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第三章 ギルド結闘編
第44話 古びた謎の書記
しおりを挟むトロン王に呼び止められた僕たちは、同時に振り向く。
「どうかしましたか?」
僕が尋ねると、トロン王は申し訳なさそうに言った。
「何度も申し訳ない。ついでとなんだが、君たちの冒険に役立つか分からないが、これも受け取ってほしい」
王様から、古い巻物のような物を渡され、それを受け取る。
「開いてもいいですか?」
「あぁいいとも。それは、この城の地下にあった物なんだが、我々にはさっぱりでな。
ティアンが昔話の一部じゃないかと仮説を立てていたが、真実は分からん」
その巻物はとても古くボロボロで、紙の端などが酷く破れている。開いてみると、こう書いてあった。
『始まり』
【とある国に、四人の勇者がやってきた。その勇者たちは、暗黒の神を討伐するために集められたという。そして、それぞれのパーティを組んで旅に出た。暗黒の軍勢を討ち果たすために。そして、それぞれの願いを胸に刻んで】
紋章と四人の勇者ってのは分からないが、この世界で、暗黒の神といえば、『暗獄神エレボタロス』って事しか思いつかない。
暗黒の軍勢はエレボタロスの幹部の『七魔帝王』の事か、エレボタロス軍のことを指しているのかなと思う。
僕が見ていると、トロン王が不思議そうに尋ねてくる。
「トワ殿、何か分かるのかね?」
「まあ、暗黒の神ってエレボタロスのことじゃないかなぁっと思うくらいですかね」
「エレボタロス? 聞いたことがないが神様なのかい?」
「まあ、間違ってはいませんが。悪い神ですよ」
「そうか、怖いな、関わらないようにしないとだね」
「ですね。かなり手強いので念入りに準備をしないといけません」
エレボタロスの単語にヒロさんが反応する。
「エレボタロスかぁ。やっぱりいるんだ」
「まあここは、エタドリの世界なんですからいるでしょうね。一応ラスボスですし。
エレボタロスを倒したら、この世界からもログアウトができる希望も見えてくるかもしれませんし、倒す価値はあると思いますね」
すると、ヒロさんは顔を曇らせ下を向きながら、
「まあ……そうだよね。エレボタロスを倒せばね……。倒せるといいね」
ヒロさんの表情、態度といい、何か歯切れが悪い気がする。
この世界から出たくないのかな? 気持ちは分からなくもないが、まあここはあえて触れないでおこう。
そんな事を思いながら、トロン王にお礼を言い、アーティダル王国を後にした。
__________
ウガルンダへ帰る途中の森の道。低いテンションでヒロさんが僕に声を掛けてきた。
「ねぇ。トワ君。トワ君はこれからどうするの? エレボタロスを倒しにいくの?」
「んーー。そうですね。まずはアウラレードに行った時に、解放された『貿易機能』もやってみたいですね。
それに、商売もやってみたいなと思います。エレボタロスに関しては、僕一人じゃあどうしようもないですし、今は道鷹さんたちが動いてくれてるみたいですよ」
「商売かぁ、いいねぇ面白そう。へぇ、鷹君いるんだぁ。鷹君ならなんとかしてくれそうだね」
やっぱりなんか変だ。ルナさんたちと別れてしまってから、ずっと元気がない気がする。
僕の盛り上げ方が悪いのかもしれないけど……。
僕は盛り上げたりするのは苦手だからな。こんな調子がずっと続くと思うと、僕の方もどうにかなってしまいそうだ。
早くギルド結成の事も橘さんとの対決のことも言わなきゃならないんだけど、なかなか言い出せない。
「ヒロさんはこれからどうするんですか? その……ギ、ギ、えっと、何か考えているんですか?」
言い出せなかった……。やっぱり都合が良すぎるよなぁ。僕の意気地なし……。
「私は特に考えてなかったな。ルナちゃんたちの笑顔を守りたい、国を救ってあげたい一心だったし。
それがなくなったら、私は何したらいいんだろうってね。だから、分かんない」
「そうなんですね。またいつか会えますよ」
まあそんな反応になりますよねぇ。仕方ないよなぁ、最後会えなかったもんね……。
早くいつものヒロさんに戻ってほしいよぉ。
こんな調子のまま僕たちは、ウガルンダに向かったのであった。
__________
ウガルンダに到着した僕とヒロさん。周りを見渡しても誰もいない。
日が暮れているにしても、こんな状況は初めてだ。人の気配もない。
とりあえず、メルさんに報告しようと思いギルド会館へと向かおうと思い、ヒロさんに尋ねる。
「誰もいないんですかね? 人の気配も感じませんし。報告もしなきゃなので、ギルド会館に向かいますね」
「うん、いいよ」
んーーやりづらい!
ギルド会館に着いたのだが、電気も外の灯りも消えている。
夕方頃から、会館前の灯りは付けるはずなんだが……。イベントなどを掲載する看板も仕舞われている。何かあったのか?
そういえば、ジークさんがウガルンダに攻めてくるのも時間の問題だと言っていた気がする。
その人たちが、ウガルンダに来てしまったと思うと恐ろしい。
それでみんなが隠れてしまったのか、どこかに連れて行かれてしまったのか。最悪な展開が頭によぎる。
全員は倒せてなかったと思うし、教会から復活した組がいても不思議じゃない。
あれから、数日も経っているし。紅葉あたりが他のプレイヤーを募ってやりそうなことだ。
ずっとそんな事を一人で考えていた。すると、ヒロさんが、
「トワ君どうしたの? 入らないの?」
「入りたいんですが、変だと思いませんか? 人の気配もないし、商店街にも人がいなかった。
あそこに人がいないってありえますかね? 教会から復活した紅葉辺りが何か悪い事をしている可能性もあります」
「まあ、いつ教会に行ったのかは知らないしどれだけ死亡しているのかは分かんないけど、三回くらいだったら数時間で復活はできるよね。でも、あの人そんなことする人なの?」
そっか、ヒロさんは紅葉の悪行を知らないのか。まあ、仕方ないか。一応、僕たちに何があったのか、紅葉が何をしたのかを伝えた。
「色々あったんだ。大変だったね。そこで橘さんにあったんだ。そんな事があったなら、心配になるね」
「とりあえず、何があるのか分からないので、気を引き締めていきましょう。開けますね」
僕は、心を落ち着かせながらドアノブに手を伸ばした。
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