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第三章 ギルド結闘編

第80話 導かれた運命

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※三人称

 一方その頃。とある国の王城にて。

「緊急連絡! 緊急連絡! 城内にて謎の獣人の襲撃を確認! 繰り返す! 城内にて謎の獣人の襲撃を確認! 直ちに撃退の準備を!」

 取り乱した口調でのアナウンスが城内に響き渡る。
 
 その黒い布のフードを被った獣人は、次々と警備隊を振り払っていく。

「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」

 一人の警備隊が獣人の前に立ち、拳銃を構える。
 
 獣人は止まる事なく、軽々とその警備隊を飛び越えた。

「くそっ! 姫様の部屋に向かっている! 姫様をお守りしろ!」

「くらえ!」

 別の警備隊が拳銃を発砲した。
 ヒラリとかわすと、奥へと進む。

 そして、獣人は一つの部屋を開けると、一人の女性と対峙した。
 その部屋の主は、この国のお姫様のものだった。
 女性は、光そのものを具現化したような美しい金髪で、胸の辺りまで伸びきった髪。
 全てを見通すようなトパーズ色の瞳の女性だった。
 その人は、誰もが美人と認めるであろう容姿をしている。
 
 お姫様は獣人を見るなり、冷静な態度で言葉を発する。

「あら、こんばんは。こんな夜遅くに私に用ですか?」

「お、お前を……連れ去りに……来た。俺と……き、来てもらう」

「あら。あなたが私を外の世界に連れて行ってくれるの?」

「そうだ。お、俺たちのアジトに……連れて行く」

 獣人の男は、吃った話し方をしており、あんまり喋る事に慣れていない様子。

「あんまり、睨みつけていては、皆に怖がられてしまいますよ? ほら、笑って? スマイルスマイルッ!」

 お姫様は笑顔で答えると、獣人の男は、呆れた声で言う。

「ふ、ふざけているのか? お前、自分の立場が分かっていないのか?」

「いーえ。ふざけていませんよ? ちゃーんっと、分かってますよ。お茶をお出ししますので、座ってて下さい」

「そんな事を…している時間はない。後にしろ」

 突如、バンッ! と、勢いよくドアを開ける音がすると、一人の警備隊が声を荒げながら言う。

「お嬢様! 失礼します! ご無事ですか!?」

 お姫様は真剣な表情になり、声色を変えて警備隊の男に言った。

「私なら大丈夫です。下がりなさい」

「で、ですが。姫様に何かあったら、王に顔向けできません……」

「大丈夫です。私はこの方とお話しをします。出ていきなさい」

「しょ、承知しました……。失礼します」

 警備隊が部屋を出ると、王女はふぅ。っと一息ついた。

「さて、邪魔者はいなくなったし、お茶でもしましょっ」

「お、お前……正気か……!?」

 その言葉に呆れた様子の獣人の男。
 お姫様は、微笑みながら、棚から花柄のティーカップを取り出し、自分で入れたお茶を差し出す。

「これどうぞ、お口に合うか分からないけど」

「いらん」

「毒なんか入れてないのにぃ」

 お姫様は入れたお茶を一口飲んで見せると。

「ほら、毒なんか入ってないでしょ? これを飲んでくれないと私は、ここから一歩も動きません!」

「毒ごときで……お、俺は死なん。これ以上……おおごとにしたくないだけだ。急いでここから出るぞ」

「だーかーらー! 飲んでくれたら動くって言ってるじゃない!」

「ちっ。強情なやつ……。飲めばいいんだろ……。アチッ!」

 獣人の男は猫舌なのか、熱さのあまりカップを落としてしまう。
 ティーカップはパリーン、と高い音をたてて、破片をあたりに散らした。
 
「あらあら、大丈夫? 怪我はない?」
「す、すまない! 俺は……猫舌でな」

 獣人の男は慌てて、破片を拾い辺りを見渡す。

「わ、悪い。床も汚してしまった……。拭くものあるか?」

 男の慌てる様子を見ると、お姫様は笑いながら言う。

「あははっ! 別にいいのにぃ! あなた、意外と律儀なんだね。面白ーい!」

「わ、笑うな! 用は済んだろ! 行くぞ!」

「いいよ! 私をどこに連れて行ってくれるの?」

「俺らのアジトって言っただろ! ボスがお前を待っている」

「あーはいはい。身代金でも要求するの? でも、せっかく外に出られるなら、洋服屋さんに行ってみたいなぁ? あ、船にも乗ってみたいかも!」

「金目的ではない。遊びに行くんじゃない。が、少しだけなら連れてってやる」

「わーい! やったー! じゃあ準備するね! これと、これも持っていって……っと。はい、連れて行って」

 お姫様は支度を終えると、獣人の男に身を委ねる。獣人の男はタジタジになりながらも、お姫様をお米様抱っこをする。
 そのまま男は部屋を飛び出し、長い廊下を突っ切る。
 警備隊が斬りかかろうとするも、お姫様を抱えているので、攻撃が止まる。

