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第二章 王国奪還編

第25話 悲痛な叫び

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 ※残酷な描写あり

 光が晴れ爆風が収まると、床は焼き焦げていた。

 紅葉さんが投げたのは爆弾だったようだ。

 アルダー王とリーフィス王女は無事なんだろうか。先に声をあげ、近づいたのはジークさんだった。

「リーフィス王女! アルダー国王! ご無事ですか!?」

「父上! 父上! しっかりしてください! 父上ーー!! 私が近づかなければ……こんなことには……すみません、父上。私のせいで」

「……うぅ。リー……フィス……大丈夫……か? 突き飛ばしてすまな……かった……。
 気にするな。お前が無事なら……そ、それでいい」

「がーはっはっはー! やっぱりな! 自分の娘は可愛いよなぁ! これがお前の最大の弱点だ! 思った通りに物事が進むと気持ちがいいぜ!」

 なんて性格の悪さだ。僕はゲームパッドから回復薬を取り出しながら近づく。

「アルダー王! 酷い怪我だ。意識をしっかり持ってください」

「ジークさん! これをアルダー王とリーフィスさんに飲ませてください。
 回復アイテムです。飲ませたら、安全なところまで避難してください」

 回復薬をジークさんに二本渡し、剣を構える。

「トワさん。ありがとう! 恩に切るよ!
 安全な場所に移動させたら俺も戻る!  ーーアルダー王。これを飲んでください」

 アルダー王に、回復薬を飲ませたのを確認すると、紅葉さんは再び挑発する態度を取った。

「橘になにもできなかった、ガキに今更何ができる! 実はもう一個爆弾はあるんだぜ? 
 次はアーティダル王国の王子も纏めてぶち込んでやるぜ! あ! 今はドミニデス帝国だったな! 元! アーティダル王国だな! がっははは」

