少年少女のくすぶった感情ども

赤衣 桃

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同級生が黒幕でした

第13話

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「ど、どうしたの?」
 インターホンで事情を聞いて、サキが玄関の扉を開けると血まみれのヌイを背負っているアヤの姿があった。
「電車から落ちちゃった」
「ジョークを言えるぐらいには元気みたいですね。とりあえずシャワーを浴びますか? 傷口をきれいにしないと」
 冷静に話しているように見えたがそれなりに動揺をしているらしく、サキは両手を意味もなく動かしつづけている。
「サキちゃんも一緒に入ってくれるのなら」
「遺言はそれでいいかな」
「お姉ちゃん。からかっているだけだって」
 寝癖をなでているアヤの右手をサキが握った。
「わりと真面目にだよ。左腕は折れているし、両足も骨にひびが入っているっぽいし」
「いやいや。なんでそんな状態ではしっている電車に追いつけるのよ」
 アヤの言葉を素直に信じたのかサキは驚いた表情でヌイのほうを見つめる。
「諦めが悪いからかな」
「ただの根性論か。サキ……悪いけどヌイの身体を洗うの手伝ってくれる?」
「うん。それはいいけど」
 顔を赤くするサキの頭にアヤが触れた。
「大丈夫だよ。サキが想像しているようなことにはならないから」
 アヤがスニーカーを脱ごうと足もとを見ると首を傾げた。おんぶされているヌイもつられて同じ方向に目を向ける。
 男物の黒い革靴がきれいに並んで置かれていた。
「誰か来てるの?」
「えっと、お猿さんが来ています」
 サキの返事にヌイがふきだした。その反動で痛みがはしったのか泣き笑いのような顔をしている。
「えっ、なになに……今ので分かったの?」
 アヤがヌイの顔を横目で見た。
「まあね。サキちゃん、あんまり笑わせないで本当に痛いんだから」
「そこまで笑わせるつもりもなかったんですが」
 ヌイの泣き笑いのような顔が面白かったらしく、サキの口もとがほころぶ。
「でも、安心はしたかな。女の子たちに裸を見られないでよさそうだからね」
 ようやく理解をできたようでアヤが嫌そうな顔でリビングのほうをにらんでいる。
「いるの? あの猿が」
 サキがうなずいたのとほとんど同時にリビングの扉を開けて彼は近づいてきた。黒髪でオールバックの男の子がアヤの目の前で立ち止まった。
「お邪魔をしているよ、お姉さん」
 オールバックの男の子は笑っているつもりのようだが、つり目だからか少しだけ違和感がある。
「あっそ」
 そっけなくアヤは返事をしていた。
「その、お話は聞こえていましたか? できることなら同性のベニナワさんに、ハリヤマさんの身体を洗ってもらおうと考えているんですが」
「聞こえていたよ。趣味じゃないが、やるしかなさそうだ」
「エニシ、それはお互いさまだ。ぼくだって女の子に洗ってほしかったよ」



「ハリヤマさん、その格好は」
 サキがリビングでコーヒーの用意をしていると、浴室で身体を洗いおわったヌイが入ってきた。
 なぜだか彼がナース服を着用しているのでサキは目を丸くしている。
 似合っているし、かわいいけど。ハリヤマさんは男の子だったはず……顔つきは女の子だけど。
「お姉さんのイタズラ。去年の文化祭の時の予備を見つけたみたいでね、ナースキャップもあったり」
 恥ずかしさはないらしくナースキャップを被ったヌイは笑みを浮かべていた。
「もう一着あるみたいだからサキちゃんも着る?」
「今日のところは遠慮させてもらいます」
「残念だな。サキちゃんのほうが似合うだろうに」
「もうすぐ文化祭ですから、その時にでも」
 どことなくヌイが落ちこんだような顔つきをしたからかサキはそう口ばしる。
「分かった。楽しみにしているね」
 ヌイが両腕をひろげるようにのばす。抱きしめてほしい、というおねだりをしているようなポーズにサキの位置からは見えた。
「コーヒー運ぶよ」
「あっ、ありがとうございます」
 サキは顔を赤くしつつヌイにポットとマグカップがのっている盆を渡した。
 テーブルの上に盆を置き、アヤが座る向かいがわのソファーにヌイは腰をおろす。
 アヤはテレビを見るのに集中しているようでヌイが向かいに座ったことに気づいてなさそうだった。
「お姉さん。コーヒーができましたよ」
「うん? ありが……ヌイ。なにそれ」
 ヌイのナース姿を見てかアヤがにやついている。
「自分でイタズラしておいて忘れるなよ」
「過去は振り返らないのがモットーなのだ」
「思い出せなかっただけだろう」
 ヌイのささやかな嫌がらせを聞き、口もとを右手で覆いながらサキが笑うのをこらえた。
 なにかを言おうとしたのかアヤがキッチンにいるサキのほうに顔を向けた。ため息をつき、うなり声をあげながらヌイをにらむ。
「まるで犬だな、お姉さんは」
 リビングの入り口から聞こえてきた声のせいか、アヤは顔をゆがめていく。
「おれまでお風呂を使わせてもらってすまないね」
「お気になさらず。ぬれたままだと風邪をひいたりしますし。服のサイズ……大丈夫そうですね」
 ソファーの近くに立つサキは、エニシの着ている父親の服を確認しつつ首を縦になん回も振る。
「エニシもコーヒー飲む?」
「ああ。頂こう」
 エニシはそう答えるとアヤの隣に座った。ヌイが目の前に置いたコーヒーを飲み、息をはきだす。
「なんでこっちに座ったの」
 アヤがエニシに抗議をしていた。
「たまたまだな。それに同じ男としてもコーヒーのお礼はしないといけないからな」
「あっそ」
 エニシに背を向けてアヤはテレビを見るのに集中しはじめたようだ。
「サキちゃんも座ったら? 疲れちゃうよ」
 サキを見上げながらヌイがソファーを軽く叩く。
「はい。それじゃあ……遠慮なく」
 ヌイの隣にサキは座った。緊張でもしているのか縮こまっている。
「その、ケガはもう大丈夫なんですか」
「うん。あき、前に教えた触ったものの時間を戻す能力できれいに治したよ」
 あき。アキグチくんの時みたいにハリヤマさんは言いかけた? でも、なんで躊躇をしたんだろう。
「サキさん、ちょっといいかな」
「へっ。あっ……はい。なんでしょうか」
 とつぜん呼ばれて驚いたからか慌てた様子でサキは向かいに座るエニシと目を合わせる。
「サキさんはおれたちと同じように能力がつかえるようだね」
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