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第二章 王国奪還編
第20話 貿易の街アウラレード
しおりを挟むラタン村を出発して数時間。僕たちは、アウラレードに差し掛かろうとしていた。
グーファーさんが、指を差しながら言う。
「見えました! あれが貿易の街アウラレードです!」
指を差された場所を見ると、そのレンガブロックの高さに驚いてしまう。
さっきから見えていた茶色いブロックがアウラレードのものだったなんて……。
貿易の街と名がつくくらいだ。物珍しいアイテムがあるんだろうと期待してしまう。
「こちらから入れます! さぁ! 行きましょう!」
やたら、グーファーさんのテンションが高い気がする。
遊園地のようなゲートを抜けると、そこには、獣人族《ビースト》や竜人族《リザード》などの、多種族が売店を出店しているようだ。
珍しい物がないか周りを見渡していると、ゲームパッドからメールが来た。僕は確認をする。
《貿易の街アウラレードへようこそ》
《初めてアウラレードにお客様への特典として、【オークション機能】が追加されました。
オークション機能を使用して、更にエタドリの世界をお楽しみ下さい。プレイヤーの皆様の冒険のサポートになれるよう新たな機能も開発中です》
オークション機能が解禁されたらしい。もっと先だと思っていたが、こんな早く解禁されるとは思わなかった。
新しい機能の開発ではなく、プレイヤーたちが帰還出来るようにしてほしい。
メールで問い合わせをした事があるのだが、『現在確認中です』などと返信が返って来た。しかも三日遅れくらいでだ。
オークション機能は、現実にあるオークションサイトと何も変わらない。
ただ、エタドリでは自分で使用しない武器やアイテムなどがオークションにだせる。
みんなが平等に出品出来るように、出品は一人につき一日三品が限度となっている。
だが、ジュエルを使用する事で一日の出品数が最大で五品までに増やすことができる。購入は、何個でも購入できる。
オークション機能を使いこなせばお金持ち……いや、ドリー持ちも夢じゃない。
さらには、アイテムや武器なども購入出来るので、ゲームパッドをぽちぽちするだけで欲しいアイテムなどが手に入る。
僕はゲーム時代の頃、自分でアイテムを生成して、アイテムをオークションに出品し、ドリーをそれなりに稼いでいた実績がある。
稼いだドリーでギルドハウスや家具類を購入したりしていた。
この機能は落ち着いた時に使ってみようと思う。
時間を見るともうすぐ18時になる。今は春なので、すぐに暗くなる事はないのだが、それなりに肌寒くは感じる。
グーファーさんはこの街出身らしい。だから、テンションが高かったり、道に詳しかったのだろう。アウラレードの色々な場所を案内してくれた。
カラオケ店や居酒屋、ゲームセンターまであった。現実世界と何も変わらない景色がどこか懐かしみを感じた。
最近はピリついた空気になる事が多かったのでいい気晴らしになった。
「日が沈む前に泊まれる宿屋を探しましょうか」
僕がそう言うとヒロさんが反応する。
「だねぇ。早くお風呂入りたーい! 汗かいちゃったー」
グーファーさんは、小さく手をあげ、
「自分、寄りたい旅館があるんですがそこでもいいですか?」
「私は泊まれるならどこでもいいよー! 案内お願いしまーす!」
グーファーさんの案内で、還荘という所に着いた。
宿屋というよりかは、旅館だろうか? ログハウス風のその建物は、明かりは強すぎず、落ち着いた外観は高級感を醸し出している。日本の旅館を思わせる。
「ここです。入ってください」
「いらっしゃいませー! なん……」
スタッフの人が何かを言いかけるが、その表情はなぜか驚きを隠せてないようで。そして、
「お兄ちゃん! 久しぶり! 無事だったのね! 良かった」
「カリン! 久しぶりだな! 元気だったか? ずっと、店を任せっきりにして悪かった」
「ううん、そんな事ないよ。お兄ちゃんはお姫様を護衛するっていう立派なお仕事があるじゃない。私の自慢のお兄ちゃんだよ」
「ありがとう。カリンも俺の自慢の妹だ。あ、そうだ、紹介が遅れた。
