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第三章 ギルド結闘編

第81話 幸せの未来のために/ 奪われた未来

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※三人称

 場面は変わり、アネモガートとアリシア姫は逃げるため、人気ひとけのない、森へと来ていた。

「あれはどういうことだ? お前は姫なんだろ?」

「ん? 何が? そうだけど……?」

 アネモガートの急な言葉に戸惑うアリシア。

「あいつ、最後の攻撃を俺ではなく、お前を狙っていた。あれは完全に殺しにきていたぞ」

 アネモガートはゲッケイ大佐の攻撃はアリシアに向けたものだと主張した。

「ゲッケイ大佐が? 目を瞑ってたから分かんないけど、あの人はそんなことしないよ!」

「どーだか。善人ぶった……偽善者だろ、あれ」

「容赦ないね。私なんかを殺しても得なんてないよ? あ、傷治してあげるよ」

 アリシアは回復魔法でアネモガートの傷を癒した。

「これで大丈夫っと。ふふっ」

 アリシアは素敵な笑顔を見せた。

「な、なぜ俺の傷を治した? 俺はお前を攫ったのだぞ?」

「だって、アネモガートって悪い人には見えないもん。私には分かるんだ。
 それに、ゲッケイ大佐の攻撃が私にむかっていたのなら、私を守ってくれたんでしょ? 守ってくれてありがとう!」

「守ってやったつもりはない。任務のために仕方なくだ」

 アリシアの言葉に冷たく返すアネモガート。アリシアは自分を語る。
 
「私ね。王族だから、パレードとか感謝祭の時以外は外に出られないんだ。
 だから、気軽に話せるような人もいないし、国の外のことなんか知らないからね。
 一度、国の外にでて、いろんな人と世間話をしたりね、カフェで美味しいケーキを食べたりぃ、んーっとそれでそれでね! 綺麗な景色を見たりね! あれもしたいし、これもしたいってあるんだけど、一つでも願いが叶うと思うと嬉しいんだ」

 アリシアの目は希望に満ち溢れ輝いていた。そんな彼女を見て、アネモガートは、言葉が詰まりなかなか言い出せない様子。
 はぁ。っと、浅いため息をついてアネモガートは言った。

「俺もお前を連れてこいとしか、つ、伝えられていないから、どうするかは知らんが、生きて帰れる保証はないぞ」

「別にいいよ。私のやりたかったことが、全てできなくても、一つでも多く叶うのなら、私は殺されることになったとしても、それを受け入れるし、後悔なく幸せだったと実感できると思うから」

