29 / 101
第二章 王国奪還編
第29話 恋のライバル!?
しおりを挟む紅葉さんが消滅したのを確認した僕たち。
いよいよ、ドミニデス帝国と直接対決だ。
「よし、もう大丈夫です。リーフィス王女、お膝ありがとうございました。おかげさまで落ち着きました」
子どものように泣きじゃくっていた、ジークさんが泣き止んだようだ。
それを見たリーフィス王女は、安堵の表情を浮かべ、
「どういたしまして。ジーク様もありがとうございました」
「では、改めてご挨拶を。初めまして、ジーク王子。僕は橘と申します。以後お見知り置きを」
橘さんは軽く会釈をし挨拶する。ジークさんも返すように、
「初めまして、アーティダル王国のジーク・アーティダルです。
橘さんに助けて頂いたみたいで。ありがとうございます! この御恩は忘れません! 必ず報いて見せます」
「別に構いませんよ。たまたま通りかかっただけです。それに、トワ君とギルド対抗戦の約束もできましたし、楽しみが増えました」
「ギルド対抗戦、少し興味がありますね。橘さんと戦えるのであれば、手合わせ願いたいです」
リーフィス王女は立ち上がり、橘さんの方へ近づき、
「改めまして、助けて頂きありがとうございます。
感謝の気持ちでいっぱいです。橘様は何か欲しい物はありませんか? 私にできることがありましたら、お役に立ちたいです」
「欲しい物ですか。そうですねぇ。んー。……今は思いつきませんね」
リーフィス王女はもじもじしながら、
「そうですか、何かありましたら何でも仰って下さいね。用意させて頂きますね。
あと、……橘様は年下女性は……その……恋愛対象になりますか? きゃっ! 言っちゃった!」
そのリーフィス王女の言葉に、ジークさんが反応しない訳がなかった。
「リ、リーフィス王女!? それはどういった意味でしょうか!? もしかして、橘さんの事が……」
「うふふ。惚れましたわ」
「がぁぁあ。あぁぁぁ。そ……そんなぁ」
ジークさんは、この世の終わりのような顔をして、固まってしまった。
早く想いを伝えないと取られてしまうぞ!
橘さんは、顔をにんまりしながら、
「ありがたき幸せ。年下女性ですか。
もちろん、恋愛対象になりますよ。とくにリーフィス王女のようなお美しい方なら特に」
橘さんは絶対ジークさんの気持ちを知りながら、わざと言ったな。
橘さんの性格の悪さが滲み出ている。橘さんはジークさんの方を向き、勝ち誇ったように鼻で笑ってみせた。
「本当ですか。橘さんに振り向いてもらえるよう、私、頑張りますね」
「トワさん。橘さんとギルド対抗戦をする時は、絶対に俺も呼んでくれ! フルボッコにしてやるぅ!!!」
ジークさん危うし。僕はジークさんを応援しようと思う。
「分かりました。絶対に勝ちましょうね。二つの意味で」
すると、奥の方からボロボロの姿のアルダー王が話しかけてきた。
「皆のもの、力になれずすまなかった。俺もまだまだ未熟だった。それで今はどういった状況かな?」
「では、僭越ながらこの橘が説明させて頂きます。まず、先程の者は隣にいる、トワ君が倒しました」
「え? 僕はトドメだけですよ。美味しいところを頂いただけです」
「おぉ。あの者を倒したのか! 礼を言う。次はドミニデスという男だけか」
橘さんは続ける。
「左様でございます。そして今から、動ける者でドミニデスを倒しに行こうと思います。
ドミニデスの側近が残り三人います。三人とも手練れでございますので、人数は多い方がよろしいかと」
「うむ、なら、ジーク殿に頼まれていた事もあるし、我々の群も力を貸そう。俺も少し休んだらそちらに向かう。先に向かっててくれ」
「ご理解頂き光栄です。では、参りましょう」
リーフィス王女は張り詰めた声で言う。
「父上、私も一緒に行ってもよろしいですか?」
アルダー王は頬に手を当て、弱った顔を見せる。少し悩んだあと言葉にした。
「気持ちは分かるが、リーフィスでは経験不足だろう。橘殿の足を引っ張ることになる」
