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身を焦がすほどのひそかな恋
第22話
しおりを挟む他の生徒たちも動けるようになったのを確認するとアヤを支えながらサキは保健室に向かっていた。
緊張が解けて、血を流しすぎたのかアヤはサキに引きずられるままにほとんど反応がない。
「お姉ちゃん。もう少しだからね」
サキに返事をしようとしているのかアヤの唇だけが動いている。
保健室の扉を開けて……アヤをベッドに寝かせるとサキは一階の中庭のあたりにいるであろうヌイのところへ走りだした。
「ハリヤマさん!」
理科室の近くにある階段をおり、中庭の出入り口の前をうろついているヌイに、サキは思いきり後ろから抱きついてしまう。
「おっと。と、サキちゃん? さっきまで一緒に」
「それよりもお姉ちゃんが」
焦っている様子を見て、瞬時に判断したのかサキの両手をヌイが包みこむように握りしめた。
「場所は?」
「保健室」
「オッケー。先に行っているからね」
サキを安心させるためか頭をなで、ヌイは中庭の出入り口を横切って職員室の近くの階段をのぼっていった。
「あんまり無茶しないでほしいね」
保健室のベッドで横になっているアヤのえぐれている横腹を直接、触りながらパイプ椅子に座るヌイが怒ったように注意している。
「分かっているよ。でもお姉ちゃんしかいなかったんだからしょうがないじゃん」
「まあ、そうなんだけどさ。ところでサキちゃん。こういう遊びが最近は流行っていたりするの?」
アヤの治療をするヌイの両目をその後ろに立っているサキが両手でふさいでいた。
「アイマスクです。目は大切にしないと」
「そうだね。ありがとう」
「今ので分かったんですか」
「お姉さんが大好き」
「ニアピンですね。お姉ちゃんも大好きです。ハリヤマさん」
「そっか。それは残念だったな」
サキの回答にヌイはうれしそうに口角をあげる。
治療を終えてアヤがはだけた制服をととのえる。サキも彼女がきちんとしているのを見てからヌイの目を両手で覆うのをやめて、はなれていく。
「声というか音か……そんな風にして幻覚を見せる怪物ねえ。かなり厄介だったんじゃないか」
「まあね。蹴りとばされて横腹をえぐられちゃったけど、サキがいたから余裕で勝てちゃったね」
「余裕っすか」
「ちょー余裕っすよ」
アヤとヌイがにやつきながら見つめているせいかサキが恥ずかしそうにベッドの横に立っている。
「あ……相性が良かったんですよ。わたしの怪物を見分ける能力の副次的効果というか」
「副次的効果ってなに?」
ベッドの上であぐらをかいているアヤが、ヌイの顔を見た。
「一石二鳥って感じ。サキちゃんの能力は目だから耳に影響をする音の能力の影響を受けにくかった、ということだよ」
「サキが幸せの青い鳥だったってことか」
「つっこんだほうがいいですか」
サキが手刀打ちをする時のような構えをとる。
「残念ながら、このお姉さんは真面目に答えているから手遅れだろうね」
ヌイが首を横に振っているのを見て、サキは不服そうに右手をおろしていた。
「そういえば電車の時にお姉ちゃんとハリヤマさんは連携できなかったとか言っていたような」
「お姉ちゃんとサキはスーパー姉妹だから、なんか上手くいったんじゃない」
「そんなわけ」
「いや。そうかもしれないね」
アヤにつっこもうとするサキを制止するかのようにヌイが横槍を入れる。
「お兄さんとお姉さんはお互いに相手の意見を尊重しなかったから失敗したのかもしれない」
お互いにあの時……自分の感情を優先させていたことを思い出したようで、アヤとヌイはそれぞれになん回もうなずく。
「それっぽいねー。サキの作戦だと男子トイレから不意をつくつもりだったけど。お姉ちゃんの意見を取り入れてくれたから上手くいったんだよ」
「たまたまですよ」
顔を赤らめながらサキは首を横に振っていた。
「それとさ、あのモノクロはなんだったんだろう」
アヤがあくびをしつつ、つぶやいている。
「親玉。あの人のテリトリーみたいなものなんだと思うよ。わたしたちの目の前にいきなり現れたのに違和感がなかったから」
お姉ちゃんのほうはベニナワさんの能力を受けていたからかそんなに影響がなさそうだったけど。
「認識できない世界って感じかな」
「そんな感じですかね……ハリヤマさんも動かなくなって反応も全くなかったので」
サキが顔を赤くしているのをちらりと見てヌイが首を傾げている。
「でも、その認識できない世界。能力者には効果が弱まってしまうんだと思います。こんな風に指ぱっちんでわたしに直接、能力をつかっていたので」
「今は大丈夫なのかな? ちゃんと親玉だと認識をできている?」
「できてます。直接でも能力者には効果が弱まるんだと」
ヌイの質問に答えながらなにかを考えているのかサキは天井を見つめていた。
「お姉ちゃんは、あの人を見たの?」
「んー、最後しか見てないよ。階段の近くでサキと話しているのは聞いちゃったけど」
「なにか気になることでもあるの、サキちゃん」
ヌイの問いかけにサキが小さくうなずく。
「わたしが体育館で白い怪物に襲われそうになる前に、あの人が逃げろって言おうとしていたんです」
「確かに……ちょっとヘンだね」
パイプ椅子にもたれかかり、ヌイも天井のほうに目を向けている。
「そうですよね。わたしはびっくりして腰が抜けていたんだから、そのまま黙っていれば」
けど、まさかわたしを助けようと考えていたとかはないだろうし。
「その前にさ、なんで白い怪物に襲われているの。親玉だったら攻撃されないと思うんだけど」
「怪物にそういう理性はないんじゃない。今までの怪物たちに共通した行動理念なんてなかったし」
「でも……親玉本人が嫌なことや面白くないことを絶対にやりたがらない性格みたいなんだよね。それなのに、わざわざ襲わせたってことは面白いことをしようとしていたんだと思う」
「なにかしらの目的があった?」
サキのつぶやきにアヤはうなずいている。
アヤの意見を聞いて、なにか良くないことを想像したようでサキの顔色が少しずつ青くなっていた。
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