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ツインかくれんぼ

第19話

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「ごめんなさい。おまたせしました」
 トイレから出てきたサキは教室の前で待つキズナに頭を下げている。
「なにかあった?」
「警察に連絡ができるかな、とかその他にも色々と試していました」
「そういえば……まだ試してなかったな。でもダメだったのかそれは残念だったね」
 サキが浮かない顔をしている理由がそういうものだとキズナは勝手に納得しているようだった。
「ここ以外にお姉さんが行ってそうな場所とかあるのかな」
「分かりません。そもそもわたしたちみたいに動けない可能性もありますから、そんなにお姉ちゃんをあてにしないほうがいいかと」
 まだベニナワさんが同じように動けている可能性もあるけど、どこにいるかは分からないしな。
「とりあえず体育館に行ってみない? 道場にお姉さんがいるかもしれないし」
 サキが不安になっていると思ったようでキズナが彼女の右肩を軽く叩いている。
「そうですね」
 ぎこちなくサキは笑う。
 キズナが歩きだし、サキもゆっくりとその背中を追いかけだした。
「そうだ。面白いことを教えてあげようか」
 トイレを横切って、階段をおりる直前。キズナは立ち止まり後ろを歩くサキに視線を向ける。
「面白いこと、なんですか?」
 キズナと目を合わせようとしているらしくサキが見上げている。階段のおりる音とともに彼の背中に向けたままの彼女の視線も下がっていく。
「たまになんだけどさ、ぼくの耳には不思議な声が聞こえるんだ」
「不思議な声ですか」
 キズナが階段の踊り場のはしっこで休憩しているのでサキも歩くのをやめた。
「ぼくは神さまとかは信じてないんだけどね。その声は機械みたいな声をしているんだよ。ごくたまに女の子っぽい声も聞こえたりする」
 キズナの発言を聞き、サキは不思議そうにする。
「ほらっ、まさに今も。日本語じゃないっぽいから意味が分からなくて、うるさいだけなんだけどね」
「幻聴じゃないんですか? 病院に行ったほうが」
 サキが心配そうな顔をしていた。
「もちろん病院には行ったよ。けれど、異常なし。うるさいだけだから日常生活にとくに問題もない」
「宇宙人からのメッセージだったりして」
「だとしたら日本語で伝えてほしいよ」
 キズナの真剣であろう主張にサキが笑っている。
「ごめんなさい……そんなヘンなつくり話をさせてしまって、わたしはもう大丈夫ですから」
「つくり話じゃないんだけど。まあ、元気になったみたいで良かったよ」



 キズナとサキは階段をおり、校舎から体育館へとつづいている渡り廊下を歩いていた。
「どっちにする。体育館、それとも道場?」
 渡り廊下の分かれ道の前でキズナが歩くスピードを少しだけゆるめつつサキのほうを振り向く。
「体育館で」
「了解」
 なにかを言いかけたようでキズナは左手で自分の口もとを覆い、分かれ道を左に曲がる。
「やっぱり話を聞いてもらってもいいですか?」
「ぼくでよければ」
 キズナの軽い返事で肩の力が抜けたらしくサキは小さな子どもに絵本を読み聞かせるようにゆったりと語りはじめた。
「お姉ちゃんとケンカしちゃったんです」
「ふーん、よくあることだよ」
「そうなんですね。わたしとお姉ちゃんにとってははじめてでした」
 はじめてお姉ちゃんに本音を言えたが、こういうかたちになるとは思わなかった。
「いつもお姉ちゃんが一歩下がるというか、わたしを優先するので。ケンカにまではならなかった感じですかね」
「それがいつも嫌だった?」
「はい。両親がいないのでお姉ちゃんが親代わりをしてくれているのは分かっているんですけど」
「その思いに対して重荷というか、罪悪感みたいなものがある」
 キズナの後ろを歩きながらサキが首を縦に振る。
「お姉さんにはお姉さんの人生があるんだから……もっと自由にしてもいいんだよ。お姉さんが思っているほどわたしは弱くないんだよ、ってことかな」
「そうです。カウンセリングとかそういう勉強でもしてるんですか」
「いや。ぼくが思ったことを言っただけだよ。ほれられても困っちゃう」
「ほかに好きな人がいるので安心してください」
 キズナに話を聞いてもらったおかげか先ほどよりもサキの顔色が良くなっている。
 体育館の入り口の前にある段差をあがり、キズナはスライド式の扉を開け。
 キズナのお腹に風穴があいた。その中身の一部である内臓らしきものも派手にとびだしている。
 なにかが爆発したような音が聞こえたからか段差をあがっているサキが見上げた。キズナの身体からとびだしたものが視界にはいり、悲鳴をあげる。
「に……にげ」
 膝をつき、お腹を両腕で押さえているキズナの頭が踏みつけられコンクリートにめりこんでいく。
 キズナの頭を踏みつけ、返り血の浴びている強靭な白い足が体育館の中へと消えた。
「じゅう」
 体育館のほうからトライアングルを鳴らした時のような声が響いている。
「きゅう」
 サキはまったく力が入らないであろう自分の両足を思いきり叩いて立ち上がり、校舎へと逃げだす。
「はち。なな。ろく。ご。よん。さん。に」
 指ぱっちんの音が響くと、頭をめりこませていたキズナの姿が消えてしまった。
「いち。もーう、いーかーい?」
「ああ。もういい、存分に暴れろ」
 誰かの声が許可をだすと白く細い五指が体育館のスライド式の扉を開けようと。



 サキは渡り廊下から校舎へと入り、中庭を抜けて昇降口の付近で立ち止まった。肩で息をしつつ中庭のほうを見て、なにかが追いかけてこないかを入念に確認する。
 怪物……しかもアキグチくんよりもさらに強い、見つかったら今度こそ確実に。
 顔を青くしてサキが身体を震わせた。
 なにか見えたらしくすばやく身をかがめ、のぞきこむように窓から中庭の奥にある渡り廊下を凝視。
 白くて手足が細長く、縦長に造形をされたような人間の姿。鍛えぬかれた身体はムダに膨張などしておらず、どこか気高さがある。
 目が見えていないのか顔には包帯のような布地がなん重にも巻きつけられていた。
「どこに」
 トライアングルを鳴らした時のような声がサキの脳みそに直接、響くからかこめかみを押さえる。
 超音波? かなり距離があるはずなのにここまで届くなんて、もっと近くだったら。
「あれか、頭痛の原因」
 サキが声のしたほうを見上げる、日本刀を握っているアヤが立っていた。
「おねえ」
「すぐに終わらせてくるから」
 短く返事をするとアヤは中庭を駆けぬけて、白い怪物に切りかかろうと日本刀を振りあげた。
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