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第4章 悪夢の王国記念日編

第5話 ビーリスと古封異人

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 ビーリスとスパイクの決闘が終わってすぐのことです。それぞれの人物に化けた古封異人たちは、ビーリスのプライベートルームに集まっていました。そして少し遅れて、シャーリーに変装しているパルスも合流します。

「私の方から、急ぎ伝えておきたいことがあります」

 重々しく切り出したのはフィーダーでした。

「何でしょう?」

「これは私が学園長として、ギルドマスターとの打ち合わせのため、ギルド会館に滞在していた時の出来事です」

 フィーダーはギルド会館の階段を登ろうとしていた時、突然背後から声をかけられました。振り返ると、そこにいたのは魔王であるディアルバスでした。その異様な気配に瞬時に警戒を強めます。

「どうされました?」フィーダーは学園長として、冷静さを保ちながら問いかけました。

「君って……普通の人間じゃないよね? もしかして――古封異人ってやつ?」

 その直球の質問に、フィーダーは一瞬驚きを隠せませんでしたが、すぐに平静を装い、慎重に言葉を選びます。

「さぁ? 何のことを仰っているのか、さっぱりです。それよりも、あなたこそ人間ではありませんよね? この禍々しい魔力……ただの魔族とは思えませんが?」

 ディアルバスはニヤリと笑い、言葉を返します。

「うん、僕はただの魔族じゃない。世界で一番強い魔族さ! それより、古封異人って人間に取り憑いて操るの? それとも特定の人物に変身するだけ?」

 フィーダーは冷静に答えを探りながら、彼の狙いを測ります。

「それを知って、あなたに何の得があるのですか?」

 ディアルバスは興味深そうに目を細めました。

「ただの好奇心さ。僕って、いろいろ知りたくなる性分なんだよ。教えてよ、ねっ?」

「教えるわけないでしょう? ここで叫んで、あなたを追い出すこともできるんですよ?」

 フィーダーは冷ややかに微笑んでそう告げると、ディアルバスは優しい笑みを浮かべ、軽く肩をすくめながら答えました。

「別に構わないよ。でも、君の命がなくなるかもしれないけどね」

「随分と大口を叩く魔族のようですね」

 フィーダーは余裕を保ちつつ続けました。

「私の魔法は、あなたのような魔族を消し去ることができますよ? ですが、今は忙しいのです。今回は特別に見逃してあげますから、命が惜しければ今すぐ消えなさい」

「へぇ、面白いこと言うねー。やってみなよ」

 ディアルバスは軽く笑いをこぼしながら問いかけます。

「じゃあ、君たちの目的は? 僕たちは古封異人が魔族の敵かどうか、気になってるんだ」

 フィーダーの瞳が鋭くなり、冷たく言い放ちました。

「人間も魔族も敵です。人間を滅ぼした後は……次はあなたたち魔族です。覚えておくといいでしょう」

「アルバさーん! トイレはそっちじゃないですよー!」

 突然、ニアが明るい声でディアルバスに話しかけます。ディアルバスはニヤリと笑い、返事をしました。

「おぉ、そうだったのか。ニアッチさん、ありがとう! ギルド会館の道に迷っちゃってね。すぐ行くよ!」

 ディアルバスは軽く手を振ってそう言いながら、フィーダーに再び目を向けました。

「では、失礼します」

「最後にもう一つ、いいかな?」

「しつこいですね。何ですか?」

「アリア・ヴァレンティンとその友人に手を出したら、容赦しないよ。それだけは忘れないでね」

 フィーダーは眉をひそめながら尋ねます。

「あなたとアリアさんのご関係は?」

「彼女は……僕の獲物だから」

 フィーダーは小さく息をつき、冷たく答えます。

「肝に銘じておきます」

「そうして彼との会話は終わりました。あの男……ディアルバスは、魔王クラスと言っても過言ではないでしょう」

 フィーダーの言葉に、ビーリスは眉間にしわを寄せ、しばらく考え込みました。

「厄介な問題が出てきましたね。だが、今は魔族の相手をしている場合ではありません。王国記念日についての話し合いが最優先です」

 パルスが冷静に返します。

「それで? 国王を殺すの? それとも拉致?」

「私としては、王が素直に従ってくれ、記憶を女神に譲渡してもらうのが最善です。殺したり拉致したりすると、後が面倒ですから」

「確かにそうだね」パルスはうなずきます。

 フィーダーは少し考えて言葉を使います。

「しかし、素直に従わなければどうしますか? 命を奪うか、拉致するしかありませんが」

 その問いにビーリスは溜め息を吐いて、言葉を返します。

「近いうちにリトニア国王と話す機会があります。その場で再び交渉します。それでも拒否されるなら……命を奪うか、拉致するしかありませんね。」

 フィーダーは無言でうなずき、冷徹に言い放ちます。

「分かりました。それでよろしいかと」
「了解」

 ビーリスは「あ、そうでした」と軽く言い、話を続けました。

「確認したいのですが、女神の能力を発動するには、生きている人物と死亡している人物、どちらがより迅速で適切ですか?」

 ビーリスの問いにパルスが答えます。

「普通に考えれば、生きている方が確実だろう。死んで間もないなら問題ないが、時間が経ちすぎると、記憶の断片が不鮮明になると聞いているし」

「なるほど。ありがとうございます」ビーリスは深くうなずき、冷静に続けました。

「では、リトニア国王が女神に会うことを拒否した場合、拉致する方向で行きましょう。私の作戦はこうです」

 ビーリスは冷静に自らの計画を説明し始めました。

「まず、私の能力で貴族たちを麻痺させ、幻覚を見せます。その混乱の中、ハンターギルドに依頼して暴動を起こしてもらい、その間に古封異人のみなさんがリトニア国王を拉致します。そして、女神のもとに連れて行き、記憶を差し出させる。もしも、それでも拒むようであれば……悲しいですが、殺すしかありません」

「いいんじゃない? もし戦闘になっても、女神様が戦闘タイプの古封異人を寄越してくれるって言ってたし」

 フィーダーは短く応えます。

「私はそれで構いませんよ」

 ビーリスは最後の注意を促します。

「ハンターギルドの者たちは、あなたたちの存在を知りません。決して彼らに姿を見られないよう、慎重に行動してください」

「分かってるさ!」

 パルスが自信ありげに答え、フィーダーも静かにうなずきます。

 その時、突然ドアが「ギィッ」と不気味な音を立てました。

「誰ですか!?」

 フィーダーは瞬時に杖を構え、音の方に向けました。

 緊張が張り詰める中、ビーリスが冷静に観察し、静かに言います。

「魔力は感じません。ただの風でしょう。この屋敷も、何百年も経っている古い建物ですからね」

 フィーダーはその言葉に少し肩の力を抜き、頷きました。

「では、作戦通りに進めましょう。皆さんの成功を祈ります」

 こうして、ビーリスと古封異人たちの密会は静かに幕を閉じたのでした。
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