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第三章 ギルド結闘編
第52話 顕現せし魔獣
しおりを挟む親善試合を終えた僕たちは、エルフの里の長老の案内で、強化された魔物が出現するという、森に向かっていた。
思っていた通り、トゥビーさんは長老の娘だった。
突然と立ち止まり、長老が口を開く。
「ここから先が、オーラを纏った魔物が出現するスポットですじゃ。
ワシら年寄りはここまでしか見送りができん。力になれずにすまんが、頼んじゃぞ。若き人の子よ」
その言葉にリーフィスさんが返答する。
「はい、長老様。ご案内頂きありがとうございます。
私はお役に立てるかは分かりませんが、必ずエルフの皆様が安心して暮らせるようにいたします。どうかお気をつけてお帰り下さい」
「若いのにしっかりした子じゃな。ドリアード様が気にいるわけじゃ」
僕たちもお別れの挨拶を済ませ、その地に踏み込んだ。
僕たちの他に、先程戦ったトゥビーさん、アイヤさん、ウェーンさんの三人が着いてきてくれている。
そこは、たくさんの木に囲まれ、木漏れ日が降り注ぐ森の道。
長老の話によれば、先に進むと巨大な大木があるらしい。
とりあえずその大木を目指すことになった。
その大木に、普段はドリアード様が住んでいるみたい。最近はエルフの里に降りていることが多いみたいだけど……。
少し進んだ先に、周りに音符のようなオーラを纏った狼型の魔物がいた。
間違いない。あのオーラは、メロディアスのバフ効果のエフェクトだ。
レベルも26となかなか高い。しかも、ステータスが上昇しているので厄介だ。
僕は戦闘態勢を取り、みんなに声をかける。
「やはり、メロディアスのバフ効果が掛かっています。小さいからといって油断しないように戦いましょう」
ザーハックさんとウェーンさんは、『あんな小さい犬っころに負けるかよ』とボヤいていたが、周りの人に油断をしないように釘を刺されていた。
狼型の魔物を討伐した僕たちは奥へと進む。
他にもペリカン型の魔物や狸型の魔物などがいた。
ペリカン型の魔物にルナさんが連れ去られるなどのハプニングはあったが、無事に討伐に成功した。
色んな話をしながら僕たちは進む。
数分歩くと、ドリアード様が住んでいる大木まで辿り着いた。
木々から溢れる木漏れ日や風がとても気持ちいい。その大きさや自然の美しさに僕は心を奪われる。
みんなもその大木に釘付けのようだ。少し休み、周辺を捜索したが、メロディアスや魔物の姿はなかった。
帰ろうとした瞬間。突然、強風が僕たちを横切る。そして、聞き覚えのあるBGMが鳴り始めた。
(この音楽は……。ボス戦のBGM……? まさか……)
振り返るとそこには、木々と同じくらいの高さの鹿型の魔物。シンバルの形をした立派な角。
体の至る所にはたくさんの種類の楽器。
その姿を見た、ヒロさんは子どものようにはしゃいでいる。
「みんな! 見てみて! 【音奏魔獣メロディアス】だよ! すっごーーい!!! 画面で見てた頃より大きい!」
そんな、画面でとか言っても分からないでしょうに。でも確かに、実物を見るとかなりの大きさで、とても迫力がある。
それに、物凄いプレッシャーを感じる。
メロディアスのステータスを確認すると、レベルは30でHPは7800。攻撃力などのステータスは見れないみたいだ。
メロディアスの周りには、ステータスが上昇した魔物達がいる。
先にあれをどうにかしないとね。前奏が終わり、戦闘開始だ!
ゲームの頃と変わっていなければ、メロディアスの弱点や攻略方法は分かっている。これは大きなアドバンテージだ。
メロディアスの弱点属性は、火、水、氷、雷の四属性。初のボス戦。少しワクワクしている。
まずは、周りの魔物の駆除が最優先だな。僕はみんなに攻略方法と作戦を伝える。
「ジークさん、アイヤさん、トゥビーさん、ルナさんは、周りの魔物の討伐を。残りの人はメロディアスの部位破壊を狙って下さい」
「「「了解!!!」」」
ジークさんたちはエルフの人たちを連れて魔物の所へと向かった。
メロディアス戦で気をつけたいのは、角から放たれる強烈な衝撃波だ。
メロディアスの中で、一番威力のある攻撃で、命中すると怯み効果がある。
ザーハックさんがゆっくり僕に近づき声を掛けてきた。
「なぁ、坊主。この鹿になら火属性スキル使っていいだろう?」
「まあ、そうですね。ですがスキルは考えて使って下さいね。『驟雨灰燼《しゅううかいじん》』やフィナーレスキルなどの、広範囲で炎が散乱しないスキルならいいですよ」
それを聞いたザーハックさんは、やっと俺の出番がきたと笑顔を浮かべながら、真正面からメロディアスに突っ込んでいった。
それに続くようにウェーンさんも突っ込んでいく。あの二人は似た者同士だなぁ。と心で思った。
とりあえず、まずはあの厄介な楽器と角の部位破壊からだな。
メロディアスの目の前にたどり着いたザーハックさんは、スキルを放つ。
『燼滅紅牙!』
「きゅーーーん! ごぉぉぉ!」
メロディアスの甲高い鳴き声が辺りに鳴り響く。やはり、弱点の火属性の攻撃が効いているようだ。ダメージも大きい。
それに続き、ウェーンさんも斧でメロディアスの頭を強打させる。
そして、ヒロさんがニコニコしながら、こちらに近づいてきた。
「さすが、トワ君だね」
「何がですか?」