この方たちは、一緒に冒険をしている、トワさんとヒロさんだ。二人とも心強い味方だ」
カリンさんは、ハーフアップで薄緑の髪色、茶色の瞳の落ち着いた感じの女性だ。
紹介を頂いたので僕とヒロさんは挨拶をする。
「自分がトワです。よろしくお願いします」
「ヒロだよー! カリンちゃんって言うんだ! よろしくね!」
「いつも兄がお世話になっております。口うるさい兄ですが暖かい目で見てあげて下さい」
カリンさんの言葉に、ヒロさんは笑顔で答えた。
「そんな事ないよ! グーファーさんにはいつも助けて貰ってるよ」
みんなで笑っていると、ルナさんがカリンさんに一礼をし、
「カリン様、お久しぶりですね。お元気そうで何よりですわ」
「お久しぶりです。ルナ王女もユナ王女もお元気そうで。長い旅でかなりお疲れでしょう。
代金は兄から貰いますので、お気になさらず、ゆっくり休まれてくださいね」
「お金取るのか!?」
グーファーさんのツッコミも虚しく終わり、みんなと冒険の話などをした後、カリンさんは僕たちをお部屋まで案内してくれた。
部屋は男性組と女性組で分かれ、明日の朝八時に部屋の前で待ち合わせする事になった。
______
僕とグーファーさんは部屋に入ると、疲れを癒すべく、早速温泉に入っていた。
ここの旅館は露天風呂になっている。外は砂利敷きの庭で、数カ所に木が植えてあり、クリスマスツリーのような木には、薄暗く光る、装飾品がついてある。
「いい雰囲気ですね。とても落ち着きます。この優しい香りは木の匂いですかね?
まるで、森の中にいるようです。こんないいお風呂に入れるなんて幸せです」
「ありがとうございます。木の種類とか、雰囲気作りや光の演出には拘ったんですよ。分かって貰えたなら嬉しいですね」
「久々にこんなに歩いて疲れていたのですが、癒されました。ところでグーファーさん。
少し疑問に思ったのですが、グーファーさんはここが実家なんですよね? 失礼ですが旅館の跡は継がなくてもいいんですか?」
「そうですよ。ここが実家っす。元々はこの旅館の跡を継がなければならなかったんですが自分は、誰かを護れるように強くなりたかったんです。
それに適したのが護衛の仕事だったんです。それなのに親父に『お前のような不器用なやつには無理だ。
諦めてここを継げ!』などと言われ、頭にきて喧嘩して家を出たんですよ。
まあ、親父は自分が出てから数年で病気で亡くなりましたが」
「そうだったんですか。お父さん亡くなられたんですね。すみません思い出させてしまって」
「いいんですよ。後からカリンから聞いた話ですが、親父は自分と一緒に旅館の仕事をしたくて、ここを継げ! って言ってたらしいんですよ。不器用なのはどっちだって話ですよね」
グーファーさんの事を少し知れた気がする。もし、グーファーさんが旅館の跡継ぎになっていたら、こうして出会える事はなかったのだろう。
僕はお父さんとは小さい頃に遊んでもらっていた記憶はある。
小学生中学年くらいになると、『男なら大切な人を守れるくらい強くなれ。
負けてもいい、下を向くな。歩むのを止めるな。歩みを止めない限り人は負ける事はない』と、当時小さかった僕には理解はできなかった。
お父さんはいつも『お父さんの名言集の一つだ』良く覚えておくようにと。訳の分からない事ばかり言っていた。
単身赴任ばかりで顔を合わせる機会が少なかったが、厳しくも優しいお父さんだった。
そんな事を思っていると。
「すごーい! 綺麗な場所だねぇ。素敵!」
女性組がいる、隣からヒロさんの声が聞こえてきた。
「そうですね。今も昔も変わらず、お部屋もお外のお庭も手入れが行き届いていて気持ちがいいですね。ユナもしっかり洗うのよ」
「はい。ルナお姉様」
「あー! ユナちゃんが喋ったー! 私ともお話ししよう!?」
「ユナは、王国でプレイヤーに恐怖心を抱いていまして。本当はお話しするのが好きでよく笑う子だったのですが。ユナ、この人たちは大丈夫ですよ。怖い事なんかしません」
「……はい」
「そっかぁ、びっくりさせたね。大声出してごめんね。今日は一緒にお風呂に浸かって一緒に寝ようね」
露天風呂だからか、声が壁に反射して響くように聞こえてくる。
「ルナちゃんって胸大きいね! 着痩せするタイプ? 触ってもいい?
