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第二章 王国奪還編

第40話 決着!そして…

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「はぁ……はぁ。いててぇ、体のあちこちが痛いなぁ。……ふぅ」

 背後からたくさんの足音が聞こえてくる。

「大丈夫か坊主! やったか!?」

 ザーハックさん、それは生存フラグです。

 煙が晴れると、そこにはドミニデスが倒れていた。あれ? 計算間違えたか? 

 すると、グーファーさんが申し訳なさそうに言う。

「すみません、ドミニデスに『傷悪』を使われまして、 HPを回復されていました」

「そうだったのですね。すみません。攻撃する前に、ドミニデスの残りHPの確認を怠った僕のせいです。では、とどめといきます」

 倒れていたドミニデスには、『支配の恩寵』の黒いモヤモヤが消えていた。今がチャンスかと思い剣を振り上げ、

「人数差はかなりあったはずなのに苦労した強敵でした。せこくてすみません。
 次に戦う機会があれば正々堂々戦いましょう。その時には僕も強くなってみせます。では!」

 武器を振り下ろそうとすると、突然。

「トワ君待って!」

「え!?」

 声の主はドミニデスを庇うように、僕の目の前に立ちはだかった。

 そこに立っていたのはヒロさんだった。

「えぇっ!? ヒロさん!? もう大丈夫なんですか? それに、どうしてドミニデスを庇うのですか? もしかして、操られているんですか?」

「操られてないよ? 体の方は寝てたから大丈夫! みんなが大変な時に何もできなくてごめんね。
 でもね、元々のドミニデスはそこまで悪い人じゃないの! ドミニデスは『支配の恩寵』に操られていたの! だから、とどめはささないであげて!」

 ザーハックさんやリーフィスさんも、どうして? というような顔をしている。

 突然そんな事を言われてもな。頭の整理がつかない。

 こんなことまでしといて根は悪い人じゃないから、とどめをささないでと言われても、みんな納得するわけがない。

 僕が直接なにかされた訳ではないが、にわかには信じられない。申し訳ないけど。

 この国の当事者の、ジークさんやルナさんが今いないから、僕に判断は難しいし。

 よし、ここは、大人の人に任せよう!

「橘さん、どうしましょうか? ヒロさんは操られているようには見えませんが」

「僕が判断する事でもないけどね。僕たちは言ってしまえばこの国の部外者。
 許すも許さないもこの国の人たち次第でしょう」

 そういうと、橘さんはヒロさんの方を向き続けた。

「さっきトワ君が聞いてましたが、どうしてドミニデスを守ろうとするのですか? あなたからしたら、お友達の憎き相手でしょうに」

「えっと、あなたは橘さん? でしたっけ? 私もルナちゃんたちを傷つけたことは怒っているし許せないけど、ドミニデスは本当は優しい人なの。暴走してしまった元凶は他にいるの!」

「はい、橘です。覚えて頂き光栄です。それで、元凶というのは?」

「ドミニデスと話をしてた時に出てきた、鎧の男が黒幕なんだと思う! その男がドミニデスに『支配の恩寵』を与えて精神を狂わせたの。
 多分、ラタン村の事だと思うけど、焼き尽くしたのもその鎧の男! ドミニデスは鎧の男にはめられたんだよ!」

「鎧の男ですか。そんな男の事は聞いた事はありませんね。ラタン村を焼き尽くしたのは、プレイヤーの仕業と聞いていましたが……。あとで、オボロンたちにはかせるとしましょう」

 ヒロさんは必死にみんなに訴える。

「支配の恩寵のせいで暴走してしまって、みんなを傷つけてしまった。
 それで後戻りができなくなってずっと後悔していたの。暴走する前にこの国を返そうって言ってくれたし、改心してくれたように見えたんだ。だからみんなにも分かってほしい」

 その話を聞いて、橘さんはゆっくりと口を開いた。

「そうですか。わかりました。では、僕はヒロさんを信じるとしましょう」

「な!? 信じるのか?」

「えぇ……」

 ザーハックさんやリーフィスさんも驚いた表情を浮かべる。
 他の人が納得するとは思えないけど。

「橘さんありがとう!」

 僕は何も見ていないから何も分からない。こんな大事な場面の判断ができるような大人でもない。僕は口を開く。

「ドミニデスが演技で、嘘を言っている可能性だってありますよ? 
 ヒロさんを疑う訳ではないのですが。信用していいのかどうか……。他の人もそれで納得できるんですか?」

