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第三章 ギルド結闘編

第71話 無機質な彼女

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 彼女の言葉で新たな目標を決めた僕。

 その彼女は表情をあまりださず、話し方はどこか無機質さを感じた。でも、とても優しい人だ。

「ありがとうございます! とっても元気がでました。愚痴も聞いてもらってすみません」

「元気が出たならよかった。試験頑張ろうね」

「はい! お互い頑張りましょう!」

 僕たちは席に着くと、一人の男性が教室に入ってきた。

 その男性は試験官のようで、答案用紙を配り歩いた。

(本当に学校のテストみたい。なんだか緊張するな)

 試験会場では、不正を防ぐために、ゲームパッドの機能は全て使用ができない。

 そして時間になり、試験官の人が言葉を発した。

「終わった者は用紙を提出したら、退出して大丈夫です。時間は二十分です。
 合格発表はギルド会館にておこないますので、そちらでお待ちください。ーーでは、テストを始めてください」
  
 言い終わるとみんなは一斉に表に返し始めた。


 五分で問題を解いた僕は、彼女の名前を聞こうと思い少し待つ。

 まるでストーカーのような行為だ。だが、僕の心を救ってくれた人の名前くらい聞いておきたいものだ。

 少し待っていると、彼女がテストを提出したのを確認できた。
 僕も急いで提出し、教室を後にした彼女を追いかけた。

 ワープゲートの前にいた彼女に声をかけた。

「すみません。あの、お名前を聞いてもいいですか?」

 この空間では、ステータスが見れないので、彼女の名前が見れなかったのだ。

 すると、彼女は人差し指を顎に当て、少し溜めて言った。

「んーー。そうだなぁ。ーーうん。私はリコ。リコだよ」

「リコさんですね。改めてありがとうございました!」

「いえいえ。私は大したことしてないよ。それじゃあね、またねトワ君。この世界をお願いね」

「え? なんで僕の名前を? 名乗りましたっけ? それにこの世界をお願いって、どういう!?」

 不思議な感じのリコさんは言葉を言い残し、光に包まれて消えてしまった。

 僕の言葉は届かなかった。急いで僕もワープゲートに乗り、ギルド会館に転移した。

「待って!」

「え? なになに? 戻ってきたと思ったら、待って! ってなにぃ? ちょーうけるんですけどー? 痴漢でもしたのぉ?」

 タイミングが悪く、僕の『待って!』という言葉は、ワープした後に出てしまった。
 
 僕の目の前にいたのはハニポンだった。

「違うよ! それより、ハニポン! ここに黒髪で長髪の女性が来なかった?」

「そんな人来なかったよぉ? あー! 分かったぁ! 
 その子に痴漢して、言い訳をしようとしたけど逃げられた感じぃ? ビーヒャヒャヒャー! 笑いすぎて腹痛いわぁ!」

「違うわい!」

 僕はハニポンの頭に軽くはたくツッコミを入れた。

「いったーい! レディに暴力振るなんてさいてー!」

「僕の目にみえている範囲では、レディと呼べる人は見えないけどね。でも、来なかったのかぁ。遅かったかなぁ」

「何があったかは知らないけどぉ、何かあったのぉ?」

 僕は、試験会場での出来事をハニポンに話した。

「ビーヒャヒャーヒャー! 何それ! ちょーうけるぅぅ! あんたもう最高よぉ!」

「何がそんなに面白いんだよぉ! ハニポンに話した僕が馬鹿だったよ」

「ごめんってぇ。だってそれ、もう恋じゃーん! あーしそういう話し好きだよぉ! 
 で? その子にハンカチを借りてぇ? 優しい言葉をかけてもらってぇ……? ビーヒャヒャヒャー! ハァ。好きに、プププ。好きになったとぉ? ビーヒャヒャヒャー!」

 パシーン! と音が聞こえるほどの強さで、ハニポンを上からはたき落とした。

「ぎゃはん!」

 ハニポンは、変な声を出しながら地面に落ちていった。

「痛いんですけどぉ!? まあいいやぁ。んで、その子は可愛かったのぉ? プププー!」

「もう言わない!」
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