「僕は構いませんよ。ドミニデスと戦うのは僕とトワ君でやればいいので、問題ないでしょう」
「そうか。橘殿がそう言うのであれば構わんが。リーフィス。くれぐれも無理はするなよ」
「はい、父上! ありがとうございます」
その言葉に勢いよく声を上げた者がいた。そう、ジークさんだ。
「俺も行きます! リーフィス王女は俺が……。俺が……。次こそは守って見せます!」
「う、うむ、ジーク殿も頼んだぞ。では、橘殿、トワ殿、アーティダル王国を頼みましたぞ」
「はい!」
「えぇ」
___________
話が終わり、城内から出た僕たちは、ドミニデス帝国に向けて、出発しようとしていた。
「ここからだと、ドミニデス帝国はどのくらい時間かかるんですか?」
僕の質問にジークさんが答えてくれた。
「俺が近道を知っているので、そこから行きましょう。普通は一時間くらいかかるんですが、四十分くらいで着きます」
すると、橘さんは鼻で笑い、
「僕のルートだと二十分で着きます。四十分もかけられません」
「そんな、ありえない! 片道四十分でも十分早いのに、二十分で着くなんておかしい!」
「まあ、任せて下さい。こういうのは得意なんです」
「二人ともありがとうございます。早く着く方がいいですね。お願いします」
歩いて片道、四十分かかると言っているのに、二十分で着く方法なんてあるのだろうか。
橘さんは大人なので何かいい考えがあるに違いない。そう思っていると、
「『グランドウェーブ』」
スキルの『グランドウェーブ』を使い、全長三メートルくらいの箱型の泥を作り出す。
持っていた大剣を使って器用に削り始めた。
二、三分待っていると、泥と土で作られた、戦車のような車が完成した。
「かっこいいですね! でも、これ動くんですか? 材料って砂と泥ですよね?」
「動きますよ。時間があれば、アイテムを使ってエンジンとか組み込むのですが、時間があまり残されてないので、今回はこんなものでいいでしょう。僕が動かすので気にしないでください」
「分かりました。お願いします」
ジークさんとリーフィス王女は出来上がった車を見て、驚いた表情を見せた。
「こんなの、初めて見ました。さすがは橘様です。頼りになります」
「この泥の……」
ジークさんが話そうとすると、橘さんはそれを遮り、
「では、みなさん乗り込んで下さい。トワ君、アーティダル王国を取り戻したら、僕たちと本気のギルド対抗戦ですよ? 忘れないで下さいね?」
「はい、もちろんです。次は負けません。まずはギルドを作る所からですね」
「約束です。では乗り込んで下さい。食事などは用意してありますので決戦の前にどうぞ」
「「ありがとうございます」」
僕は泥戦車に乗り込もうとすると、
《今の……なら、この……を使えるはずです……。きっと。この……で……を救って。……を信じて》
僕の脳内に謎の人物の言葉が響く。
(まただ。やっぱりこの前のも気のせいじゃなかったんだ。一体誰が)
「トワさん? どうかしました?」
「はい? すみませんジークさん、何か言いました?」
「いや? 急にボーッとしてたから……。大丈夫ならいいのだけど。無理はしないでほしい」
「はい、すみません、ありがとうございます」
僕たちは泥戦車に乗り込んだ。
「では、出発しましょう。少々荒い運転になりますので、気をつけて下さいね」
橘さんは、スキルを使用して泥戦車を動かす。
最初は遅かったのだが、どんどん加速していき、三十秒も経つとものすごいスピードになった。
橘さん以外の三人は泥戦車の内部で激しくぶつかり合った。
「いたたぁ! どこが少々荒い運転ですか! どこを走っているんですか!?」
すると、橘さんは涼しい顔をしながら言った。
「どこって、森の中を突っ切っています。この方が早いので」
「まじですか……」
こんな調子でドミニデス帝国に向かうのだった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる