高卒できなかったわたしは今日も時間が巻き戻る

赤衣 桃

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旧校舎

22話目

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 ざざざざざ……ざざざ、ざざぁ。
 こんなのは記憶にない。わたしの過去じゃない。
 違う、ナイトプールでの出来事が過去だから今ここに存在しているわたしは未来にいるのか。
 ナオトもオールバックの同志も過去の男だとしたら、わたしは若返っていることになってしまう。
 時間は未来に進んでいるのであれば、わたしは年齢を重ねなければならないはずなのに。
「興奮をしたり、アドレナリンとかが出まくると記憶は失うものなんだな。さっきまでおれ……なにをしていたんだっけ」
「八雲ユニとのエッチを楽しんでいたよ」
 正気に戻ったかのように、優しい顔つきになっている左目だけの男の質問に右目だけの男が答えた。
 換気のためなのか少しだけ開けている窓の外から雨音が聞こえる。対向車の光が一瞬で通り過ぎていく。

「精液と一緒に脳味噌まで吸い尽くされたのか」
「八雲ユニちゃんとの全力エッチが最高だったのは確かだろうな。記憶が飛んだんだし」
「すでに頭のネジが飛んでいるから記憶をできないだけじゃないのか」
 わたしはこれからどうなるんだろう。エッチをして、満足すれば家に帰してもらえるはず。約束していたから守ってくれないと。
「エッチも終わったし、家に帰しても」
「坊ちゃんからの指令は八雲ユニの口封じですので……このまま彼女を家に帰しても問題がないとお二人が判断したのであればそれでも良いかと」
「だったら」
「ただ、わたくしは恐ろしい。人間は性別や年齢に関係なくタフな生きもの……粉々に砕いたと思っていた精神も時間とともにいつの間にか回復してしまう。万一にも今夜の出来事を漏らされれば」
「分かったよ。目的地に到着をしたら教えてくれ」
「ごゆるりとおやすみください」

 運転手にそう言われてか下半身が丸出しの右目の男が荷室の中央付近で仰向けに寝転ぶ。しばらくすると彼はいびきをかいた。
「目的地に到着したら起こしますので、ごゆるりと」
「せっかくだけど、エッチ大好き八雲ユニちゃんが寝かせてくれそうにないんだよね」
 ワンボックスカー内のリアドア部分に凭れかかり両足を広げている左目だけの男の硬く太い陰茎を、彼の正面にぺたん座りしたユニが両手でしごく。
 誰かに命令されたからではなく自分の意思で、ユニは名前も知らない異性の陰茎を小さな両手でマッサージをしていた。
「清楚なふりした上玉の女子高校生にこんなにサービスしてもらえるとかさ、人生最高の瞬間かもしれない」
 死にたくない。
 この男の人を満足させられれば家に帰れる。
 お母さん、お父さん、ごめんなさい……もうルールを破ったりしないから助けて、お願いします。
 でも、エッチは楽しい。温かくて白い液体をぴゅっとさせないと。

「今のおれみたいにさ、運転手さんも人生最高の瞬間を感じる時とかない?」
「坊っちゃんの命令を完遂した時ですな」
「また坊っちゃんか。運転手さんの初恋だったりして」
 左目だけの男の唐突とうとつな冗談に運転手が笑っている。
「恋というより初孫や自分の子供に出会えたような感情に近いかと」
「坊っちゃんにとって、運転手さんが本来の親のような立場なら危ない夜遊びは注意するべきじゃないのか」
「坊っちゃんがどこにでもいる常識的な人間なら正しい道徳とやらを教えていたでしょう」
「かわいそうに……坊っちゃんのこれまでの人生はさぞかし大変だったと」
「演技がお上手で。他人を慈しめるのならば今回の依頼など最初から受けてくださらないと思いますが」
 車内がしんとした。左目だけの男の硬く太い陰茎を、ユニが右手でこすりながら彼の乳首にキスをする。

 ちろちろと舌先で左目だけの男の乳首を舐め続けユニが上目遣いをした。短い黒髪の彼女と目が合うと、彼がその頭を撫でる。
「随分と懐かれておりますな。坊っちゃんの友達の八雲ユニさまに」
「坊っちゃんの友達でも約束を破ったんだから殺さないといけない。というか約束を破ったからこそ殺すのか」
「危ない夜遊びは大人も子供も秘密厳守。坊っちゃんの対応は当然では」
「どうせならセックスフレンドにすれば良かったのに。思春期の坊っちゃんには刺激が強すぎるお友達かもしれないけれど」
「今回は八雲ユニさまを殺したかったのでしょう。前回はセックスフレンドだったようなので違うパターンを」
「なんの話だ?」
「わたくしにも分かりません。坊っちゃんはたまに意味不明なことを言うんですよ」
「細かいことはさておき。また似たような依頼があればよろしくお願いしますよ、運転手さん」

 セックスフレンド……わたしが誰かと。
 誰だったっけ、確か坂田くん? 坂田ハヤテくん。
 今回は違う。旧校舎に行ってないから、坂田くんとはまだエッチしてない。とっても気持ち良かったな。
 だけど怖かった。死にたくなかった。
 あんなに暗いところにはもう行きたくない。
 行かなかったら、わたしは殺されてしまう。でも死なないから安心。何回でもやりなおせる。
 わたしはもう死ぬことはない。若いままで、いっぱいエッチをいつまでも楽しめる。
 なんて割り切らないと、わたしはまともな精神を。
 ワンボックスカー全体が大きく揺れる。いつの間にか雨音が聞こえなくなっていた。
「到着したのか」
 右目だけの男が上半身を起こして、伸びをする。
「無事に到着しました。わたくしの役目はここまで……今回も坊っちゃんの命令を完遂できて良かった」
 涙を流しているのであろう運転手を見てか、左目だけの男が運転席に座る彼の肩を叩く。
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