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黒幕は同級生?
第4話
しおりを挟む「サキちゃんのペースでおりてくれたらいいから」
「分かりました」
ヌイにおんぶされているサキはゆっくりと自分のベッドに座った。カサナに蹴られた横腹が痛むようで彼女が顔をゆがめる。
「おりました」
サキがベッドに座ったのを確認してから腰をかがめていたヌイはカーペットの上であぐらをかく。
アヤが手際よくサキのブラウスをめくると、横腹のあたりが腫れあがり青黒っぽい色に変わっているのが見えた。
「やっぱり折れているっぽいな」
サキの横腹にヌイが顔を近づけている。
「そ、そうですか」
「今は興奮しているからそこまで痛くないかもしれないけどね」
たしかに興奮しているとは思うけれど。ハリヤマさんの想像しているものとは、かなり違うような。
「じゃあ、ちょっと触るよ」
「はい。どんときてください」
ヌイがサキの横腹の青黒っぽく変わっている部分を指先でなぞる。くすぐったいのか、彼女は身体を震わせていた。
「ねえねえねえ、ヌイ。もっとはやくできないの。女の子がお腹を見せるのかなり恥ずかしいんだぞ」
「お姉ちゃん。治療をしてくれてるんだからそれはしょうがないよ」
「そうなんだけどさ……それとサキはもっとご飯を食べて余分なお肉をつけようね」
「そっちのほうが恥ずかしいわ!」
サキが叫んだのを見たからかヌイがほほえむ。
うっ、うー。お姉ちゃんのせいでハリヤマさんの前で叫んじゃったじゃん。
「やっぱりサキちゃんはお姉さんと一緒にいるときのほうが楽しそうだね」
「そんなことないですよ。お姉ちゃんはデリカシーがないから合わせているだけです」
アヤがなにかを言いかけたがサキのごきげんな顔を見て空気を読んだのか口をつぐんだ。
「ふーん。じゃあ、お兄さんと話す時もそんな感じで話してほしいな」
お菓子をもらったときの子どものような笑った顔をヌイがベッドに座るサキを見上げる。
「いいんですか」
「いいよー。けど、サキちゃんはかわいいからね。あんまり仲良くしちゃうと彼氏に嫉妬をされちゃうかもしれないな」
「いませんよ!」
「本当かな」
「本当ですよ」
サキは顔を赤くしながらヌイと目を合わせた。
「す、好きな人ならいますけど」
「同じクラスかな? サキちゃんが好きになったんだから絶対に良い子だと思うな」
「ないしょです。今のところは」
「そっか。教えたくなったら教えてね」
「はい。その時はちゃんとハリヤマさんにも教えるつもりです」
その時も、ハリヤマさんが同じように笑ってくれればいいんだけどな。
「ん……オッケー。治ったよ」
おそるおそるサキが自分の横腹を確認する。
「あっ、腫れてない」
「だから治ったって言ったでしょう」
ヌイが軽く唇をとがらせていた。
「これがさっき説明してくれたハリヤマさんの時間を戻す能力でしたっけ?」
「正確には触ったものの時間を戻す能力かな。生きもの限定だけど」
「肋骨が折れる前の状態に戻してくれた」
「そういうことだね。お腹が冷えちゃうよ」
ヌイの言葉を聞き、サキはめくっていたブラウスをもとに戻していく。
「じゃあ、さっきのお姉ちゃんの日本刀も」
「そう。同じようなものだね」
サキが背後にいるアヤの寝癖を見つめている。
さっきの日本刀がお姉ちゃんの寝癖になっているんだったっけ? 指とか切れたりしないのかな。
「ん……寝癖になっている時は切れたりしないよ。お姉ちゃんの枕とかきれいでしょう」
妹であるサキの感情を読みとり、アヤがおちゃらけていた。
「お姉ちゃんの枕なんて見ないから」
「それなら今晩でも見てみる? 小さい時みたいにたまにはサキと一緒に寝てみたいし」
「そうなった理由を教えてくれるなら一緒に寝てもいいよ」
アヤがあからさまに表情をくもらせる。
「教えておいたほうがサキちゃんも対処しやすいと個人的には思うけどね」
黙っているアヤに、ヌイがそれとなく提案した。
「それは正しいんだろうけど。わたしたちも全容を把握できているわけじゃないし」
「サキちゃんを巻きこみたくないのは分かるけど、今回のことを秘密にされるほうが嫌だと思うよ」
「それじゃあ……この約束を守ってくれたら教えてあげる」
「なに?」
ベッドの上で足をのばすアヤと、向かい合わせになるようにサキが座りなおす。
「死なないで。今日みたいに殺されそうになっても諦めないでほしい。絶対にお姉ちゃんが助けるからさ」
サキの目を真っすぐに見つめながらアヤは真剣な表情で口にしている。
「お姉ちゃんこそ死んだらダメだよ」
「お姉ちゃんは不死身だから死なないよ」
「そっか」
「そうなのだ」
アヤが笑うと、つられるようにサキも同じように笑いだした。その光景をヌイもうれしそうに見る。
「サキ、抱きついてもいい?」
四つん這いになりサキに近づきつつアヤがあまったるい声をだす。
「うん。いいよ」
今朝のように拒絶をせずサキは言葉もろともアヤをその身体で受けとめた。
本能的に見てはいけないものだと察知をしたのかヌイが窓の外に視線を向けている。
彼女がサキに力強く抱きつくほどに、ベッドからきしむような音が聞こえた。顔をうずめて、アヤはとてもうれしそうに笑う。
こうなって、普通なんだよね。命の選択をしたんだから。
「大丈夫だよ。お姉ちゃん」
「うん」
「お姉ちゃんはわたしを守ってくれたんだよ」
「知ってる」
「だから」
「サキ……それ以上は言わないでね。お姉ちゃん、折れちゃうから」
「やだ。言う。わたしの前だったら折れてもいいんだよ」
「ほんとに?」
「うん。いいんだよ」
「そっか。いいのか」
アヤは泣いた。
お姉ちゃんは優しいよね。あんまり知らない他人のために泣けるなんて、わたしにはできないよ。
サキはアヤの背中をゆっくりとなでた。泣きやむのを願うかのように、くり返し……ずっと。
「今日はいい日だったね」
「そうですね。本当に」
ヌイのなにげない一言にサキは返事をしていた。
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