上 下
49 / 50
第4章 悪夢の王国記念日編

第10話 残された者たち

しおりを挟む

「楽しませてやるから、お前らも全力でかかってこいよぉ!?」

 アクィラはバロンとレオンの間に素早く飛び込み、鎌を力強く振り下ろしました。刃がバロン侯爵の武器とぶつかり合い、鋭い金属音が響きます。その後、アクィラは一瞬で距離を取り、ニヤリと笑いました。

 床に転がっているフィーダーが視界を邪魔するのを感じたのか、アクィラはフィーダーの襟を掴み、その体を周囲の空間に力強く投げ込みました。

「おい! もう一人の無能もさっさと中に入れ! 戦闘の邪魔だ!」と大声で叫びます。

 すると、玉座の後ろから「まったく、人使いが荒い奴だなぁ」とぼやきながら、一つの仮面が空間に入っていきました。仮面の正体は、パルスの本当の姿であるようです。

 その頃、ビーリスはグレイスの目線に合わせ、優しく告げました。「いいですか、グレイス。この場は危険です。決して離れないでくださいね」

 グレイスは力強く頷き、「分かりました、お父様」と応じました。

 ビーリスは忠告を終えると、すぐに空間へ向かって走り出しながら叫びました。

「レオン伯爵、バロン侯爵! リトニア国王の護衛は私に任せて、お二人は戦闘に集中してください!」

「ビーリス公爵! 国王様をどうかお願いします!」

 レオンの言葉に応えるようにビーリスは短く頷き、意を決して空間に飛び込みました。

「あ? 虫ケラ一匹に何ができる?」

 アクィラが冷笑を浮かべて挑発すると、レオンが怒りを込めて言い返しました。

「公爵を虫ケラなどと言うな。何故、リトニア国王を狙う?」

 アクィラは興味なさげに肩をすくめました。

「俺様たちのボスが、あの虫ケラの王に用があるんだとよ。細かいことは知らねぇが、ボスの役に立てば俺様もご褒美として力を与えてもらえるんだ。まあ、本当はハンターギルドの連中にここで暴れさせ、魔道具で城ごと吹き飛ばす予定だったのにな。それなのに簡単に懐柔されるわ、うちの無能どもはなんの役にも立たねぇしよー!」

 その時、グレイスの姿が視界の隅に映り、ゼルは声を張り上げました。

「グレイス嬢ーー! 戻ってきてください!」

 突如、ゼルの叫びが大広間に響き渡りました。

 なんということでしょう、グレイスが自ら空間の中へと飛び込んでしまったのです。その直後、その空間は静かに消えてしまいました。

「グレイス嬢!? どうして!?」

 バロンが気づいた時には既に遅く、動くこともできませんでした。

「んあ? 誰か空間の中に入ったのか? まったく気づかなかったぜ。まあ、虫ケラが一匹や二匹増えたところで問題ねぇだろう」とアクィラが嘲笑を浮かべました。

「グレイス嬢ーーーー!」

 ゼルは必死にグレイスを追おうとしますが、足がもつれてその場に倒れ込んでしまいます。

 メルジーナはゼルに近づき「大丈夫?」と声をかけました。

「俺様は問題ない。でも、グレイス嬢が!」
「ビーリス公爵が一緒にいるから大丈夫だ。君たちは黙って見てるがいい」とソフィアが冷たく言いました。

「ったくー、耳障りなガキだなー。ワープゾーンが消えてるんだから追いつけるわけねぇだろ。お前らの主人が連れ去られたってのに、案外落ち着いてるな? 心配はしねぇのか?」

 バロンは冷静に言い返しました。「国王様とビーリス公爵が、お前たちのような者に負けるはずがないのでな」

 レオンも続けて「その通りです。我々はここであなたを倒します」と、鋭い視線でアクィラを睨みました。

 アクィラは楽しげに笑い、「いいねぇ。俺様の任務はもう終わってるが、せっかくだから少し遊んでやるよ。いくぜ!」と叫び、勢いよく飛び上がると、力強く「はあぁぁぁ!」と声をあげながらレオンに攻撃を仕掛けました。

