあたしがわがままを言うのは」
「どうして諦めようとするんだろうね、君たちは」
指ぱっちんの音とともにその声は聞こえてきた。ユイが声のしたほうを見上げている。
部屋の色が、墨を塗りたくったようにゆっくりと変化をしていく。
「また、お前か」
涙をぬぐいながらユイはベッドの上に座っているキズナの顔をにらみつけた。
「うん。ごゆっくりというのもヘンか。ユイちゃんによろしく」
ユイの家の前でヌイを待たせて、サキは玄関の扉の横にくっついているインターホンを押した。
「はいはい。どちらさまでしょうか? もしもセールスなら、お隣へどうぞ」
インターホンからユイの声が聞こえてきたからかサキは少し驚いているようだ。
「あっ。ユイちゃん、わたしだよ」
「んむむー、オレオレ詐欺ってインターホンからもあるのか気をつけないと」
「違うよ! 同級生のサキだよ」
「あはは。冗談だって、相変わらずサキはかわいいなー。すぐに開けるからちょっとだけ待って」
インターホンから声がしなくなり、しばらくすると玄関の扉が開いた。隙間にはドアチェーンの鎖が真っすぐのびている。
「合言葉を言いなさい」
玄関の扉の隙間からのぞきこんでいるユイの右目がサキの顔を見つめた。
「ユイちゃんのお見舞いに来ました」
「オッケー。ささ、はやく入りなさい」
素早くドアチェーンをはずして、ユイが手招きをする。サキが玄関の扉をくぐり抜けるのとほとんど同時に鍵をかけた。
「なにかあったの」
「いんや。防犯意識に目覚めただけだよ」
「風邪じゃなくて?」
「風邪がなおったからかもしれないね」
「それは絶対に違うと思うよ」
ユイが階段をあがっていった。
サキもスニーカーを脱ぐとユイの後ろを追いかけつつ、お邪魔しますと口にしている。
「サキはいつも律儀だよねー。お邪魔しますなんてさ、あたしが男だったらほれちゃっているよ」
「普通じゃないの」
「あたしは育ちが良いんだろうなって思うけどね」
ユイがにやつきながら階段をあがろうとしているサキの顔を見下ろす。
「それよりも元気そうで良かったよ。学校に来ないからもっと症状がひどいと」
「身体のほうはねえ。おこちゃまのサキには分からないと思うけど大人なあたしには色々とあるのさ」
「ずる休みがしたかったんですね」
「な、なぜに……そのことを。どこから情報が」
「誰にでも分かるわ!」
階段をあがりきり、廊下を歩きながらサキがユイにつっこんでいた。
自分の部屋の前でユイが立ち止まる。
「部屋を見られるの、なんだか恥ずかしいな」
「今さら、なん回も見られているのに?」
「模様替えをしたんだよ。青っぽい黒髪でちょっと天然な女の子をベッドに座らせようと」
「わたしはインテリアだった!」
「女の子はいつでもインテリアなのさ」
一瞬、お互いになにを言っているのか分からなくなったようでサキとユイは黙ってしまった。
「サキの天然がうつっちゃったようだね」
「天然ってそういうものだっけ」
「天然であることは否定しないんですな」
「あっ……ぼけてくれてたんだね。ごめんごめん」
「それを言ったらダメだよー。サキちゃん」
儀式のようにお互いに一礼するとユイの部屋の中に入っていった。
「まあまあ、くつろいでいてよ。お菓子とかもってくるからさ」
サキが座ったのを確認するとユイは半開きの扉を開けて、外に出ようとしている。
「いいよ、いいよ。そんなに長居もできないから」
「長居できない、だと」
耳に届いたセリフの一部を反復しつつユイは目を輝かせている。部屋の扉を閉め、鍵をかけてサキに近づいた。
「もしかして、サキにもとうとう春が来ましたか」
床に座っているサキの前に腰をおろしながらユイが食いつくように質問をしている。
「今は秋だよ」
「秋は恋の季節だよねー」
「聞いたことないよ!」
サキを押し倒さんばかりにユイがにじり寄った。
「ほらっ。ほらほらー、はやく白状しないと。このまま押し倒しちゃうよ」
「分かった。ちゃんと言うから」
「ふふふふふ……サキはそういうところもかわいいよね。待たせているの、実は女の子だったりして」
顔を赤くしているサキの反応が面白いのかユイはにやつきながら後ろに下がっていく。
「男の子です。それに女の子だったら一緒に連れてくるよ。ユイちゃんも女の子だから。その、えと」
「サキも意外とそういうところを気にはしてくれるよね。ありがとう……うれしいよ」
「普通だと思うけど」
「本当に育ちが良いよねえ。サキってさ」
ユイの顔を見たからかサキは首を傾げたあと彼女の両手を包みこむように握りしめた。
「やっぱりさ、なにかあったの? ユイ」
サキに見つめられて恥ずかしいようでユイが目を逸らす。結んでいた唇をゆるめて彼女が動かそうとしている。
「付き合っていた人が殺されたんだ。サキも知っているよね。最近ゲームセンターの近くで殺人事件があったの」
ゆっくりとうなずき。少し間をあけてからサキは首を傾げた。
えっ? でも、殺されていたのは。
「ユイ。そのゲームセンターの近くで殺された人は確か」
「サキ。かなり前に言ったよね、同情をしたらダメだよ……とかさ」
ユイが同じ女の子のサキにキスをした。
目を見開いているサキからユイがはなれていく。
「ごめんね。今日のかわいすぎるサキは、さすがに我慢できなかった。でも……これで最後だから安心してくれていいよ」
「えっと、うん。わたしは大丈夫だよ」
指先で自分の唇をなでて、サキはぎこちなく笑顔をつくっている。
「あのね、ユイ」
「外で男の子を待たせているんだったよね。はやく行ってあげなよ」
「でも」
「あたしは大丈夫だからさ、行ってあげて。お願いだから……はやく」
サキが立ち上がり部屋の扉へ近づいていき、ドアノブを握りしめた。
「ユイ、また明日ね」
座っているユイのほうを見ようとしたようだが、サキはやめてしまった。
「うん。明日はちゃんと学校に行くよ」
ユイの返事を聞くとサキは部屋を出ていった。
「ねえ、サキ。もういないよね?」
ユイの声だけが部屋の中に響いていく。
「ごめんね……サキ。でも、今日だけ、今日だけだからあたしがわがままを言うのは」
「どうして諦めようとするんだろうね、君たちは」
指ぱっちんの音とともにその声は聞こえてきた。ユイが声のしたほうを見上げている。
部屋の色が、墨を塗りたくったようにゆっくりと変化をしていく。
「また、お前か」
涙をぬぐいながらユイはベッドの上に座っているキズナの顔をにらみつけた。
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