少年少女のくすぶった感情ども

赤衣 桃

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ツインかくれんぼ

第21話

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 散らばっている同類のとむらいを終えたのか白い怪物がゆっくりと立ち上がった。
「かたな。のびる、けいかい」
 白い怪物はトライアングルを鳴らした時のような声をだしつつ、同類から得た情報をくり返し確認をしている。左右に首を振ったあと中庭のほうに視線を向けた。
「あかいてんてん……これは」
 なにかを考えているらしく白い怪物はうつむいたまま動きを止めている。
「てんてん。いっぱいどこに」
 中庭の地面や校舎の床に付着をしている血を追うように白い怪物が移動していく。
「そうか。このあかいのはさっきの」
 なにかに気づき、納得をしたのか白い怪物は顔を上げて笑い声のような音を響かせた。
 付着をしている血を追って階段をあがっていく。保健室の手前で立ち止まった。
「かたな。のびる……けいかい」
 白い怪物は辺りを見まわし窓側の壁に設置されている消火器格納箱を見た。中から消火器を取りだし保健室へと投げつける。
 窓をつき破り、鈍い音だけが響く。消火器に穴があいたのか大量の白い煙が保健室から吹きだす。
「はんのうない」
 白い怪物は保健室の扉を蹴りやぶり、慎重に確認をしながら中に入った。
 床に倒れた扉を踏みつけて……カーテンの後ろやベッドの下、人間が隠れられそうな場所を調べる。
「ここ、もういない。どこへ」
 白い怪物は床に目を向けた。付着をしている血が途切れていて困っているのかうなり声のようなものをあげる。
 なにか見つけたようで白い怪物が床を凝視した。
「これは」
 付着をしている血の近くにうっすらと赤い足跡のようなものがあった。
「ふんじゃったんだ。うんが、わるい」
 赤い足跡は付着をしている血とは違い、不規則な間隔で床に残っている。
 白い怪物は投擲する武器に使うためか、消火器をもちあげたままで赤い足跡を追いかけていった。
 保健室を出て、さっきのぼってきた階段とは反対側の方向へと移動する。
「でも、ほんとうにきづいて、ない?」
 階段をおり、踊り場の辺りを歩きながら白い怪物はつぶやく。
「あのへやで、いっかいはとぎれていた……のに」
 赤い足跡は廊下へとつづいていた。途中でヘンなポーズをしている女子生徒が見えたせいか白い怪物は一瞬だけ動きを止めた。
「ここで、とぎれてる」
 ヘンなポーズをしている女子生徒を横切り、白い怪物はトイレの前に。
 視線を横に動かし、笑い声のような声を響かせるとトイレの中へと入っていく。
 入り口の近くにある、洗面台の前に立つハンカチを顎に挟む女子生徒の姿を確認しているようだ。
「ちがう……な」
 トライアングルを鳴らした時のような声を響かせながら白い怪物は個室のほうをにらみつける。手前から順番に扉を開けて調べていった。
 一番奥の個室の前で白い怪物は立ち止まった。
 扉をていねいに破壊し、白い怪物の背中側のほうにある壁にそれを立てかける。
「みつけた」
 扉を破壊した個室の中には身体を震わせるサキがいた。胸の前で両手を重ねて、神さまに祈るようなポーズを。
「じょうずにえんぎしても、むだだ」
「へっ?」
「きみ、たちのさくせん。ぜんぶばれてる」
 白い怪物の言葉にサキは青ざめた。
「もうひとりは、かたなのばせる。だから、こんなにげられない、ところにいる」
 白い怪物は背中を壁に引っつけたままで消火器をもちあげている。
「といれは……おとことおんな、にしゅるい。かべうすい、かたなのばせる。だからきみに、ちかづかない」
 白い怪物の推理にサキはうなだれていた。作戦がばれてしまい避けようのない未来に絶望をしているのか彼女が身体を揺らす。
「さようなら」
「うん。さようなら。また会おうね」
 サキはゆっくりと顔を上げた。涙を流しつつスマートフォンを両手で抱えるようにもっている。
 白い怪物の後ろの壁から無数の刀身がとびだし、切りきざんでいく。
「女の子が男子トイレに入るわけないでしょうが。ばーか!」
 スピーカーモードになっていたようで……アヤのどなり声がサキのスマートフォンからトイレ全体に響いていた。



 白い怪物の身体が全て灰になったのを確認するとサキはトイレを出て隣の教室にすばやく移動した。
「お姉ちゃん」
 しりもちをついているアヤにサキが駆けよる。
「へへっ、やったねー。サキ」
「そんなことよりお腹のほうは大丈夫なの」
「うん。大丈夫だよん。かわいいサキを抱きしめているだけですぐに治っちゃう」
 サキに抱きつきながらアヤは彼女の頭をなでる。
 痛がっていることを分からないようにするためかアヤが抱きついているサキの肩に顎をのせた。
「そうだ……どうしてお姉ちゃんは男子トイレじゃなくて教室にしたの。本当に入りたくなかったわけじゃないよね」
「簡単な理由だよ。たとえ切れなかったとしても、切りたくない女の子がいたからねー」
「そっか」
「そうなのだ」
「なるほど。とてもお姉さんらしい答えだね」
 指ぱっちんの音とともにその声は聞こえた。サキに抱きつくアヤの背中側に中腰になっているキズナがいつの間にか現れていた。
「なんで?」
 この人は、体育館で頭を踏みつぶされたんじゃ。
「見てのとおりだよ。ぼくが親玉ってやつだ」
 元の世界に戻ろうとしているのか墨汁をたっぷりとつけた筆で描いたような風景が少しずつ色づいていく。
「そんなことよりも面白いものを見せてもらった。正直あの怪物たちに勝てるとは思ってなかったんだけどね」
「サキ、ちょっとどいてて」
 サキの肩を握りながらアヤが立ち上がろうとしている。
「お姉ちゃん。その身体じゃムリだよ」
「そうそう、ムリはいけない。せっかく祭りも近づいてきているのに、ここで死なれちゃったら面白くないからさ」
 キズナは笑いつつ教室の出入り口へ歩いていた。
「なかったことにする能力。そんな力をもっているからっていつまでも逃げられると思わないことね」
 サキに支えてもらいながらなんとか立ち上がり、アヤがキズナをにらみつける。
「逃げているつもりはないよ。ぼくにとっての嫌な出来事がなくなっているだけのことだ」
「なかったことにしているだけでしょう」
「悪いことみたいに言わないでほしいな。知らなくても良いことがあるのも事実だ。お姉さんが自分の能力や怪物の存在を妹さんに教えなかったのも」
「同じじゃない」
 アヤは驚いた表情でサキの横顔を見つめた。
「お姉ちゃんと一緒にしないでください」
「分かったよ。ぼくとお姉さんは全く別の存在だ。でも不思議だな、どうして君のことがこんなに気になるんだろう」
 指ぱっちんの音が響くと……アヤとサキの目の前からキズナの姿は消えてしまった。
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