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真宵荘のハロウィン(番外編)
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「リクト!リクト!」
僕の部屋の扉が突然開かれ、タマが飛び込んできた。その後ろにはユウジさんが付き添っている。
その日のタマの装いはいつものパーカーの上から黒いマントを付け、黒いとんがり帽子をかぶっていた。そう、魔女の衣装だ。
「とりっくおあとりーと!」
タマは目をキラキラさせて手を出してきた。横からユウジさんが口を挟む。
「タマ、トリックオアトリートってどういう意味か知ってる?」
タマは首をかしげて考える。
「んー?お菓子ちょーだい?」
それはいつも言ってるだろ。僕は心の中で突っ込む。
「お菓子をくれないとイタズラするぞって意味だよ」
「イタズラ?例えばどんなこと?」
ユウジさんは少し考えた後、ニヤリと笑って口を開いた。絶対にろくなこと言わないだろうな。
「例えばリクトくんをベッドに押し倒して…」
「ユウジさんは黙っててください!」
僕はユウジさんを引っぱたくとタマに焼きたてのパンプキンカップケーキを渡す。
タマの顔が一瞬でとろける。
もうイタズラに興味はなくなったようだ。
十月三十一日、世間ではハロウィンである。
真宵荘でもそれは恒例行事のようで、みんなはこの日になるとタマにお菓子をあげるそうだ。
嬉しそうにカップケーキにかぶりついたタマを眺めながら紅茶を啜る。何だかんだでいつものアフタヌーンティーと変わらない。まぁ、タマが幸せそうだしいっか。
タマがカップケーキの上に乗ったかぼちゃの種を摘んで眺めているので、「それ、食べられるよ」と言うと恐る恐る口に運んだ。
「そういえばユウジさん」
僕はふとユウジさんに話しかける。
「ん?どうしたんだい?」
ユウジさんは自分で持ち込んだ雑誌を捲りながら答える。
「よく考えたら僕がここに来てもう二ヶ月も経つんですね。」
僕がここに来たのは八月の二十八日だった。早いものだ。
「まだそれだけしかたってなかったのか」
人の時間の感じ方はそれぞれのようだ。
「もう完全にリクトくんが空気になってたからもう一年くらい経ってるかと思ってたよ」
とユウジさんは笑いながら言う。
「空気ってなんですか空気って」
僕は少しムッとしたように言う。
「あーごめんごめん。ここに馴染んでいるってことだよ」
とユウジさんは笑いながら謝る。
いつもの光景である。
僕はふと思うことがある。いつまでここいられるのだろうと。
いつまででも続けばいいと思う。でも、何事にも永遠はないのだ。
いつかはここを出る時が来る。その先のことは何もわからない。
物事はなるようにしかならない。でも、それは出る時に考えよう。
今はこの生活を存分に楽しめばいい。
僕の部屋の扉が突然開かれ、タマが飛び込んできた。その後ろにはユウジさんが付き添っている。
その日のタマの装いはいつものパーカーの上から黒いマントを付け、黒いとんがり帽子をかぶっていた。そう、魔女の衣装だ。
「とりっくおあとりーと!」
タマは目をキラキラさせて手を出してきた。横からユウジさんが口を挟む。
「タマ、トリックオアトリートってどういう意味か知ってる?」
タマは首をかしげて考える。
「んー?お菓子ちょーだい?」
それはいつも言ってるだろ。僕は心の中で突っ込む。
「お菓子をくれないとイタズラするぞって意味だよ」
「イタズラ?例えばどんなこと?」
ユウジさんは少し考えた後、ニヤリと笑って口を開いた。絶対にろくなこと言わないだろうな。
「例えばリクトくんをベッドに押し倒して…」
「ユウジさんは黙っててください!」
僕はユウジさんを引っぱたくとタマに焼きたてのパンプキンカップケーキを渡す。
タマの顔が一瞬でとろける。
もうイタズラに興味はなくなったようだ。
十月三十一日、世間ではハロウィンである。
真宵荘でもそれは恒例行事のようで、みんなはこの日になるとタマにお菓子をあげるそうだ。
嬉しそうにカップケーキにかぶりついたタマを眺めながら紅茶を啜る。何だかんだでいつものアフタヌーンティーと変わらない。まぁ、タマが幸せそうだしいっか。
タマがカップケーキの上に乗ったかぼちゃの種を摘んで眺めているので、「それ、食べられるよ」と言うと恐る恐る口に運んだ。
「そういえばユウジさん」
僕はふとユウジさんに話しかける。
「ん?どうしたんだい?」
ユウジさんは自分で持ち込んだ雑誌を捲りながら答える。
「よく考えたら僕がここに来てもう二ヶ月も経つんですね。」
僕がここに来たのは八月の二十八日だった。早いものだ。
「まだそれだけしかたってなかったのか」
人の時間の感じ方はそれぞれのようだ。
「もう完全にリクトくんが空気になってたからもう一年くらい経ってるかと思ってたよ」
とユウジさんは笑いながら言う。
「空気ってなんですか空気って」
僕は少しムッとしたように言う。
「あーごめんごめん。ここに馴染んでいるってことだよ」
とユウジさんは笑いながら謝る。
いつもの光景である。
僕はふと思うことがある。いつまでここいられるのだろうと。
いつまででも続けばいいと思う。でも、何事にも永遠はないのだ。
いつかはここを出る時が来る。その先のことは何もわからない。
物事はなるようにしかならない。でも、それは出る時に考えよう。
今はこの生活を存分に楽しめばいい。
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