答えなくても触るけど! ……お姫様ボディだぁ。凄くスベスベしてる!」
「きゃっ!? ヒロ様やめて下さい! くすぐったいですわ。お返しです!」
聞いてはいけない声が聞こえてくる。ふと、グーファーさんを見ると。
鼻血を出しながら、今にも天に昇りそうなグーファーさんの姿があった!
「ぐ、グーファーさん!? 鼻血出てますよ! 大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
「大丈夫ですよ……気にしないで下さい。ぐふふ」
「あー! 乙女の秘密を盗み聞きするなんて、トワ君最低!」
「えぇ!? 僕ですか!? 理不尽です! じゃあ僕たちはもう出ますねぇ! ごゆっくりです!」
僕はグーファーさんを抱え、急いでその場から去った。
______
お風呂から出てから数時間。
僕のゲームパッドの通知音が鳴る。
「なんだろう。この時間に」
ヒロさんからだった。話したい事があるから少し会いたいとの事だった。
指定された場所に着くと、そこには私服姿のヒロさんが牛乳瓶を片手に座っていた。
「あ、トワ君。急に呼び出してごめんね。ちょっと話したい事があって」
「いえ。なんでしょうか?」
ヒロさんのその声は少し、元気がなくどこか苦しそうに見える。声のトーンも抑え気味だ。
「ルナちゃんとユナちゃんと色々お話して改めて思ったんだけどね、ルナちゃんたちの故郷を取り戻してあげたい気持ちが強まったんだ。
約束とか復興しようとは言ったものの、本当にできるのか怖くなったり不安な気持ちになるんだ。
でも、誰かの当たり前を奪って悲しむ人が出てきてほしくなくて……」
現住人の人からしたら当たり前の日常を、奪ったのは僕たちプレイヤーだ。ヒロさんの言いたい事は凄く分かる。
「ほんとに、ヒロさんは優しい人ですね。……とりあえずやってみよー!」
「……え? トワ君どうしたの急に」
「初めて出会った時に、ヒロさんが言った言葉ですよ。
あの時僕もレベル差もありましたし、戦闘をまともにしてなかったので不安でしたが、ヒロさんから元気をもらって今があるんです」
「そっか……あんな言葉を覚えててくれたんだね。やっぱり、私の周りの人には笑顔でいてほしいよ。
そして、あの二人には心の底から笑って欲しいんだ。
今はこんな状況だし仕方ないんだけど、無理に笑ってる気がしてね」
「そうですね。無理をしてるとは僕も思ってました。今は戦闘は避けられず、傷つけあうと思います。
この世界の全てとはいいません。作りましょうよ。いつかこの世界のみんなが幸せを願える世界を。みんなが心の底から笑い合える世界を。
そして、みんなが手と手を取り合える世界を。今は自分の周りの人たちからでいいと思いますよ。
笑っていれば、自然と人は集ってきますよ。それが小さな一歩になると思います。ヒロさんならやれますよ。少しずつでもいい、時間はまだたっぷりあるんですから」
「そうだね。ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。よし! メソメソ下を向いてばかりじゃ、私らしくない! 気持ちを切り替えて頑張るぞー! 無理とは思わず、とりあえずやってみよー!」
「はい。やってみましょう。僕も頑張ります」
「じゃあ、これは話を聞いてくれたお礼ね」
ヒロさんはそう言いながら立ち上がり、頬を赤く染めながら僕にゆっくり近づくと。僕に抱きつき、頬に、唇を触れさせた。
「……え…?」
いきなりの出来事に僕が戸惑っていると、ヒロさんは『ありがとね。明日からもよろしくね』と、言いながら、素敵な笑顔を浮かべながら、自分の部屋へと戻っていった。
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