 僕の言葉に橘さんは、

「まあ、納得できないでしょうね。とりあえず本人が目を覚ますのと、王様辺りが来るのを待ちましょう。僕はそれより、鎧の男が気になります」

「まあそうですね。ジークさんたちもいないし。それにしても、鎧の男が『恩寵』を与えたとすると、まだ裏がありそうですね。目的までは分かりませんが」
 
 そんな事を言っていると、ドミニデスが目を覚ましたようだ。

「う、うぅ、俺はここで何を?」

「あ! ドミニデス! 目が覚めたのね! 意識ある?」

「お前は……ヒロだったな。あぁ、今は大丈夫だ。……また俺はやってしまったんだな」

「うん。大丈夫。操られていたとしても、ちゃんと反省して、みんなに謝ろう? 
 村も国も復興して、みんなに信用してもらえるようになろ?」

「だ、だが、許してもらえないだろう。また別の人を巻き込んでしまっているようだし」

「そんなこと言っちゃだめ! 許してもらえないから謝らないなんてことはダメだよ! 
 悪いことした自覚があるんだったら謝ること! 大事なのは気持ちだよ!」

 ヒロさんとドミニデスの会話が息子を想う母親のようだ。

 先程まで、『俺が支配~』だとか、『くくく、面白いな』とか言ってた人物が、今ではこんな態度なんて……。

 ちょっとギャップが凄すぎて面白い。みんなも少し引いている。

「すみません、遅れました。どうなったんですか?」

「気絶していましたわ。大変失礼しました」

 ルナさんとグーファーさんが眠っているジークさんを連れてやってきた。

 僕は、今までの出来事を説明した。二人とも、まあヒロさんが言うなら……程度だった。

 おかしいのは僕の方だったのか? ドミニデスは立ち上がり、

「謝って許される行為ではないが、たくさんの人々に迷惑をかけてしまった。すまなかった」

「すまなかったじゃなくて、ごめんなさいでしょ!」

「ご、ごめんなさい」

 その場からはみんなの笑い声が響く。まあみんながいいならいいんだけどね。

 こうして、王国奪還作戦は成功に終えた。

 僕たちは避難していた人々を案内し、何箇所かに分けて集めることに成功した。

 そこには、初めましてだったが、トロン国王やティアン王妃、そしてユナちゃんの姿があった。挨拶を交わしたのちみんなに事情を説明して回った。
 
 この国の人々は穏やかなのか、お人好しがすぎるのか分からないが、いつも通りの生活に戻れるなら文句はないそうだ。

 今日は遅いので、明日からアーティダル王国やラタン村の復興をする事を決めた。もちろん、ドミニデスたちもね。

 遅れて、アルダー王が兵士を従えてやってきた。もう戦いは終わったので、アルダー王たちは復興を手伝ってくれることになった。
 
 それぞれの家に帰っていく。家がなくなったものは、トロン国王の好意で城に泊まれることになった。
 
 僕たちも泊まっていいと言われたのでお言葉に甘える事にした。

 みんなで食事をしたりお風呂に入ったりした。僕たちはクタクタになり、すぐに寝てしまった。

________

※三人称

 ドミニデスが敗れ、王国奪還作戦が成功した頃。

 森の奥で静かに見つめる二つの影あり。

 一人は銀色と金色が混ざり合った鎧を被った大男。

 もう一人は人の形をしておらず、七色に光る異形の生物。

 敗れたドミニデスを確認すると、鎧の男が話を始める。

「せっかく『支配の恩寵』を与えてやったというのに、あんな雑魚共に負けておる。
 やはり、プレイヤーの中から、新しい『七魔帝王』を探すのは無理だったかの~。
 いい線いっとると思ったんじゃがな。七魔帝王を探すのも楽じゃないの」

 大男の話に、七色に光る異形の者が反応する。

《問一、何故あなたが新しい七魔帝王を探しているのですか? 問二、そもそも、何故新しい七魔帝王を探す必要があるのですか?》

「うむ、よくぞ聞いてくれた。相変わらず質問の内容がほとんど一緒じゃな。
 まずは、問二の質問に答えよう。七人いた、七魔帝王は今、四人しかおらん。
 だから、七人になるように探さなきゃならん。問一の答えは、わしが、七魔帝王を三人殺したからじゃ。
 その責任でエレボタロスから、探してこいと言われたんじゃよ。可哀想なわし。泣けてくるぞよ」

《否、それは自業自得では? 問三、何故殺したのですか?》

「手厳ししいのぉ。ほれ、簡単な話じゃ、わしに逆らったからに決まっとろう。
 実力の差を見せてやろうと、すこーし相手してやったら死んでもうたんじゃ。
 そこでじゃ、少し前に死んでも時間が経てば蘇る、プレイヤーというのが現れたじゃろ? 
 そのプレイヤーは七魔帝王として役に立つか、ふさわしいか実験してたんじゃよ」

《理解。プレイヤーはレベルを上げ、沢山のスキルや強い装備をさせないと役に立たない哀しい生物。あなた、見る目がない》

「そう、ストレートに言われるとのぉ。お主はプレイヤーに詳しいのぉ。あいつが実験体第一号じゃったんがな。
 そう簡単に負けるやつはいらんがな。もう少し粘ってはみるかの。では、支配の恩寵は返してもらおうかの」

 男は右手を天に掲げると、禍々しいオーラを纏った紫色をした宝玉のようなものが上空から舞い降りてきた。そして、再び男が口を開く。

「そこで、お主に相談じゃ。他の実験に使いたいから別の恩寵をわしに売ってくれんか? あ、なんなら、わし用の恩寵をくれてもいいんじゃよ?」

《否、哀しきあなたにはもう少し働いてもらう。実験のためなら渡す。
 私の願い叶えるため、あなたは働く。あなたの実験及び願いのため、私は力貸す。これも愚かで哀しき人々のせい》

「よく分からんが分かった。もう少し頑張るとしようぞ。……確か前は、人々に復讐だとか、怒りが収まらんとか言ってたのにのぉ。
 毎回、違う人と会っているよう感覚。困ったもんじゃ。んで、次はどうすればいいんじゃ?」

《答、今回で色んなデータが取れた。とても満足。いい加減にマスターの所に戻らないと怪しまれる。
 少し休む。約束の品と実験の恩寵だ。受け取れ。問四、あなたはこれからどうする?》

「おぉ! 助かりますぞぉ! わしはまた新しい仲間を探しに行く! 旅にでながら、エレボタロスが完全復活する前に消し去る方法を探すのじゃ。
 まあ次の手は打ってある。お互いこれからが楽しみじゃな。また会おう」

《了》

 大男は持っていた短剣で空を切り裂くと、その場の時空が歪む。
 そこにできた謎の空間から姿を消す。

 七色に光る異形の者は、テレポートで一瞬で姿を消した。

 二人の怪しい会話が終わった。ドミニデスを倒し王国を取り戻し、安心しきっているトワたちだが、新たな敵が姿を現すのであった。
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