少年少女のくすぶった感情ども

赤衣 桃

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ツインかくれんぼ

第17話

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「え?」
 ヌイが笑ったまま動かないので、サキは戸惑っているようだ。
「ハリヤマさん? ハリヤマさん」
 サキは話しかけながらヌイの手を握ったり、頬を軽く叩いた。躊躇しつつも抱きつき、心臓が動いているかどうか確認のため胸板に彼女は右耳を当てている。
 心臓は動いている。けど、モノクロっていうのかいつもよりも世界全体が暗いような?
 ヌイからはなれ、サキは辺りを見まわしている。墨汁をたっぷりとつけた筆で描いたような風景。
 中庭から吹く風には煤らしきものがまじっているようにも視認できた。
「どうかした?」
 声のしたほうにサキは振り向く。
 突出した特徴のない男子生徒がいつの間にかヌイの隣に立っている。
「あの、大丈夫なんですか?」
 というか、そもそもいつからいたんだろう。 ハリヤマさんのいるところは常に警戒していたはずなのに全く気づかないなんて。
「なんのことか分からないが。色々と大丈夫だし、元気だと思うよ」
「それならいいんです。えっと」
「ぼくはジンノキズナ。よろしくね」
「ジンノ、キズナ?」
 誰だっけ? 確かそんな名前のことを。
 キズナが指ぱっちんをするとサキはなん回もまばたきをしながら首を傾げた。
「あれ? どこかで出会ったことがありますか」
「うん。一週間ぐらい前にグラウンドで雑談をしましたよ」
「あのときの野球部員さん」
「正解。久しぶりだね」
 そっか。それで、さっきヘンな感じがしたのか。でもアキグチくんのことは忘れちゃってそうだな。
「ところで暗くなっているような気がするんだけど原因が分かっていたりする?」
「いえ。わたしもその原因が分からなくて、困っていたところなんです」
「日食とか」
「違うと思いますよ。こんな感じで人間も動かなくなっているので」
 サキがヌイの制服を引っぱっている。
 おそらく怪物の仕業なんだろうけど……わたしが動けているんだから能力をつかえるハリヤマさんも同じようにできてもいいはずなのに。
 なにかしらで識別でもされているのかな?
「人間、どこにいるの?」
 ヌイの隣に立っているキズナが左右に首を振る。
「ここですよ」
 サキが指差すところをキズナは凝視しているが、ヌイの姿が見えないらしく目を細めている。
「ぼくには見えないようだね。この辺にいるんだとは思うけど」
 キズナも彼女と同じように指差しているがサキの目にはその人差し指がヌイの頬をつついているようにうつっていた。
「そう、みたいですね」
 わたしの怪物を見分ける能力のおかげっぽいな。
「理由は分からないけど。君には、ぼくの認識できない動けない人間が見えているんだね」
「視力が良いからですかね」
「だろうね。うらやましすぎるよ」
 おどけているサキにキズナも調子を合わせた。
「さて、どうしようか? ここでじっとしていてもどうにもならないだろうし」
「えと、わたしのお姉ちゃん。こういうオカルト的なことに詳しいタイプなので、もしかしたらなにかを知っているかもしれません」
「そうなんだ。ルイノ、アヤだったっけ、お姉さんの名前は」
「はい。同じクラスなんですか」
「そうだった気がする。同じクラスじゃなくても、彼女の存在はシンショウ中学では有名だと思うよ」
「それも……そうですね」
 サキが歩きだし、キズナもその後ろをついていきながら指ぱっちんをする。ヌイと一緒に歩いてきた廊下のほうへと移動し、理科室の近くにある階段をあがっていく。
「なにを怒っているの?」
 階段の踊り場でキズナは気まずそうにサキに声をかける。
「怒ってませんよ。そんな風に気をつかわれるのが苦手なだけです。お姉ちゃんはお姉ちゃんだから、わたしとは関係ないのに」
「劣等感じゃないね。なんていうんだろうね、そういう気持ち」
「わたしも分かりません。でもお姉ちゃんのことは嫌いじゃないです。そこに人がいるので注意をしてくださいね」
 サキは階段をあがりながらキズナには見えてないであろう、男子生徒の立ち位置を指で教えている。
「大好きというわけでもなさそうな感じだけどね。それにしても意外だな。君は自分の気持ちをさらけ出すようなタイプじゃないと思っていたんだが」
「そうですね……わたしも驚いています。どうしてでしょうね? ジンノさんと話すのがはじめてではない気がするんですよ」
 かつての盟友と再会をした時のような奇妙な心地よさがある。
「そういえば、ジンノはどんな漢字なんですか?」
「神さまの神に、野原の野で、神野。それとキズナは友情とかそういう感じ、漢字表記だと絆になる」
「良い名前ですね」
 階段をあがりきりサキが振り向く。キズナの視線が一瞬、違う方向に移動をしていたがすぐに彼女と目を合わせた。
「なにかあったんですか?」
 サキは半身になり同じ方向を見たが。特別なものはなにもなかったらしくキズナの立っているところに視線をもどす。
「いんや、羽虫が見えたような気がしたんだが気のせいだったみたい」
 虫が苦手なようでサキの顔が青くなる。その表情が面白かったのか見えないように口もとを手で隠しながらキズナはにやけていた。



 煤けているような廊下を歩き……サキとキズナはアヤと彼の所属するクラスの教室に近づく。
 教室の前には女子生徒がなん人か立っており話がはずんでいたのかヘンなポーズのままでかたまっているやつもいた。
「えと、そこに神さまみたいなポーズをしている人がいるので注意をしてください」
「どんなポーズ?」
「ジンノさんの想像におまかせします」
 サキが教室に入ったのを確認すると、同じように動きながらキズナも入室した。
「いないようですね」
 教室の出入り口付近でキズナを待たせて、サキは教室にいる生徒の顔を一人ずつ調べる。
「トイレに行っているとか?」
 顔だけを教室の外に出しながら隣に設置をされているトイレをキズナが見ていた。
「そうかもしれませんね。見てくるので待っていてもらえますか」
「なんだか楽しそうだね」
 教室のはしっこから戻ってきたサキに聞こえないていどの音量でキズナはつぶやく。
「なにか言いましたか?」
「いや。神さまみたいなポーズはどんなのだろう、と考えていただけだよ。あと気をつけてね」
「了解です」
 冗談っぽく返事をしてからキズナを横切り教室を出て……その隣に設置をされているトイレにサキは入っていった。
 洗面台の前でハンカチを顎で挟んでいる女子生徒がいたがアヤではなかった。サキが手前のほうから個室を開けていく。
 一番奥の個室の扉を開けようとした途端、サキはその中に引きずりこまれてしまった。
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