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第二章 王国奪還編
第19話 ラタン村の悲劇
しおりを挟むウガルンダを離れ数時間。僕たちはラタン村に辿り着いた。
ラタン村はたくさんの緑に囲まれている、森林の途中にある小さな村だ。
先に到着していたザーハックさんが、村長らしき老人と話をしている。
目に映るのは、木で作られた家は半壊状態。畑や土は何かに抉られた形跡や焼け焦げた跡もある。
「何かあったのかな?」
「心配ですわ」
不思議そうに話すヒロさんとルナさん。すると、目があった防衛警備団の男性がこちらにら近づいてくる。
「君たち、話がある聞いてくれ」
「なんでしょうか?」
「ここの村長から聞いた話だが、ルルード大森林に生息するモンスターが突如凶暴化し、暴れだしたらしい。
その影響で土砂崩れが起きて、村が困っているらしいんだ」
「……そうなんですか。それは大変ですね。モンスターを討伐した方がいいですか?」
「いや、それは我々防衛警備団が引き受ける事になった。
君たちは休憩が終わったらアウラレードへ進んでほしいとのことだ。
小さいがそこの宿で無料で休ませてくれるから向かいたまえ。よろしく頼んだよ」
「分かりました。気をつけて下さいね」
そういうと、その男性は一礼しその場を去った。
「何でそんな事を私たちに言ったんだろう?」
「多分ですが、気にせず進めって事じゃないですかね? 先に進む人が少なくなれば、戦況はこちらが不利になりますし」
「さっすが、トワ君! あったまいいー!」
「いや、褒められるほどのことではないと思うのですが……」
「まあとりあえず、小屋に入らせてもらいましょう。雨も降ってきましたし」
僕がそう言うとみんなで、小走りで小屋へと駆ける。
「失礼しまーす」
その小屋は外見も中身もお世辞にも綺麗ともいえる状態ではなかった。恐る恐る中の方へ入っていく。
そこにいたのは、小さい子どもや老人の方が身を寄せ合いながら、一箇所に固まっている。
薄暗いその部屋は真ん中に一本のロウソクがポツンと置いてある。
突如、一人のお爺さんが話しかけてくる。
「すまんねぇ、若い子たちよ。ここの村は見ての通り何もなくってねぇ。
こんな所じゃ休まれないだろうが、ゆっくりしていっておくれ」
「いえ、こちらこそ急にお邪魔してすみません。お言葉に甘えて休ませていただきます」
僕たち五人は老人たちに近づくように座る。子どもたちは、『お腹すいたよぉ』、「寒いよぉ」と呟いている。
近くにウガルンダがあり、少し進めばアウラレードがある。なのに何故ここに住み続けるのだろうと疑問に思ってしまう。
「フラッシュライト」
突然ルナさんが魔法を唱える。すると周りがパァッと明るくなった。
老人たちがルナさんの姿を見た途端、慌てながら言った。
「これは、ルナ第一王女! 挨拶が遅れて申し訳ございません。大きくなられて」
「ありがとうございます。わたくしがここまで成長できたのも、皆様のおかげですわ」
その魔法の光を見て、子どもたちが反応する。
「この光、お姉さんが出したの? 凄いね!」
「明るいねー」
「はい、魔法って言います。魔法は色んな事に使用できて、便利ですよ。いつか使えるようになるといいですね」
ルナさんは優しく微笑みながら言う。
「その魔法で僕たちのお家壊したり、パパたちに酷い事するの?」
悪意のない子どもたちの言葉に周りが静まり返った。
「こ、これ! す、すみません。悪気はないんです!」
老人たちは子どもたちを叱りつける。子どもは正直だなと思いながら。
「大丈夫ですよ。こちらこそすみません。何かあったのですか?」
外の感じを見るとなんとなく察しはつく。これもプレイヤーの仕業なんだろう。すると、一人の男性の老人が話をしてくれた。
思った通り、プレイヤーが破壊していったらしい。この出来事は十日くらい前の事だそうだ。
こんな小さな村にまで手をだすなんて酷すぎる。
襲撃がある前は、この村は作物がよく育ち、お米や野菜などが豊富に作れていたらしい。
水も井戸から汲み取れるので生活には困る事はなかったと言う。