「いやぁ、ちゃんとみんなのこと見ているんだなぁって思ってね。
この配置もメロディアスにみんなが、苦戦しないためや、攻略しやすいように最適だよね。私には分かるんだからね」
「まあ、僕なりに考えた結果こうなりましたが、楽に攻略できるとは思っていませんよ。攻略に苦戦はつきもの。それに、攻略に正解はないと思います。
それに、簡単に攻略できたら面白くないですよ。色々な策を考えて、行動して、やっとの思いで攻略したときの喜びが僕は好きなんです。もちろんみんなとね」
「ふーん。色々考えているんだね。いつもありがとう。これからも頼りにしてるよ」
「ありがとうございます。急にそんなこと言われると照れますね」
いや、本当に照れる。でも、僕の配置の意図を理解しているのなら、さすがはヒロさんだよ。
確かにこの配置には意味がある。まあ、そんな事を言っている暇はないんだけどね。
メロディアスは前足を高くあげる。すると、頭上辺りから文字が現れた。
【防壁の音】
ボスとなると直前に使用するスキルが分かるようになっている。ゲームと同じ仕様みたいで良かった。
『防壁の音』は、一分間、メロディアスや味方の魔物の物理と魔法の防御力を20%上昇させ、被ダメージを10%軽減する効果を持つスキルだ。
同じスキルでも、魔物とプレイヤーでは威力や軽減率が違うものもある。
メロディアスの行動は、怒り時でなければ、バフスキルorデバフスキル→バフスキルorデバフスキル→攻撃の順番で行動する。
魔物たちは怒ると行動がランダムになる。
メロディアスは部位破壊をすると、スキルが50%の確率で不発に終わることがある。それを狙っていきたい。
最初はバフ効果とスキルを使ったから、もう一度、バフかデバフのスキルを使ってくるはずだ。
防御力が上がっているせいか、ザーハックさんたちの攻撃が弾かれるようになっている。
横にいたヒロさんが落ち着いた様子で聞いてきた。
「私はどうしたらいい? バフ消そうか?」
「消せるんですか? スキル取ったんですか?」
「うん。対象は一体のみなんだけどね。『リリース』を覚えたよ」
リリースは一体を対象にバフ効果を全て解除するアクティブスキル。
バフやデバフ、状態異常を消せるスキルは重宝される。
これらは、終盤でも必要になってくるスキルだ。さすがはヒロさんだ。頼りになる。
「ありがとうございます。メロディアスが攻撃する前に使ってもらったら助かります。ヒロさんなら分かりますよね?」
「うん! 分かってるよ! 私に任せなさい!」
再びメロディアスは鳴き声を響かせながら、前足を高くあげる。
【脱力の音】
メロディアスは体から生えている楽器で演奏し、僕たちの攻撃力をダウンさせる。
この調子じゃ攻撃力が下がり、与えるダメージが減ってしまい部位破壊がしにくくなる。
僕たちも攻撃を仕掛けるが、メロディアスたちの防御力は上がり、こちらの攻撃力は下がっている。
これで攻撃してもダメージは通りにくい。意外と賢いな。
これじゃあ戦闘が長引くだけだ。僕は叫ぶように言う。
「皆さん、あの鬱陶しいデバフは、楽器を破壊をすれば回数が少なくなります!
楽器の部位破壊を狙っていきましょう! 角の攻撃は気をつければ問題ないので」
ザーハックさんとウェーンさん、グーファーさん、ヒロさん、そして僕。この五人で背中の部位破壊を狙う。
トゥビーさんは魔法で角を狙ってもらうことにした。そして、メロディアスは攻撃態勢を取った。
【衝撃波】
首を大きく振り、シンバル型の角をバシーン! と鳴らす。前方にものすごい威力の衝撃波が走る。
走り去った衝撃波は地面は抉られ、広範囲に被害が出た。
これをまともに受けたら、体が消滅するかもしれないほどの威力。
ゲームの時とは迫力が全然違う。今では恐ろしいと思う。
メロディアスの攻撃を目の当たりにしたザーハックさんたちは固まってしまった。
考えたくはないけど、こんな衝撃波が当たったらと思うと怖いもんね。
激しい攻防が続き、僕はアイテムを駆使し、みんなのサポートをしながら攻撃に回った。そして……。
「キューーン!!!」
メロディアスの背中の部位破壊に成功したのだ!
これで、バフ効果やデバフ効果のスキルは不発に終わる可能性がでてきた。
そして、部位が破壊されたことによっての大ダウンを取れた。
メロディアスの大ダウンの方法は、後ろ脚に一定の蓄積ダメージを与えること。
背中の部位破壊と角の部位破壊の三種類だ。
理想は攻撃が来る前に破壊すること。今は、いい感じの流れがきている。
あとは、角の破壊を目指して戦況を有利にしていきたい。
そして、魔物の討伐をしていた、ジークさん達が戻ってきた。
「トワさん。辺りの魔物の討伐完了です」
「ありがとうございます。お疲れのところ申し訳ないのですが、まだメロディアス本体が残っています。
HPはあと半分くらいなので、協力お願いします」
「もちろん! ルナ、エルフの方たち。ここからが本番だ! 準備はいいな!」
「はい。もちろんですわ、お兄様」
「人間族が僕たちエルフに指図するなぁ!!!」
アイヤさんはまだ僕たちを信用してくれてないみたいだ。まあ、気を取り直して……。
メロディアスとの最終ラウンドだ!
応援ありがとうございます!
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