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身を焦がすほどのひそかな恋
第24話
しおりを挟む「こっちも帰ろっか」
アヤとツムギの姿が見えなくなると、ヌイはサキのほうに右手をのばした。
「えっと、学校ですから」
「うん? 手じゃなくて鞄をもってあげようかな、と思ったんだけど」
「お……お願いします」
サキは顔を赤くしながらヌイに鞄を手渡す。
「手をつなぎたい気分なの?」
エニシのことを気にしていると思っているのか、ヌイがやわらかな口調で確認をしていた。
「はっきり言われると恥ずかしいのでやりたくなくなります。それに、見られている気がするので」
まわりを見まわすサキの姿が面白いようでヌイがほほえむ。
「この前は大丈夫だったのに」
「その時は頭が麻痺していたんですよ」
「そうなんだ。それじゃあ、お兄さんのために手をつないでくれないかな」
二つの鞄を左手だけで握りしめ、またサキのほうに右手をのばしている。
「もう少しだけ人間のいない場所だったら」
「分かった。ありがとうね」
顔を見られないようにするためかサキは昇降口へ早足で向かう……ヌイもその背中をゆっくりと追いかけていた。
「サキちゃんの家って、こっちだったっけ」
以前デートの時に利用したゲームセンターの前を通りすぎつつ、ヌイは隣を歩くサキに視線を向けている。
「ちがいますよ。今日はユイ……友達のお見舞いに行こうと思っているので。ついでにプリントとかも渡そうかと」
「そうなんだ。その子の家はどのへんにあるの」
「ハリヤマさんの家の近くです。だから一緒に駅に向かっています」
「なるほどね」
うなずき、ヌイは前方に目を向けた。サキは彼の横顔を盗み見てうれしそうにしていた。
公衆トイレの近くのターミナル駅でサキは切符を買うと、定期乗車券で自動改札機を通り抜けているヌイのもとへ。
プラットホームに通じる階段をおりている途中、つり革を引きちぎって鉄道車両の扉を破壊するのはやめましょう……そう警告しているポスターをサキは横目でちらりと見る。
「悪い人はどこにでもいるんですね。つり革を引きちぎったりするなんて」
「ははっ、全くだね」
苦笑しながらヌイは返事をしていた。
電車からおり、プラットホームに着地した。のどがかわいているようでサキが自動販売機の前に移動する。
「なにか買うの」
サキのほうにヌイが近寄っていた。
「はい。お見舞いにもっていこうかと思って」
ひととおり自動販売機の商品を確認してからサキはペットボトルのりんごジュースを購入。
「その子はりんごが好きなんだね」
「いえ。わたしが飲みたいものを選びました」
「そっか」
ヌイも自動販売機にお金を入れてりんごジュースを買っている。
「ハリヤマさんも好きなんですか?」
「普通かな。これはサキちゃんの分というか、手を握ってくれたお礼ってところだね」
「もっと握りましょうか」
「今度はりんごケーキになりそうだからやめておくよ。ごめんね」
駅を出てヌイの家に向かう途中、下校中の小学生たちとすれ違う。笑っていたり、はしゃいでいたり楽しそうな様子だからかサキはしばらく見ていた。
「サキちゃんは小学生にイタズラされちゃいそうなイメージあるよね」
立ち止まったサキが……ヌイの言葉を聞いて首を傾げる。
「どんなイメージですか、それ」
「うーん、なんというか。一緒に遊んでいる小学生が一生懸命つくった落とし穴にわざと引っかかってあげようとする感じ」
「分かったような、分からないような」
「少なくとも悪いイメージではないから安心して」
ヌイが歩きだし、サキも追いかけていく。
「こんなことしていても、いいんですかね」
サキの声色が変化をしていることに気づいたのかヌイは少し戸惑っているようだった。
「お見舞いも大事なことだと思うけど」
「そうですけど……こう世界の命運みたいなものをわたしたちはかついでいるのに」
それにベニナワさんのことも、まだ。
「そこまで考える必要はないと思うよ、正義なんて言うつもりもさらさらないし。ただむかつくやつがいるからやっつけようぐらいの気持ちでいいんだと思うよ」
「ハリヤマさんはたまに口調が悪くなりますね」
「男ですからね。サキちゃんはダメだよ」
「はーい」
まのびした返事を聞いて、ヌイは安堵をしたのか大きく息をついていた。
「ハリヤマさんも来るんですか」
ヌイの家を通りすぎても、後ろをついて来ることを不思議に思ったのかサキが立ち止まり振り向いている。
「まあね。いつ、どこで、襲ってきてもおかしくはないからね。けど、今日みたいに認識できない世界に一人ずつ招待をされたら」
「それは、しばらく大丈夫だと思います。ハリヤマさんのもですが。強力な能力になればなるほど相応のリスクや弱点があると言ってましたよね」
「言っていたけどね。銃の弾丸を装填するみたいにそれなりのインターバルはあると思いたいけど……どこまでアテになるやら」
場がしらけていると思ったのかヌイが手を叩く。
「ここであれこれ考えてもしょうがないし。とりあえず文化祭が終わるぐらいまではサキちゃんの家に泊まらせてもらうって、お姉さんと話していたんだよね」
今のセリフで納得をしたようでヌイが引きずっているキャリーバッグにサキが目を向けている。
「祭りですか」
ヌイが首を縦に振った。
「そう。親玉が言っていた、祭り。今のところ連想をできるのは文化祭しかない」
「最終決戦」
「そうなるといいんだけどね」
「なりますよ。それで」
「うん。みんなで文化祭を楽しもう」
サキはなにか言いかけたようで唇を動かす。首を横に振りユイの家のほうへと歩きだした。キャリーバッグの引きずられる音も響いていく。
「たこ焼き、売っているといいんだけどな」
「好きなんですか?」
「いや」
「そうですか。わたしも好きですよ」
「なんだかうれしそうだね。サキちゃん」
ヌイのおちゃらけた言葉にサキは誇らしげにうなずいていた。
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