そのような面影は今は見えないけど。
「トワ君、一日でも早く新帝国ドミノデスからルルード王国、アーティダル王国を取り戻そうね。
そして、ラタン村を復興させようよ! 私たちプレイヤーがやってしまった過ちを繰り返さないために。
これ以上悲しい思いをする人が増えるのは見てられないよ」
「復興! いいですね。これ以上の被害は出さないように必ず食い止めましょう」
その言葉に、グーファーさんは胸に手を当てながら口を開く。
「ルナ様、プレイヤーでもトワさんやヒロさんのように優しい方もおられてよかったですね。
信頼出来る仲間がいるってのは本当に心強いですよね」
「そうですね。こんな大変な事に巻き込んでしまったのに嫌な顔せず、こうして私たちを助けて頂いています。心から感謝申し上げます」
「私たち友達なんだから、当たり前だよ! 友達が困っていたら助ける! それに前も言ったと思うけど、元々はプレイヤーが悪いんだからね」
「お友達? 何ですかそれは?」
「んーっとねぇ。お友達はね。
家族じゃないけど、家族のように大切な人。一緒にいて楽しいと思える人。一緒に笑い合える人。
時には喧嘩するけど、最後は仲直り出来る人。心から信頼し合えて本音でぶつかり合える人の事だよ」
「うふふ、それでしたら、わたくしたちはお友達ですね。ーー『お友達』、いい響きです」
しばらくして、小さな窓から外を覗くと、雨が止んでいた。
「雨が止んだみたいですね。そろそろ行きますか?」
「うん!」
「はい!」
僕はゲームパッドから、食料や毛布など生活に使えそうな物を取り出し、
「数は少ないと思いますが、こちらを使って下さい」
「おぉ……ありがとうございます」
「わーい! 食べ物だぁ」
「お邪魔しました。戦いが終わったらまた寄らせて頂きますね」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! ばいばーい!また来てね!」
「うん! 必ず来るよ」
約束してラタン村を後にした。
______
ラタン村を出発してアウラレードへ向かっている途中。ヒロさんが、僕を見つめながら言う。
「トワ君って、普段あまり喋らないけど、子どもたちの前だと口数が増えるよね」
「まあ、小さい頃から妹の面倒を見ていたもので。今はあんまり口を聞いてくれなくなりましたけどね」
「そうなんだー。トワ君ってお兄ちゃんだったんだ。妹ちゃん何歳?」
「一つ下の14歳ですよ」
「あー難しい時期だねぇ。照れてるんだよきっと」
「それだけなら、いいのですが……」
「トワ様は妹さんがいらっしゃるのですね。いつかお会いしてみたいです」
「名前は琴葉って言うのですが、琴葉はゲームしないんですよね。僕の事を不気味とかキモイって言ってきますし」
「あはは。琴葉ちゃんかぁ、ログアウト出来るようになったら、誘ってみてよ! 私も会ってみたい」
「まあ、ウザがられると思いますが言ってみますね」
楽しく思い出話もはさみながら進む。
そして、ルルード大森林の入り口を通り過ぎようとしたその時だった。森の方から甲高い音楽が聴こえてきた。
その音楽は男女のデュエットのようなコーラスに加え、バイオリンなどを弾く音も聞こえている。
………この音は……間違いない。音奏魔獣メロディアスが自分や味方にバフを付与する時の効果音だ。
「トワ君。やっぱりこれって……」
「間違いないと思います。この奥にいますね、メロディアスが。レベル的にも今は無理かもしれませんが」
「そうだね。討伐しないといけないね。でもやれるだけ、やってみよー!」
「この音の正体知っているんですか?」
不思議そうにグーファーさんが訪ねてくる。
「はい。僕たちの推理が正しければですがね」
「そうなんですか。これだけで分かるなんて凄いですね」
「えっへん! 凄いでしょ!」
「メロディアスは王国を取り戻した後に討伐しましょう。とりあえず今は先に進むのを優先しましょう」
「はい! ここまでくれば、アウラレードまですぐですので」
僕たちはさらに森林を進むのであった。
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