「くそっ! 姫様を放せ!」

 その警備隊の言葉にお姫様は、真剣な眼差しを見せ言う。

「私なら心配いりません! あなた方はお逃げなさい! それともう一つ。お父様方によろしくお伝えください」

「我々は諦めません! 風の力を身に纏い、気高き刃で敵を切り裂け! 『エアロカッター』!」

 一人の男が放った魔法を獣人の男は顔色ひとつ変えず、その荒々しい爪で魔法を切り裂いた。

「な、なんだと!?」
「そんなバカな!」

「邪魔だ! 失せろ!」

 警備隊を薙ぎ払っていると、次々と応援が集まり始め、獣人の男を囲い込んだ。

 警備隊の中から、後ろ手を組み、堂々とした立ち振る舞いをした、五十代くらいの中老の男性が姿を見せる。
 その中老の男性は、逞しい髭を触りながら獣人の男に声を掛ける。

「お主は完全に包囲された。逃げ場などない。直ちにアリシア姫を解放し、投降するならば命は保証しよう」

「断る。無理矢理にでも通ってやる」

「そうか。せっかく命だけは救ってやろうと思ったのだがな。わしの運動ついでに、少し相手をしてやろう。ほれ、かかってきなさい」

 中老の男性は腰に身につけていたレイピアを抜く。
 レイピアの先端を、はじくように撫でる。アリシアは中老の男性を確認すると、言葉を発した。

「あなたはゲッケイ大佐! なぜあなたがここに?」

「たまたま、こちらの近くを通りかかり、放送を聞きつけて駆けつけた次第ですアリシア姫。
 その薄汚い獣からお救いしますので、もうしばらくの辛抱を」

 アリシア姫は獣人の男の耳元で囁くように呟く。

「ねぇ。あの人は、ゲッケイ大佐って言って、王族を守護する部隊の人なんだけど、とても強いから気をつけてね」

「お前は、どっちの味方なんだ……。俺は悪者だぞ」

「なにをこそこそ話しておる。ほら、早くかかってこんか」

「耳を塞いで、しっかり掴まっておけ」

 ゲッケイ大佐の挑発に獣人の男は、大きく息を吸い込むと。

「え……? 分かったわ」

「『ビースト・ロアー』!!」

 回転しながら激しい咆哮攻撃で警備隊を蹴散らす。

「「うわぁああ!」」

 その隙をゲッケイ大佐は見逃さなかった。咆哮を避けながら、獣人の男に近づく。

「隙だらけで野蛮な技だ。見ていて不愉快だ。攻撃は美しく華麗におこなうものです。『スプリングスラスト』」

 レイピアの剣先をバネのように跳ねさせることで、連続攻撃を可能にしている。
 獣人の男は姫を庇いながら避けていくが、左頬にレイピアがかすった。
 かすった頬からは血がこぼれ落ちる。

「ちっ。鬱陶しいなぁ」

 そういいながら、血を拭き取った。

「これで最後です。お眠りなさい」

 ゲッケイ大佐の最後の一撃が襲いかかる。獣人の男はヒラリとかわし、鋭い爪でレイピアを弾き返した。

「お前……どういうつもりだ?」

「どういう……? なんのことでしょう」

 獣人の男の言葉にゲッケイ大佐はとぼけたように返した。

「大丈夫? ごめんね、私お荷物だよね」

 アリシアは心配そうに獣人の男を見つめた。

「大丈夫だ問題ない」

「さて、その余裕がいつまで持つかな?」

「ここは悪いが、ずらからせてもらう」

 獣人の男は、ゲッケイ大佐に猛スピードで近づくと。

「『獣燐拳じゅうりんけん』!!」

「うぉっ!?」

 連続で繰り出された拳は、ゲッケイ大佐を吹き飛ばした。
 すぐさま獣人の男は、開いていた高窓のドアに飛び移った。
 ゲッケイ大佐は立ち上がり、手を胸に当てながら、待て! と一言。言葉を発する。

「いい……一撃じゃった。わしの負けじゃぁ。最後にお主の名を聞いておきたい」

 男は月灯りに照らされながら、その名を名乗った。

「俺の名は……七魔帝王セブンスエンペラー……第七柱、『混沌獣人カオスビーストアネモガート』」

 ゲッケイ大佐はアネモガートを必要以上に睨みつけ言った。

「そうか、その名を覚えておこう」

 アネモガートはアリシアを抱えたまま、ドアからその姿を消した。
 
「待てー!! 姫様を返せー!」

 警備隊の人々がアネモガートを追いかけようとする。が、突然! 一人の警備隊が血を吹き出しながらその場に倒れた。

「「えっ!?」」

 突然の出来事で辺りの人は困惑した。そして、ゲッケイ大佐は血のついたレイピアを振り払い血振りをした。
 そして、ゲッケイ大佐が一言。

「さぁ、裏部隊よ。やりなさい」

 その一言で反応した者が三人。その三人は他の警備隊を次々と斬り殺していく。
 
 裏部隊の一人が言葉を発する。

「ゲッケイ大佐。良かったのですか? さすがに、バレるのでは?」

 ゲッケイ大佐はレイピアを研ぎながら言う。

「別に構わん。この者たちは、『アリシア姫を守ろうとし、獣人、アネモガートに殺された』と、いうことにすればいい。
 そして、他の警備隊より先に獣人とアリシア姫を探しだしなさい。出来ればアリシア姫は生きて捉えなさい。獣人は好きにしなさい」

「「了解です」」

「では、犠牲になった元同士たちに敬意を払い、敬礼。ーー彼らのお墓を作ってあげなさい」

「はっ!」

 敬礼を終えると、彼らのお墓を作り弔った。
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