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黒幕は同級生?
第5話
しおりを挟む「へへっ……サキ。かわいい」
ベッドの上でサキを後ろから抱きしめながらアヤが頬擦りをする。
さっきまでのお姉ちゃんは幻だったのかな、もういつもの状態に戻っているし。
「今日は本当にいい日だね。かわいいサキが一緒に寝てくれるんだもん」
「説明をしてくれたらね」
「うーん、お姉ちゃんはそういうの苦手」
サキのお腹に巻きつけた両腕にアヤが力を入れている。抗議しようとしたが、姉の赤くなった目もとが見えたようで口を閉じてしまった。
「だからヌイが分かりやすく説明して」
「了解。まず不思議な能力がつかえるようになった原因だけど、これのせいだろうね」
そう言い、ヌイは自分の鞄から布にくるんだ石のようなものを取りだした。赤く輝いていて見ようによっては宝石のようだった。
「ルビー?」
石に魅入られたのかサキが身をのりだしている。
「似ているよね。でも、多分これは隕石だよ」
「隕石? どうして分かるんですか」
「なんとなく。それに今サキちゃんが興味をもっているようにこの石にはそういう不思議な力があるのは事実だからさ」
ある種の確信があるらしくヌイは力強く言う。
「サキ。あんまり見ないように」
アヤが両手でサキの目をふさいだ。
ヌイも赤く輝いている石を布で包みなおして自分の鞄の中にしまっている。
「もういいよ」
やさしく笑いかけながらアヤはサキの目をふさぐのをやめた。
「お姉さんの言うようにこれはあんまり見ないほうがいいと思う。麻薬みたいなものだからさ」
「麻薬……そうなった人がいるんですか?」
「ま、その一歩手前って感じかな。でも頭は良いんだよね、あいつさ」
苦々しい顔つきでアヤが質問に答える。
「えっと、この石を知っているベニナワエニシって男の子がもう一人いるんだよ。その人はお姉さんと犬猿の仲なんだ」
ヌイが軽く補足をしていた。
「あいつが猿だよね。わんわん」
「お姉ちゃんは犬でいいの?」
「サキはかわいいから猫だね」
「話をもどしてもいいかな?」
姉妹のじゃれあいを邪魔することを申しわけなさそうにヌイがつっこんでいる。
「はい。そのベニナワさんが犬でお姉ちゃんが好きなんですね」
「つっこんだほうがいいかな?」
「は……はい」
「ちがうわー」
「きゃー」
サキがジョークを言ってくれてうれしかったのかヌイは笑っている。
「むー、お姉ちゃんはさびしいと死んじゃうぞ」
アヤがサキの肩の上で頬をふくらませた。
「今日はお兄さんに甘えたい日なんじゃない」
「まあ、そういうことにしといてあげる」
「ベニナワさんがその赤い石を隕石なんだと仮説を立てているんですね」
話題を戻すためかヌイが言ったことをサキが要約している。
「そうだね。基本的に神さまや悪魔とかを信じないタイプだから宇宙人の仕業にしているっぽいけど」
「でも、そのほうが現実的というか納得しやすいと思います。よく分からない存在を信じるよりロマンチック? かと」
「サキちゃんはエニシと考えかたが似てるね。同じようなことを言っていたよ」
できることならハリヤマさんと同じ考えかたなら良かったのに。
「それで、ハリヤマさんとお姉ちゃんは宇宙人説を信じているんですか?」
「信じるもなにも目の前でああいうことが起こっているし能力もつかえるんだから、宇宙人の仕業じゃないにしても受け入れるしかないでしょう」
サキの耳をかじりたそうな視線を向けながらアヤもうなずいている。
「そっか」
「むしろサキちゃんのほうがすごいと思うけどね。同級生があんなことになったのに冷静に対処をするなんて」
「そうですか? 普通だと思いますよ」
やっぱり言うべきかな? アキグチくんの身体が青白く光っているように見えていたこと。多分ハリヤマさんたちと同じような能力だとは思うけど。
でも、わたしが赤い石を見たのは今日がはじめてのはず。それにこのことを教えたら、お姉ちゃんが泣きだすぐらい心配する可能性もあるし。
「分かってないなー、ヌイ。ああなる前にあのアキグチくんだっけ? その子はサキに告白を断られているんだから。追いかけてきたらヘンだなー、って思うのが普通でしょう」
「それもそうだな。そんなアキグチくんがわざわざ顔を合わせに行くわけないか」
動揺しているのかサキが目を泳がせていた。
「サキが気にすることじゃないよ。恋とか愛はどうやっても誰かを傷つけちゃうんだから」
アヤがサキの頭をなでている。
「そうそう。お兄さんもお姉さんになん回も振られたりしているし」
「え?」
ヌイの思わぬ言葉にサキが反応をした。
「てっきり付き合っているんだと」
「友達と恋人の間くらいかな?」
「そんなところ。わたしの一番はもちろんサキ」
「そ……そうなんだ」
サキが一息つくように脱力させて笑っている。
「サキちゃんは意外と意地悪な性格だね。お兄さんの失恋話がそんなに面白いかな?」
ヌイが冗談っぽく言った。
「ち、違いますよ。そのハリヤマさんでも振られるんだな……と思って」
「そりゃあねえ。かぐや姫たちの前では誰もが従者になってしまうんだ」
「それさ、なんで竹からうまれたんだろうなって。なーんかいつも考えちゃうんだよね。サキみたいなかぐや姫がさ」
また話が脱線しているような。面白そうだから、別にいいけど。
「竹みたいなかたちの宇宙船だったからとか」
「現実的すぎない。宇宙からかぐや姫の種的なものが落ちてきて、それが成長したものが竹っぽいものに見えちゃったとか」
「お姉ちゃんのはファンタジー色が強すぎる。ハリヤマさんのほうが現実的だから面白そう」
サキの意見を聞いたせいかアヤがさびしそうな顔をする。
「サキちゃんのも聞いてみたいな」
「そうだそうだ。お姉ちゃんのファンタジーを否定するんだから面白いものじゃないとダメだよ」
「ええ。それじゃあ地球が新しい人類をつくろうとした、とか?」
ほんの一瞬だけ間があいたあと。
「面白そうじゃない? 月にいっちゃったのも地球外で適応をするための進化とかでさ」
「うん。新しい人類だからね。こう男をひきよせるフェロモンみたいな能力があったとか色々と辻褄が合いそうだし」
アヤとヌイが楽しそうに話している。
サキは安心したのか大きく息をはきだしていた。
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