 彼女はなぜか幸せな顔をしてそう答えた。

「……変わった女だな」

 アネモガートは呆れた様子でそう呟いた。

「女じゃなくて、私には『アリシア』って名前があるんだからそう呼んでよ!」

 アリシアはベッタリくっつきながらそうアネモガートにそう伝えた。
 アネモガートは不機嫌そうに、シッシッとジェスチャーをしながら言う。

「うるさい、耳元で騒ぐな。明日は早いから寝るぞ」

 アリシアは、もう少しお話しをしていたい雰囲気をだしている。
 アネモガートはそれを無視し野営の準備を始めた。
 
 焚き火の火を囲むように、二人は眠りについた。



_______

※ゲームマスター視点

 光を失っていた研究施設の巨大なコンピューターに先程、虹色の光が灯った。

「ついに……ついに戻ったぞ……。さぁ、早く目を覚ませ!」

 私の言葉に反応したかのように、コンピューターの光の点滅が激しくなった。

 そして、助手の一人が私に声を掛けてきた。

「マスター。イベントストーリークエストのことなんですが、少しお話しよろしいでしょうか?」

「手短にお願いします」

「はい。我々が用意していた、イベントストーリークエストとは違ったものが配信されているようでして……」

「違うものですか? 報酬などはどうなっているのですか?」

「報酬やメダルで交換できる物は変わらないのですが、全く別のものに入れ替わっていたものでして……」

「報酬が変わらないのであれば、ストーリークエストの内容は別のものでも構わないでしょ。そのままで大丈夫です」

「了解しました。失礼します」

 そして、巨大なコンピューターから懐かしい声が聞こえだす。
 
《お呼びですか、マイマスター》

「おぉ! 戻ってきたか! 前に言っていた物は用意した! 次はどうすればいい!?」

 私は現実世界から持ってきた、大量のUSBメモリと使わなくなった、ハードディスクなどの品を複数持ってきていた。

《答、そのアイテムは神への贈り物。私が預かっておきます》

 そのAIはそういうと、それらの商品を吸収した。

「これで、私の願いが神に届くといいのだが……」

《答、きっとマスターの気持ちは神に届くはずです》

「それは良かった。AIよ。私はこれから『人工恩寵』の作成実験の第二段階へと移行しようと思う。
 私はこの研究において失敗したくない。多少のリスクも背負うつもりです。何かいい案はありませんか?」

 私の問いにAIは答える。

《答、今の私では、力不足。エネルギーが足りません。エネルギーが充分に得られた時、マスターと私の力を合わせれば作成可能。しかし、かなり時間はかかると予想されます》

「エネルギー? どうすればそのエネルギーは貯まるんだ?」

《答、一度言った通り、大量の経験値が必要です。今の私では本来の十%の力も出せません》

 AIの問いに私は考えた。そして一つの答えを導き出した。

「ならば、最強のモンスターをつくりだし、プレイヤー全員をキルすればいい。今すぐにでも可能だ!」

《否、今のプレイヤーのレベル帯で、デスペナルティを与えたところで、経験値回収の効率は悪いです。もっとレベルを上げさせてから行動すべきと判断します》

「わ、分かった。育つまで待つとします。私は研究に戻ります。君と話していると、ますます分からなくなる。AI君は何者なのか?」

《答、私はただのAIです。私はマスターのお手伝いをさせて頂くのが使命です》

「ふっふっふ。そうですか。頼りにしていますね」

 私は、新しいプログラムの開発会議に出なければならないので、AIの元を後にした。

 
 開発会議を終え一息ついていると、ガルポンが私に話しかけてきた。

「マスターお疲れ様です。お茶です、どうぞ」

「ありがとうございます、頂きます」

「随分お疲れですね。たまには休まれたらどうですか?」

「労いのお言葉ありがとうございます。いえ、そういう訳にはいきません。少しずつですが、希望が見え始めたところです。今この手を止める訳にはいかないのです」

「そうですか。私たちもマスターに倒れられると困りますので、あまり無理せずですよ。
 なにかあれば仰って頂ければ、私たちも動きますよ。まだ、ペギポンやジャガポンもいますし」

「あぁ。頼りになるよ。現実で起こっている問題は我々でしか対処ができませんからね。一秒でも早く、完成させなければなりません」

「なるほど。『人工恩寵』ですね。それでなにをなさるのですか?」

「そうですね。ガルポンには話しておきましょう。恩寵は神からの贈り物と呼ばれています。
 その力はこの世界だけではなく、現実世界でも影響を与えると噂があります。健康に関する恩寵を作りだし、私の娘、『千優《ちひろ》』の病気を治すためです」

「ご病気の娘さんがいらっしゃるのですね。なんとしてでも人工恩寵を作りだしましょう。
 我々に出来ることがあればまたお申し付けください。では、失礼します」

 ガルポンはそういうと、自分の部屋へと帰って行った。
 私は、娘を救うために必ず、人工恩寵を作りださなければならない。
 悠長に座っていられない。この時にも、現実世界の娘は苦しんでいるだろう。
 千優は病気のせいで、現実では、ずっと寝たきりの状態で、あの子の可能性を……あの子の未来を……奪ってしまっている。
 待っていてくれ千優。必ず父さんがお前を救ってみせる!
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