 こんなに人に怒りを覚えたのは久しぶりだ。

 だが、怒った時ほど、冷静にならないといけない。昔やらかした時から肝に銘じている。

 怒ったり焦っている時、人は冷静さを失い判断力が鈍る。

「許せない。僕が相手だ!」

「別に許してくれなくていいさ。さて、HPの回復も済ませたところだし、ガキの相手でもしてやるか」

「プリセット変更! プリセットNoナンバー.3!」

 僕はそう叫ぶと、プリセット3に登録していた、装備に変わる。


名前 TOWA レベル19
職業 ナイト 

装備枠1
武器 黒曜の剣
頭 黒曜の兜
体 黒曜の鎧
脚 黒曜の重靴
装飾品 魔法使いの指輪

 自分がMPを消費する時、消費量を少し減らす。

ステータス

HP 2600
MP 220
物攻 380
物防 410+10
魔攻 200
魔防 310
素早さ 110
次のレベルまであと2100

パッシブスキル

 物理ダメージ軽減Lv3
 物理ダメージを受ける時ダメージを10%軽減する。

 熱耐性Lv3
 火属性耐性が7上がる。さらに、かなりの寒さを凌ぐことができる。

 物理防御上昇Lv2 
 物理防御力が10上昇する。

 黒曜の守りLv4
 火属性の被ダメージを10%軽減し、受けたダメージに応じて自分のMPを回復する。

「これが今の僕の全力のステータスです。紅葉さんには劣りますが、少しはましになったかと思いますよ」

「ステータスだけわ……な。それに装備を強化する事とスキルの事は理解しているようだな。少しは楽しめそうだ。いくぞ!」

 黒曜シリーズ。初心者にオススメの装備の一つだ。

 ゲームの世界では採掘を行う事で手に入る、鉱石などを使用し作成できるものだ。

 見た目はゴツゴツした黒い鎧である。端の方に赤い線があり、少し熱を帯びている。

 とりあえずデスペナルティを受けることを減らすために防御面にステータスを振ってみた。

 フルダイブで装備してよく分かるのだが、ゴツゴツしてて動きにくい。

 それにちゃんと重さもある。デメリットとしては重いので素早さが下がってしまうことくらいかな。

 僕一人では紅葉さんを倒せるとは思えない。ジークさんがこちらに来るまでの時間稼ぎをするつもりだ。

「一応、ゲームは好きですからね。そんな基本なところは抑えてるつもりです」

 アクティブスキルは何一つ取っていないので、攻撃スキルなどは使えないけども。

 紅葉さんは物理で火属性攻撃を好んで使う。なので、黒曜シリーズとの相性はいい。

 紅葉さんは剣を構えながらこちらに走ってくる。

 ゲームパッドからアイテム、『閃光石フラッシュストーン』を取り出す。

 閃光石は強い衝撃を与えることで強烈な光を放つ目眩しアイテムだ。

「さぁ! この俺の攻撃をいつまで耐えられるかな? 『炎刃フレイムブレイド!』くらえぇぇ!」

 剣から鋭い炎の刃が現れる。紅葉さんとの距離は大体三メートル。
 技を仕掛けるにはまだ遠い。もう少し引きつけよう。

 二メートル、一メートル、よし! 今だ!

 先程手にしていた、閃光石を紅葉さんの足元に叩きつける。叩きつけられた閃光石は白い光を放つ!

 僕は、目を腕で押さえる。

「うわっ、、!? 眩しいぃ。アイテムなんて卑怯だぞ! 正々堂々戦えよ!」

「爆弾を使った紅葉さんには言われたくないです。すみませんね、僕は元々卑怯者なので。どんな手を使ってでも勝ちたいんですよ」

 紅葉さんの視力が回復する前に僕は、背後に回り込み切り裂く。

「ぐっっ? くそがぁぁ!」

 視力が戻っていない、紅葉さんは後ろを振り向き適当に剣を振り回す。

 何も見えてない状態で背後から攻撃されたらそういった行動するしかない。だからよみやすい。

 僕は紅葉さんの背後をとり剣を突き刺すが、鎧が硬くて貫通しなかった。

 だが、ダメージはある。物理攻撃が当たらないのであれば、紅葉さんが次に繰り出す攻撃は……『爆炎熱波』だろう。

 僕はゲームパッドから自分のMPを消費して攻撃できるアイテム、『魔力放出砲マジックキャノン』を取り出し、右手に装備する。

「くそぉ。ちょこまかとぉ。『爆炎熱波』!』

 やはりな。そうくると思っていた。迫り来る炎の中、『魔力放出砲』のスイッチを押す。

 すると、僕のMPがどんどん減っていく。このアイテムは、消費するMPが多いほど、相手に与えるダメージが大きくなる。

 この攻撃は自分の攻撃力や相手の防御力に関係なくダメージを与える。固定ダメージに近い仕様だ。

「マジック・パワー・ディスチャージ!」

 『魔力放出砲」の穴から紫色の光が溢れ出す。

「何をするつもりだ!? スキルもろくに使えねーガキに何ができるって言うんだ!」

「スキルを習得しなくても、レベルが低くても、工夫すれば戦えるんですよ。
 まあ臆病者だとか卑怯者だとか言われますけどね。では、いきます」

 炎がこちらに近づいてくるのを確認し。

「ファイヤーーーーーー!!!」

 紫色の一筋の光が紅葉さんに発射した。

 僕は『爆炎熱波』のダメージを受ける。僕はそれを狙っていたのだ。

 パッシブスキル『黒曜の守り』の効果で僕は、火属性のダメージを10%軽減しつつ、受けたダメージに応じてMPを回復できる。

 『魔力放出砲』を放ちながらMPを回復する事ができる。使用中は、回復したMP分もエネルギーに変わるので、与えるダメージが増えるのだ。

「やっと目が見えてきた。な、なんだこれは!? ぐわぁぁぁっっ!?」

 魔力放出砲は見事、紅葉さんに命中した。

 まあ僕の職業はナイトでMPは低い方なのでダメージは期待はできないのだが。魔力放出砲は、使い捨てアイテムなので壊れてしまった。

「トワさん! 凄い爆発でしたね。大丈夫か!? あ、あれ? トワさんがやったのか?」

「そうですよ。まあ、アイテムの力ですが。
 今の僕はスキルがないので、アイテムを使わないとろくに戦えないんですよ。
 アルダー王とリーフィス王女はご無事ですか?」

「はい。トワさんから頂いた回復薬が効いたみたいだ。
 まだ戦えるほどではないけど」

 その言葉を聞いて僕は間に合って良かったと安堵した。

「命に別状がなければ良かったです。今の攻撃でも倒せてはないと思うので二人で戦いましょう」

「えぇ、やってやりましょう」

「い、いてぇなぁ。なんなんだいまのは。光が見えたと思ったら爆発しやがった。HPを回復してて良かったぜ」

 ジークさんは、紅葉さんの姿を見るとすぐに、槍を構え走り出す。

「 お前は許さない。俺が倒す! 『ウィンド・ダッシュ』!」

 ジークさんの踵《かかと》から、小さな風が吹き加速する。王国に着く前に使用していたスキルだ。

 一瞬のうちに、紅葉さんの背後に回り込むと、ジークさんは、加速した状態で回し蹴りをする。

「ガハッ! くっ。次から次へとっ!」

 蹴り飛んだ紅葉さんをジークさんはスキルを巧みに使いこなし、サッカーボールのように蹴りまくる。

「ぐぁぁあっっ!!!」

 上に蹴り飛ばすと、ジークさんはスキルを使った。

「『ドラゴンスピア』!」

 ジークさんの槍の先から赤い竜の顔と首が現れる。

 その竜は咆哮を上げながら紅葉さんを地面に強く叩きつけた。

 紅葉さんのHPを確認するが、レベル差と装備の差があるので、まだ三割くらい残っている。

「なんで、お前たちはこんな酷いことができるんだ! 俺たちが何をしたって言うんだ!」

 ジークさんが感情を込め訴える。悲しみや怒りが入り混じっているように僕は感じた。
 
「俺が知るかぁ! くそぉ。HPを回復しても疲れも痛みも取れねーか。
 しかも、二対一だろ? 俺に勝ち目はねーよ。悪かった。俺の負けだ。降参だ」

 急に諦めたのか武器を捨て、大の字になる紅葉さん。それを見たジークさんは苛立った様子で言う。

「なら、さっさとこの国から出ていくんだな」

「もう、悪い事はしないで下さいね」

「あぁ。そうだな、改心するよ。迷惑かけて悪かったな」

 紅葉さんも改心してくれるそうで良かった。
 
「ジーク様。トワ様。ご無事ですか? 倒せたのですね。流石です。
 トワ様、貴重な回復薬を頂き、ありがとうございました」

 走って出てきたのはリーフィス王女だった。戦闘疲れがあって僕は気づくのが遅かった。

 僕は急いでリーフィス王女に声を掛ける。

「リーフィス王女! まだ来ては行けません。後ろに下がって下さい」

 後ろの方で、バタンと倒れ込む音がしたので振り向く。

「ジークさん!? 大丈夫ですか!? リーフィス王女は後ろに下が……あっ!」

 紅葉さんが片腕でリーフィス王女の首を絞めつけ、もう一つの手で首元にナイフを押さえつけていた。

「バカ共め! 俺がこんな事で諦めるわけねーだろ。散々バカにしやがって、この女の命が欲しけりゃ、土下座して謝るんだな!」

 改心したと思った僕が馬鹿だった。紅葉さんは根から腐っていた。

 少しでも動いたらリーフィス王女の命が危ない。どうすればいいんだ。

「くそぉ! リーフィス王女を離せ! その人は関係ないだろ!」

 紅葉さんはニヤッと微笑み。

「離せ? 言葉遣いと態度がなってないんじゃないか? 王子様?」

「ジーク様! 私のことはいいのです。貴方は王子として、国を……みんなを守って……」

「うるせーよ。人質が喋るんじゃねーよ。ぶっ殺すぞ!」

 ジークさんは。静かに土下座をする。

「……くっ。そ、その子を……離してください。お願いします」

「がははははーーっ。おもしれー」

 ジークさんの頭を踏みつける紅葉さん。

「まあ十分楽しんだし、俺はトンズラさせてもらうぜ」

 リーフィス王女を人質にしながら、ゆっくり少しずつ出口に近づく。

 次の瞬間。

「じゃあな、お姫様を守れなかったダメ王子」

 紅葉さんは持っていたナイフで、リーフィス王女の首をかき切る。

 リーフィス王女からは大量の血飛沫が舞う。ジークさんの悲痛な叫びが城内に響いた。
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