 レオンは瞬時に剣に炎を纏わせ、アクィラの攻撃を弾きます。

 その隙を見逃さず、バロンはアクィラのみぞおちに膝を打ち込みました。

 しかしアクィラは微動だにせず、不敵な笑みを浮かべて「効かねぇな」と呟きました。

 アクィラはそのまま鎌を振り回し、紫色の風を巻き起こしてバロンを吹き飛ばしましたが、バロンは見事に体勢を立て直して着地しました。

「魔力を奪われ、麻痺した体でここまで動けるとは驚いたぜ。だが、これで終わりにしてやる。最後に俺様の必殺技を拝ませてやろう!」

「それは光栄だ。では、我々も力を合わせよう。レオン伯爵、準備はよろしいですかな?」

「えぇ、もちろんです」

 アクィラは鎌を高速で回転させると、二人は魔力を高め、迫る戦闘に備えました。バロンとレオンはお互いの剣をクロスさせ、そこから溢れる魔力でアクィラを包囲するように、炎と闇のオーラが一周します。二つの魔力が混ざり合い、黒い炎が燃え上がりました。

「あの構え……!」

「ついに来るわね……!」

 ゼルとメルジーナはその構えに見覚えがあるようです。

「君たち、本当は元気だろ?」とソフィアは疑問を投げかけます。

「もう逃げ場はないぞ」とバロンが言い放つと、アクィラは「逃げるかよ! これが最後の一撃だ、『デッドエンド・パープルストーム』!」と叫び、鎌から紫色の竜巻を放ちました。凄まじい勢いで渦巻く紫の嵐が二人に向かって襲いかかります。

「受けてみろ!」とレオンが叫び、バロンが続けて「覚悟しろ!」

「「貴族の絶炎! 黒炎の支配ドミネーション・ブラックフレイム!」」

 二人が放った赤黒い火球は、大広間の半分を覆うほどの巨大な炎となり、まっすぐにアクィラの竜巻へと突き進みました。

 紫色の竜巻と赤黒い炎が大広間で激突し、爆発的な衝撃波が辺りに響きます。

「吹き飛ばしてやるぜ!」

 アクィラはさらなる力を込めて紫色の竜巻の勢いを強め、火球の勢いを押し返し始めます。

「いいねぇ! 手応えがあるぜ! もっと俺様を楽しませてみせろ!」

「レオン伯爵、魔力をさらに上げられますかな?」

「もちろんです!」

 二人は再び魔力を高め、片手を前に突き出して竜巻を力強く押し返し始めました。

「「はぁぁぁぁーーーっ!!!」」

「な、なにぃっ!? この俺様が押し負けているだとぉ!?」

 アクィラは鎌を回転させ、威力をさらに上げますが、二人の放った黒炎の火球は徐々にアクィラに迫っていきます。

 ついに彼は動きを止め、鎌を後ろに投げ捨てると、楽しげな笑みを浮かべました。

「はははっ! お前たち、なかなかやるじゃねぇか! いいぜ、今回は俺様の負けを認めてやる。だが、俺様がさらに力を得た時には――それが貴様らの最期だぁぁぁ! はははっ!」

 黒炎の火球がアクィラに触れると、激しい爆風と共に大広間は黒煙に包まれました。やがて煙が晴れると、そこにはアクィラが立ったままの姿で現れました。

「なにっ!? この一撃が効いていないのか!」と、バロンは驚愕の表情を浮かべました。

「確かにいい威力だったぜ。だが、俺様を倒すにはまだまだ足りねぇな。今日はお前らのコンビネーションに免じて見逃してやる。――あばよ!」

 アクィラは再び鎌を拾い上げると、バロンたちを大きく飛び越えて、出口へと向かって消えていきました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

処理中です...